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夢の中

 知らない村、見たこともない建物、現実とは違う服装を着た人たち。


 よかった。

 夢に入る感触がいつもと違ったが幽体離脱に成功したみたいだ。


 安心して自分の体を見てみると、鎧を着て腰には剣をたずさえていた。

 青い鎧は豪華な装飾がしてある。

 現実ではありえない様な、いわゆるファンタジーの勇者が着る鎧だ。

 剣を抜いてみたが、こちらも細かい装飾がしてある高級そうな剣だ。


 うむ。

 なかなかかっこいいな。

 某有名RPGの勇者みたいだ。


 これから俺はこの夢の世界を冒険する。

 設定どおりなら魔王が現れてお姫様がさらわれるはずだ。

 無敵の俺はそれを倒せばいい。

 その後はお姫様と……。


 むふふ。


 そんな下心まる出しの妄想をしていると、村の人たちが騒ぎ出した。

 村人たちは我先にと村から逃げていく。

 戦う力などないのだろう。


「盗賊だー! ドガルナバ盗賊団がやってきたぞー!」


 何だ?

 魔王かと思ったら盗賊なのか?

 まあ、いきなり魔王を倒してしまっては、そこで話が終わってしまう。

 久しぶりの夢の世界なんだし、ゆっくりと世界を堪能しろということか。

 自分の夢ながら空気を読んでくれるのはありがたい。


 村人が逃げ惑う中、十数名ほどの盗賊団が村に侵入してきた。

 勇者としては助けるのが道理。

 お姫様とは言わないまでも、村の若い娘にお礼をしてもらえるかもしれないしな。

 かわいい村娘に奉仕してもらって……。


 そんなよこしまなことを考えながら、盗賊たちの前に立ちはだかる。


「悪いが俺の英雄譚えいゆうたんのために、お前たちを退治するぞ」


 剣をまっすぐに突きつけながら叫んだ。

 盗賊は剣と鎧を装備した俺に一瞬たじろぐが、俺一人しかいないのが分かると笑い出す。


「ゲヘヘヘ。団長どうします? 英雄なんて言っている馬鹿野郎が一人で歯向かうようですぜ」

「「がはははは」」


 盗賊たちが一斉に笑い出す。


「おお、なかなか度胸の据わった若者じゃないか。高そうな剣と鎧を着ているし、大方どっかの貴族のバカ息子ってところかぁ?」


 団長と呼ばれた男はにやけながら、わざと聞こえるように大きな声で言った。


「お前がボスか、無敵の英雄である俺にはちょっと物足りないが相手になってやる。かかってこい」


 俺が言い放つと、盗賊の団長の顔が歪んだ。


「俺は貴族も金持ちも嫌いだが、お前みたいな世間知らずが一番きらいなんだ! てめえら八つ裂きにしてやれ!」


 怒号と当時に、近くにいる3人の盗賊が襲い掛かってくる。


 自分の夢だから仕方ないが盗賊のセリフがマンガとかに出てくる雑魚そのままだな。

 ため息をつくと、最初に襲いかかってきた盗賊に対峙する。


 一番近くにいた盗賊は上段から構えて、脳天に向かって剣を振り下ろしてきた。

 俺は、両手で剣を持つと盗賊の横をすり抜けながら盗賊の胴体を切り裂く。


 盗賊はあっけなく倒れた。


 もちろん、現実の俺にこんな技術はない。

 それどころか剣すら握ったことはない。

 夢の中であれば俺は一流の剣士なのだ。


 続いて2人目、3人目の盗賊が左右から切りつけてきた。

 俺は間をすり抜けながら連撃を叩き込むと2人の盗賊が崩れ落ちる。

 3人も一瞬のうちに倒され盗賊もさすがに警戒しだす。


 ふふふ。

 無敵の勇者が盗賊ごときに後れを取るわけがないのだ。


「なかなかやるじゃねぇか。だが奴らは仲間になったばかりだからな、他の奴らはもっと強いぞ?」


 団長は、まだまだ余裕という表情だ。


「これ以上被害が出ても面白くねぇ。奴は一人だ、一斉にかかれ!」


 団長が怒鳴ると、団長以外の盗賊9人が一斉に襲い掛かってくる。


 この数で囲まれるとちょっと厄介だな。


 俺は囲まれる前に一番近い相手に向かう。

 確かに、さっきの盗賊よりも動きは良かった。

 それでも3度も剣を合わせると4人目の盗賊も倒れた。

 同じように5人目、6人目の盗賊も倒す。


 残りは6人。



 ふと考える。

 なんか妙にリアルだ。

 確かに幽体離脱した夢はリアルではある。

 それでも、今までに体験した夢の中では、血しぶきなどは出ずに倒した敵は消えたり、傷口なんかもせいぜい赤く染まっている程度だ。

 だが、今回はきちんと内蔵が飛び出る様子や、傷口の筋肉など詳細に描写されている。

 これではまるでスプラッター映画だ。

 俺は基本的に、ゾンビものなどのスプラッター映画は苦手だ。

 血とか内蔵とかを見ると気持ち悪くなる。

 あんなものをお金を払ってまで見たい人の神経がわからないほどだ。

 だからこそ、今までは敵とのバトルでもソフトな表現がされてきたのだと思う。

