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金欠(前編)

 金がない。


 情けないが、朝起きて一番に頭に浮かんだ事だ。


 昨日のデートは最高に楽しかったなあ。

 でも、ティアーヌの武器を買ってやる事が出来ないなんてなさけねー。


 落ち込んだ気持ちで天井を眺めていると、フィーナの顔が目の前に現れ、優しくキスをしてくれる。


「おはようございます。ご主人様」


 満面の笑顔のフィーナには本当に救われる。


「ご主人様?」


 何も答えず、じっと見つめていた俺に心配そうな顔で聞いてくる。

 フィーナを抱きしめると、柔らかい体の感触と共に甘い香りが鼻をくすぐる。

 いきなりのことに驚いた様子だったがすぐに頭を撫でてくる。


「フィーナ。いつもありがとう」

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと心配になっただけだ」

「私たちがいます。何かあれば言ってください」

「わかった。朝食を食べたら相談するよ」


 フィーナが体を離すとリゼットが軽くキスをしてくる。


「大丈夫? ご主人様」

「ああ、大丈夫だ。リゼットもいつもありがとう」


 リゼットは心配そうに俺の額に手を当てた。


「大丈夫だ。熱はない」


 リゼットの態度に苦笑してしまう。

 ティアーヌは押し付けるようなキスのあと 頭を抱えるように抱きついてくる。


 うっぷ。


 大きな胸に埋まるのは気持ちいいが息苦しい。

 いつまでも離しそうにないので無理やり引き剥がす。


「ご主人様。大丈夫かにゃ?」

「ティアーヌの胸で窒息死するところだったがな」

「ごめんにゃさい」


 照れた顔で舌をぺろりと出した。


「ティアーヌもこれから頼む」

「まかせてにゃ」

「水と火は俺が用意するから、フィーナとティアーヌは朝食の準備をしてくれ」

「あたしは何するの?」

「リゼットには朝の相手をしてもらう。さすがに朝から全員は無理だから一人づつ順番にすることにした」

「私が変な事、言っちゃったからですか?」


 フィーナが心配そうな表情で俺の顔を覗きこんでくる。

 少し恥ずかしげにもじもじしているのが可愛い。


「気にするな。俺も朝だから遠慮してたんだ。

 あっ、リゼットは大丈夫か? 嫌だったらティアーヌに相手をしてもらうが」

「にゃーはしたいにゃ」


 ティアーヌは嬉しそうに俺の胸板をなでる。


「もう! ご主人様はそう言うところは意地悪ね」

「じゃあ、いいんだな?」

「言わせないでよ……」


 そう言いながらリゼットは体を寄せて腕にしがみついてくる。


「水も火も私たちが用意するので、ご主人様はゆっくりしてて大丈夫ですよ」

「そうか、すまないな」

「あたしとティアーヌも水と火の魔法を覚えた方が良さそうね」

「あまりお金に余裕がないのだか……」

「初級呪文なら、ご主人様に教えてもらえばすぐに使えるようになるから大丈夫よ」

巻物(スクロール)で覚えたから教えかたなんて分からないぞ」

「目の前で使ってもらえれば大丈夫。ご主人様ほど早くは覚えられないけどね」

「わかった。時間があるときに教えよう」

「では、私たちは朝食の用意をしてきます」


 フィーナとティアーヌは寝室から出ていくと、リゼットの体に手を回す。

 リゼットは照れた顔で嬉しそうにキスをしてきた。


……


 美味しい。


 食卓に並べられた色とりどりの料理に舌鼓を打つ。

 ティアーヌの作ってくれた料理は想像を超えていた。


「ティアーヌは料理が上手いんだな。意外だ」