 ところが今回は18禁だ。


 別の意味での18禁の夢なら何度も見ているが。



 そんなことを考えていると、今度は3人同時に襲いかかってきた。

 俺は体を捻り剣をかわしながら斬撃をくりだす。

 一度避けるたびに7人目、8人目、9人目と倒れていく。


「何だお前ら! 一人相手に情けねぇぞ!」


 部下を9人も倒された団長は苛立った声を出して叫んだ。


「こいつの相手は俺がやる。お前らは下がってろ」


 そう言うと団長は俺の前に歩いてきた。

 残りの3人の盗賊は安心したらしく、ほっとした表情を一瞬すると、今度はにやけた表情になった。


「団長が相手になるならお前の命もここまでだ!」


 よほど団長の実力を信頼しているらしい。

 負けるなんてことは少しも考えてないようだ。


「あいつのセリフじゃないが俺が相手してやる。おまえの命もここまでだ」

「なんでもいいからさっさとかかってこいよ」


 俺はバカにしたように言い放った。

 最初のイベントのボスごときに時間はかけてられない。

 俺の目標は魔王なのだからな。


「このやろう!」


 団長は上段に剣を構えると力強く振り下ろした。

 最初の盗賊と同じ動きじゃないか?

 そう考えて、最初の盗賊と同様に振り下ろされるタイミングで、団長の横をすり抜けるようにしながら剣を横にして団長の胴体を切り裂いた。


 と思ったが、手応えがない。

 どうやら団長はサイドステップをして避けたようだ。


「馬鹿め!」


 団長は俺の腹めがけて剣を振った。

 俺もバックステップして攻撃をかわす。


 ふむ。

 さすがボスだけあって簡単には倒れてくれないな。


 何度も剣を打ち合わせたり回避しながら戦闘は続いた。

 団長はタフではあったが、それでも俺のほうが強かったようだ。

 こっちは無傷だが、相手には致命的とはいえないまでもダメージを与えている。

 しかも、団長のほうが先に疲れたらしく動きが鈍くなってくる。


 団長は圧倒的な実力差を理解して命乞いをして来た。


「たのむ、俺が悪かった。もう悪いことはしない見逃してくれ」


 剣を振りながらそう言われても説得力がない。

 剣を止めても倒すつもりだが。


「悪いが悪党を生かす訳にはいかない」


 俺はそう言いうと疲れきって動きの遅くなった団長の脳天に必殺の一撃を放った。


 ふう。

 ようやく倒せたか、最初のイベントのくせに手間かけさせやがって。


「逃げろ!」


 残りの3人の雑魚は団長が倒されたのに驚愕すると一目散に逃げだした。


 馬鹿め!

 一人として逃すかよ。


 すぐに追いついて1人、2人と切り倒す。

 しかし、最後の盗賊は逆方向に逃げたため、距離が離れてしまった。

 なんとか追いつこうと追いかける。

 と、盗賊は急に走るのをやめた。

 なんだと思い様子を伺うと、村人たちが逃すまいと壁を作っていた。


 村人も協力してくれるしイベント成功だな。

 さて、最後の敵も倒させてもらおうか。


 舌なめずりしながら盗賊に近寄る。

 盗賊は俺の方に向き直ると、恐怖に顔を歪め足を滑らせて尻もちをついた。

 盗賊のおしりの辺りにじわりと水たまりが出来る。

 どうやら恐怖のあまり漏らしたらしい。


「お願い! 命だけは助けて!」


 女の声で盗賊が叫んだ。

 ん、おんな?

 どうやら最後に残った盗賊は女だったようだ。

 何かのイベントかもしれないし殺さないほうが良さそうだな。


「抵抗しないなら命までは取らない」


 そう言いながら剣を鞘に納める。

 女盗賊は村人達に両腕を捕掴まれると、力なく連れて行かれた。


「村を救っていただいてありがとうございます。

 何もない村ですが、お礼をしたいのでぜひ私の家にお越しください」


 50代ぐらいの村人の男から話しかけられた。

 大人しく男の言うことを聞いて家までついていく。


 どうやらイベント完了らしい。

 あとは報酬を受け取るだけだ。


「私がこの村の村長でございます」

「俺は冒険者のユウキだ」


 ここで『俺は勇者だ』とか言ったら変な目で見られるだろう。

 だから、冒険者ということにしておく。


「ああ、手はとめないで結構です。続けながらお聞きください」


 返り血をぬぐう手を止めて挨拶をしたが、村長に促されて作業を続けた。

 匂いも本物のようだし、口に入った時には血の味がした。



 こんなにリアルにする必要はないのに。

 自分の夢に向かって文句をつける。

 しかし予想外のことが起こるのが、俺の夢のいいところでもあるので我慢だ。



 血をぬぐっている俺を見ながら、村長は話を続ける。


「改めてお礼を言います。ありがとうございます」


 村長は深々と頭を下げた。


「所でユウキ様は賞金稼ぎでしょうか?」


 なぜそんなことを聞くのだろう?