「にゃーの評価が低い気がするにゃー」


 家にあった食材でこれほどの料理ができたのか不思議に思うほどだ。


「すまんすまん。これからも美味しい料理を頼む」

「まかせてにゃ。これでも花嫁修業はまじめにやってたにゃ」


 ティアーヌは誇らしげな顔で胸を叩くと、大きな胸がぷるんと揺れる。

 かわいいというかやらしい。

 揉みたくなってしまう。


「さて、みんなにこれからの事を相談したい」

「お金についてね?」

「それもあるが、訓練場なども定期的に行った方がいいと思うんだ。

 ほかにも、魔法院とか教会なんかにも行ってみたいしな」

「教会かにゃー」


 ティアーヌは困った顔で耳を伏せる。


「ティアーヌは教会は行かないほうがいいかもな。

 要するに強くなるために鍛えたほうがいいと思うんだ」

「私も強くなってご主人様の力になりたいです」

「フィーナは今でも十分に役に立っているがな。

 パーティーとしての連携も考えたほうがいいだろう。

 リゼットはどういう分担がいいと思う?」

「そうね。私は召喚しかできないから後衛なのは決まっているわね。

 ティアーヌも今のところ武器もないし回復役だから後衛かしら。

 そうなると必然的にご主人様とフィーナが前衛を務めることになるわね」

「俺はともかくとしてフィーナの防御力が気になるが大丈夫か?」

「私は大丈夫です」

「戦闘センスがいいし、動きが機敏だから攻撃を当てられることなんてそうそう無いわよ」

「しかし、当てられたらダメージが大きいんじゃないのか?」

「心配ならご主人様とティアーヌの防御魔法をかければいいのよ。

 ご主人様はフィーナのことを過小評価しすぎね」

「評価はしている。ただ怪我して欲しくないだけだ」

「心配していただけるのは嬉しいんですが、私はご主人様の力になりたいんです」


 フィーナは両手をギュッと握りしめ真剣な眼差しで俺に訴えかけてきた。


「すまない。少し慎重になりすぎた」

「いえ、ご主人様は私の事を考えてくれているので嬉しいです」

「にゃーがいるから怪我しても大丈夫だにゃ」

「じゃあ、前衛はご主人様とフィーナの二人。後衛はティアーヌと私の二人で決まりね」

「それで行こう。ならフィーナも一緒に剣の訓練場には行ったほうがいいな」

「はい」

「それから、どれくらいの間隔で依頼をこなした方がいいんだ?」

「依頼期間と疲労度合いによる様だけど、大体三日間あけるらしいわよ」

「そうなのか?」

「ドラゴンファングと風の射手はそうしてるって言ってたわ」

「いつの間に聞いたんだ?」


 いつも一緒だったから、そんな暇があるようには思えない。


「ご主人様がいないときにね。

 二つのチームは休む日を合わせてるみたいだから、あたしたちも合わせた方がいいかもね」

「そうだな。ジョゼットに訓練場で剣を教えてもらう約束もしているしな」

「ご主人様こそ、いつそんな約束をしたの?」

「この間一緒にでかけた時に、ちょっとな……」

「ご主人様と女剣士が森の中で発情してた時のことかにゃ?」

「「発情!?」」


 フィーナとリゼットが驚きの表情で声をハモらせる。


「ちょ、おま」

「ご主人様はジョゼットと外でエッチなことをしてたんですか?」

「ご主人様は根っからの女ったらしなのね」

「いや、してないから! 俺は断じてジョゼットとは何もしてないぞ」


 突然の告白に顔の前で手をバタバタとさせて慌てふためいてしまう。


「焦っているご主人様はかわいいにゃー」

「ほんとね」

「仮にエッチな事してても私たちは何もいいませんよ」


 三人ともクスクスと笑っている。

 ちくしょう。

 からかいやがって。

 後でお仕置きしてやる。


「ごほん」


 わざとらしく咳払いをして話を変える。

 恥ずかしさで顔が少し熱い。


「今日は依頼を受けるぞ。休みを合わせると言ってもお金にあまり余裕がないからな」

「お金なら盗賊のアジトで手に入れた宝石がありましたよね」

「あれは、本当に困ったときにだけ使う。最後の手段だ」

「あたしのダンジョンに戻れば、そこそこお金があるわよ」

「ありがたいが甘えたくない。今の自分達できちんとお金を稼げるようになりたいからな」

「いい心がけね」

「ご主人様はえらいにゃー」

「デーモンロードとの戦いの報酬が出てんるじゃないですか?」

「ああ、そう言えば受け取ってなかったな。貰える知れないから確認してみるか」


 早速、装備を整えて冒険者ギルドに向かう。


「報酬が出てるか確認してほしい」


 冒険者ガードを出しながら受付の女性に聞くと、すぐに調べてくれる。

 魔法の道具によって依頼内容の管理も簡単に行えるらしい。


「報酬は……まだ、出てないですね」


 ちょっと期待していただけにガックリと肩を落とす。


「あっ! 領主様よりすぐ来てほしいと、言伝(ことづ)てがあります」


 う~む。

 お金を稼がなきゃいけないし、領主と話すのは疲れるしあまり行きたくない。

 すがるような目でリゼットを見てしまう。


「早めに行った方がいいでしょうね」


 突き放されてさらにガックリと肩を落とす。


「私が行ってしましょうか?」

「さすがに、そういうわけにはいかないだろう」

「にゃーが断ってくるにゃ」

「やめてくれ」


 本当に断りに行こうとしているティアーヌの腕を掴んで引き止める。

 仕方なく領主の館まで出向くと、門にいる衛兵が話しかけてきた。


「ユウキ殿ですね」

「領主に呼ばれて来たのだか」

「はい、領主様から聞いています。すぐ案内します」


 応接室に通されるとソファーに腰かける。

 十帖じゅうじょう程の広さの部屋に三人掛けのソファーと椅子が三つ厚手の木のテーブルを挟んで置いてあった。

 ティアーヌも俺のとなりに座ろうとするがリゼットに制止されてしまう。


「待ちなさい。あなたは立ってるの」

「お前も座ったらいいんじゃないか?」

「そうはいかないわ」


 ティアーヌは、しぶしぶ俺の後ろに立った。

 領主はなかなか来ず一時間ほど待つ。

 ずっと立ってるのが可哀想だったので、何度か椅子に座るようにうながしたが、「ご主人様の恥になる」と取り合ってくれなかった。


「待たせてすまなかったな」


 にこやかな表情で領主カシードと魔術師シトが入ってきた。

 俺は立ち上がって挨拶しようとするが手で制止される。


「デーモンロードの件でいつもより忙しくてな」


 コリをほぐす様に肩を回しながら目の前の席に座る。


「それで、今日はどんなご用でしょうか?」

「ああ、この間は随分と活躍したようじゃないか」

「状況が悪くなっていってたので少々無理をしました」

「一人でデーモンロードを封印してしまうとはオレの想像以上だ」

「一人ではありません。

 フィーナがいたからです。ティアーヌを助けられたのもフィーナのお陰です」

「そうだな。リゼットの活躍も聞いてるし、おぬしのパーティーには良いメンバーが揃っているな」

「ええ、とても助かってます」

「デーモンロードはサークレットに封印されてたようだが、操られていたのが、そこのティアーヌか?

 神官たちは怒っていたがオレの方でなんとかしたから安心して欲しい」


 ティアーヌの方を見るとにこやかに笑った。


 おい!