「いや、俺はただの冒険者だ。たまたま立ち寄った村が盗賊に襲われてたので助けただけだ」

「そうでしたか、ではあの盗賊団に賞金がかけられている事もご存知ないのですね?」

「おお、そうだったのか。この国には着いたばかりなので、そのような情報などは全くわからないのだ」


 他の国から来た冒険者ということにして話を続ける。


「わかりました。では、この国の犯罪者の扱いについて説明いたします。

 先ほど言ったとおり、倒していただいた盗賊団は賞金がかけられていました。

 街に使いを出して確認をしたいと思います。

 確認が取れれば賞金が出ますのでお受取りください」

「街に使いを出していただけるとはありがたい」


 俺は頭を下げる。


「いえいえ、村を救っていただいたのですからこれくらい当たり前です」


 村長は更に話を続けた。


「また、この国で犯罪者を倒した場合には、犯罪者の持ち物は倒した人の物になります。

 つまり盗賊団の装備品やゴールドはユウキ様のものになります。

 ちなみにユウキ様は立派な剣と鎧をお持ちですが、盗賊の装備などは必要でしょうか?」

「良い品があったら欲しいが、そうでないなら要らないな」

「であれば、不要な物は村の商人が買い取らせていただきます」

「何から何まですまない」

「当然のことでございます。最後になりますが、持ち物と同様に生き残った盗賊の権利はユウキ様にございます」


 ん?

 生き残ったということは、あのおもらしをした女盗賊のことか?


「生かすも殺すも、奴隷にするもユウキ様の自由です」


 言い終わると同時に家のドアが開くと、後ろ手に縛られた女盗賊が連れてこられた。

 女盗賊は心配そうに、俺をうかがっている。

 自分の運命を想像してか、かなり怯えているようだ。


「安心しろ、改心するなら命を取ろうとは思わん」


 女盗賊は、ほっとしたらしく態度が少し和らいだ。


 よくよく見ると女盗賊は、若くてかなり可愛かった。

 年は16歳ぐらいといったところだろうか?

 身長は160cmぐらいで、引き締まった体に余計は贅肉はついてない。

 武器も鎧も取られていて、布の服だけを着ている。

 鎧を着ている時には気付かなかったが、胸も大きめのようだ。


 俺の好きにしていいってことは、あんなことやこんなこともしていいってことだよな?

 今回のイベントの報酬はこの女ということか?

 村娘もいいと思ったが、女盗賊というのもなかなかそそられる。


「では、生き残りの盗賊については、ユウキ様に一任します」


 やばい、俺の顔はたぶんにやけていた。


「わかった。この女は俺が罰を与えて更正させてみせよう」


 キリッとした顔に戻して言ったが、卑猥ひわいな意味に取られる発言な気がする。

 いや気のせいだろう。

 気のせいということにしておこう。


「それから、もう遅いので今晩はうちにお泊まりください。夕食もお出しいたします」

「ありがとう。しかし、今夜だけでいいのだが、宿を借りることはできないだろうか?」


 村長の家に泊まったのでは、女盗賊とあれこれする事ができなくなってしまう。


「なにぶん小さい村なので宿はございませんが、空き家がございます。そちらに泊まるといいでしょう」


 村長は意図を汲み取ったらしく提案してくる。


「では、空き家に泊まらせていただく。

 あと、風呂にも入りたいのだが出来るだろうか?」

「申し訳ありません。ただの民家なのでお風呂はついておりません。

 街まで行けば大浴場はございますが、あいにくとこの村には浴場もございません」


 そうか、この世界では家に風呂はついてないのか。


「いやすまん。汗を流したいのだが水が苦手でな。

 お湯を多めにいただけるとありがたいのだが」

「わかりました。では、寝具を運ぶついでに大きめの桶にお湯を入れてお持ちいたします。

 ご夕食が終わる頃には準備ができるでしょう」

「夕飯についてだが、女盗賊の分も作ってほしい。飯抜きというのも可哀想だ」

「ユウキ様がそうおっしゃるなら用意いたします」


 その後、こまごまとした相談事をした後に夕飯が出てきた。

 村長の家で縄を解くわけにはいかないので、女盗賊の食事は空き家に運ぶことにした。

 食事は冷めてしまうがそれぐらいはしょうがないだろう。


 食事が終わった後、女盗賊を連れて空き家に向かった。



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評価をつけていただいたら嬉しくて投稿が早くなると思います。
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