 ティアーヌをたぶらかさないで貰いたい。


 カシードはイケメンだし領主だし剣の腕も達者で強い。

 男の俺から見ても笑顔が素敵だった。

 コロッと落とされないか心配でティアーヌの顔を伺ったが、興味が無いというかつまらなそうな表情をしていた。

 ホッとしたが、つまらなそうな顔はやめて欲しい。

 カシードは特に気にした素振りもなく話を続ける。


「サークレットは魔法院で調べてもらってるがまだ時間がかかるだろう。何かあればすぐに教える」

「ありがとうございます」

「いや、お礼を言うのはオレの方だ。今日、来てもらったのも報酬について話したかったからだ」

「報酬ですか?」

「ああ、デーモンロードを撃退する程の活躍をしたんだ。

 ただ、金をやるだけと言うわけには行くまい。

 今後は冒険者に関わる施設を無料で使っていいぞ」

「冒険者に関わるというと、訓練場や魔法院や教会などですか?」

「そうだ。各施設の指導を受けたり、教会の治療などを無料で使える。

 まあ、全てをとはいかないが、かなりの事は優遇されるはずだ」


 優遇とは言っているが結局はもっと強くなれと言うことか、治療も俺が怪我したり死んだりしたら困るからだな。

 まあ、冒険書の施設での訓練は俺もやろうとしてた事だ。

 無料になるなら、ありがたく受け取っておこう。


「ありがとうございます。今後も精進したいと思います」


 そんな俺を見てなにか言いたげに顎さする。


「ふむ、デーモンロードが他にもいると言う話は知ってるか?」

「はい。あと三体いるとか」

「そうだ。伝承の通りならデーモンロードが復活すれば、大変な被害が予想される。

 そうならないために今から手を打っておかなければならない」

「具体的にはどのようか事でしょう?」

「情報の収集と戦力の強化だ」

「後者の為には私の力が必要だと言うことですか?」

「さすがに話が早いな。だが自惚れるなよ。オレに負けるようでは、この街でも中の上の強さという所だ」

「私は自分を強いとは思っていません。ただ、他に方法がなかっただけです。

 例えば剣の訓練場のレナルヴェがいればもっと簡単に解決できたんじゃないですか?」

「そのとおりだ。だが、いつでも動けるわけではないし、彼にばかりに頼っているわけにはいかない。

 おぬしには強くなってもらいたい。聞いたぞ、一日で上級スキルまで覚えたそうじゃないか」

「自分でも驚いてます」

「その力を街の為に使って欲しい。もちろん、それに見合った見返りも用意する」

「わかりました。何か出来る事があれば協力します」

「他のレベルの高い冒険者にも協力をあおぐし、街の有力者もすぐに動けるように打診はしておく。

 今は強くなることを考えてくれ」

「なぜ私にそこまでするのでしょうか?」

「才能があるからだ……。それに、デーモンロード相手に単身で乗り込む無謀なやつは嫌いじゃないが、無駄に命を落として欲しくもない」

「私も死ぬのはごめんです」


 苦笑して言ったが、本心では少し違う。

 あまり、死というのが実感できていない。

 だからか、自分の危険よりも他人の死のほうが恐怖に感じていた。


「それならいい。さて、時間をとらせてしまったな。シト」


 呼ばれた魔術師はカシャッと音を立てて手の平ほどの大きさの袋を目の前に置いた。


「デーモンロードを撃退した報酬だ。こらからもよろしく頼む」

「はい、有り難く受け取らせていただきます」


 領主は納得したように大きく頷くと、さっと席を立ち魔術師と共に応接室から出ていった。

 俺も袋を受けとると館から出る。


「随分と時間がかかってしまったな。お前達も疲れただろう。昼御飯でも食べながら休もう」

「私は大丈夫ですが、ご主人様がお疲れでしょう」

「なかなか面白い会話だったわね」

「ずっと立ちっぱなしでつかれたにゃー」


 適当に人の少ない定食屋に入り袋の中身を確認すると、中には金貨が百枚入っていた。


 おお!

 領主のやつ気前がいいな。

 今朝までの金欠状態から一気にお金持ちだ。


「お金の問題が急に解決してしまったな」

「ご主人様の活躍なら当然です」

「見たことない大金だにゃー」

「でも、慢心は禁物よ。無駄遣いしたらすぐなくなっちゃうんだから」


 リゼットが安心した表情を見せながらも忠告してくる。


「ああ、わかっている。有効に活用しなくちゃな。とりあえずは装備を整えよう。

 あとは、ティアーヌが使えるような攻撃魔法はないのか? 後衛でも攻撃出来たら楽だと思うんだが」

「回復魔法が専門だから破壊魔法は使えないにゃー。でも、メイスを持てば前衛でも戦えるにゃ」

「そうか。攻撃が必要なら前衛に回ってもらおう」

「あたしも召喚だけじゃなくて破壊魔法を練習してみようかしら」

「俺は見れば覚えられるからリゼットやティアーヌが覚えてくれると助かるな。

 無料で施設を利用出来るようになったんだから、どんどん使っていこう」

「教会には行きたくにゃいし、にゃーも破壊魔法を覚えたいにゃー」

「回復は俺もできるし、そうのほうがバランスは良さそうだな」

「ティアーヌが破壊を覚えるなら、あたしは変性を覚えようかしら」

「リゼットなら癖の強そうな変性も上手に使えそうだし、いいんじゃないか?」

「ええ、変性は特殊な魔法が多い分、応用が最も利きやすい魔法ね。

 ただ、すぐに覚えれるわけではないからね」

「ああ、わかってる。よし! 領主に時間を取られたし今日は依頼をこなすのをやめよう。

 ティアーヌの装備を買った後は、俺はドラゴンファングの予定を聞いてくるから、みんなは家事をしてくれ」


 食事を終えると武器屋を訪れる。


「回復の魔法石がついたメイスが良いんだっけ?」

「そうだにゃ」

「じゃあ、この銀のメイスを買うか。魔法石が付いている分、普通の武器より高いんだな」

「ええ、魔法石は大きいほど効果が高いから、どうしても値段も高くなっちゃうわね」


 先端部には大きなトゲが何本かついており持ち手の装飾に直径10センチ程度の丸い魔法石が埋め込んである。


「けっこう重いんだな」

「重くないと威力が出ないですから」

「ティアーヌは持てるのか?」

「教会でメイスの使い方も習っているから大丈夫だにゃ」


 メイスを買った後は、夕食の材料を買って家に帰る。


「じゃあ、俺はドラゴンファングの所に行っているから家事を頼む。

 ティアーヌも昨日買ったメイド服を着ていいぞ」

「ご主人様に見てもらいたいにゃー」

「後で、いっぱい見てやるから心配するな」


 悲しそうな顔をしているティアーヌを残してジョゼットの家に行く。

 俺達と同じく、ドラゴンファングの女性三人で冒険者の家を借りているため場所は近い。

 ドアをノックするとすぐにジョゼットが出てきた。


「はーい。どなた?」

「こんにち……」


 『わ』を言い終わる前にバタンとドアを閉められてしまう。


「え? え?」


 目を合わせた瞬間ドアを閉められたけど、どういうこと?

 え?

 ひょっとして嫌われている?


 困惑していると、少しだけドアが開いた。


「ちょっと、忙しいから少しだけ待ってて」

「ああ、構わないけど。突然来て迷惑だったか?」

「いや。迷惑じゃないから。すぐ済むから待ってて」


 ドアが閉められると、中からバタバタと騒がしい音が聞こえた。

 しばらくしてする再びドアが開きジョゼットが出てくる。


 あれ?

 さっきはズボンを履いてたと思うけど、スカートになってる?

 気のせいかな?


「ユッ、ユウキじゃない。突然どうしたの?」

「え? いや、ジョゼットの休みの予定を聞こうと思ったんだけど……」

「どうかした?」

「いや、突然ドアを閉められたからどうしたのかなと」

「あ、ごめん。えーと、ちょっと忙しくて」

「忙しいなら時間を開けてから、また来るけど」

「もう済んだから大丈夫」

「そうか」

「休みの予定だよね? 今日は暇だけど?」

「いや、今日の話じゃなくて、風の射手と休みの日を合わせてるって聞いたから俺達も合わせようかなと思って。

 ジョゼットとは一緒に剣の訓練場に行くって約束だし予定を聞きたいな」

「ああ、今後の予定ね。えーと、明日は休みね。

 デーモンロードとの戦いは大変だったし、お金もけっこう出たから明後日も多分休みになると思う」

「そうか、なら明日と明後日の午前中に訓練場に行かないか?」

「ええ、もちろん良いわよ」

「じゃあ、明日の朝にまた来るよ」

「うん。じゃあ、また明日」


 手を振って送ってくれるジョゼットを後ろに、家に帰ると三人のかわいいメイドたちが俺を出迎えてくれる。


「「「おかえりなさいませ。ご主人様」」」


【あとがきおまけ小説】

 ジョゼットがユウキを見送り部屋に戻ると、ディアナがニヤニヤとした表情で、エルミリーはニコニコとした表情でジョゼットを迎える。


「何よ……」


 二人の妙な笑顔に唇を尖らせる。


「ジョゼットがスカートを着るなんてめずらしいわね~」

「ほんと、いつもなら恥ずかしがって絶対着ないのに」


 いつも通りのエルミリーの間延びした声に、ディアナが心底驚いた表情でうなずく。

 

「ボッ、ボクが何を着ようと自由だろ!」

「せっかく女の子らしい格好しているのにボクって言っちゃってるわよ」


 ディアナがあきれ顔で指摘するが、ジョゼットは勝ち誇った表情を見せる。

 

「いつもなら間違えたって焦るのに、どうしちゃったの~?」

「ボクって言ってもいいの。そういうのが好きな人もいるんだから」


 ジョゼットの得意げな表情に、二人は顔を見合わせると苦笑するのだった。


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