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デーモンロード『食欲の王』

 日が昇る前に起きる。

 今日はオーク討伐のため、朝早くから家を出ないといけない。

 真っ暗でほとんど何も見えないが、フィーナは正確に俺の唇の位置を探し出しキスしてくる。

 気を利かせてかすぐに唇を離そうとするが、物足りない俺はフィーナの頭を掴むと唇を強く押し付けた。

 ビクッと震えたが、すぐに俺の首に腕を回してくる。

 唇に何度か吸い付くと舌を入れた。

 フィーナは切なげに鼻息を荒くしながら俺の舌を受け入れて絡ませてくる。

 濃厚なキスを長めにすると顔を離す。


「おはようございます。ご主人様」

「おはよう」


 暗くて顔がよく見えないが、少し興奮しているのが感じ取れる。

 すぐにリゼットもキスをしてくる。

 リゼットはもっと軽くチュッという感じでキスをして来たが、同様に頭を掴むと強引に唇を押し付けた。

 俺の胸に両手を当ててすがるようにキスをしてくる。

 舌を入れるとおずおずとした感じで舌を舐めてきた。

 そんな控えめなリゼットに対して激しく口の中を舐め回し堪能すると口を離す。


「ご主人様。おはよう」

「おはよう」


 今日は大きな戦闘になりそうだしもしかしたら夜遅くなってしまうかもしれない。

 そう考えると、今の時間を大切にしたいという気持ちが強くなる。


「朝からだが大丈夫か?」

「昨日もいいましたが、私たちはご主人様の物です。好きにして良いんですよ」


 フィーナはむしろ嬉しそうに答えた。

 リゼットは何も答えないが体を寄せてくる。


---


 早朝、冒険者ギルドに着くと依頼カードを渡されて、すぐに指定の場所に行って欲しいと言われた。

 場所は、マフムード大森林の奥、廃墟の神殿の近くだった。

 それを聞いて嫌な予感が走る。

 猫耳の女の子、ティアーヌが向かった場所だからだ。

 一緒に行っていればという後悔の念に襲われるが、彼女の事だからすでに逃げているかもしれない、という希望を持って森林に向かった。


「かなりの人数が動員されているようね」

「ああ、人が多いな」


 俺が人の多さに驚いていると、衛兵が近寄ってきた。

 これから作戦会議が行われるから参加して欲しいとのことだ。

 二人を連れて森のなかに建てられた大きな天幕に向かう。

 そこには、20名ほどの人がいて、冒険者のバルパスやクラリーヌがいた。

 剣の訓練場のジョジゼルもいたため話しかける。


「訓練場の人も参加するんですか?」

「ん? ユウキじゃないか。ああそうだな、今回は街の施設の者達も参加するらしい」


 周りを見渡すが、レナルヴェはいないようだ。

 さすがに訓練場の上位者までは出てこないか。

 辺りを見渡し参加者を確認していると、衛兵の隊長と思わしい人物が話しだした。


「私は、今回の作戦を統括するパルミロだ」


 口ひげを生やした四十程の男が、低めだがよく通る声で話した。


「まずは、今回のオーク討伐に参加していただき感謝する。

 これほどの人数が参加することに驚いている人が多いと思うが、調査の結果、予想より悪い事態だということがわかった」

「悪い事態とはどういうことだ?」


 冒険者と思わしき黒い鎧を着た男の質問にパルミロは少し間を置いて答えた。


「どうやら、デーモンロード『食欲の王』の復活の儀式が行われているらしい。

 オークが増えていたのもその影響の様だ」


 デーモンロードという言葉に全員がどよめく。

 俺は名前から適当に推測をしていたが、リゼットが補足をしてくれる。


「デーモンロードは4体いると言われる強力な悪魔ね。

 400年前に封印されたという記録があるわ」


 パルミロはゆっくりと話しを続ける。


「安心して欲しい。まだ復活には時間がかかる。

 だが、急がねばならない。急な作戦の決行になったのはそのためだ。

 完全に人を集めれたわけでは無いが、それでも復活前なら問題無いだろう」

「復活にはどれだけの時間がかかるんだ?」


 ローブをまとった男が聞くと、西洋風の法衣を着た男が答えた。


「正確には分からないが、完全な封印の解放には数日の猶予が有ると思う」


 パルミロが続いて補足する。


「そうだ、完全な復活には時間がかかる。

 しかし、封印は徐々にだが解けており、オークやオーガの増加など影響は出始めている。

 そのため、すぐにでも作戦を始める」

「復活の準備をしている組織は不明だが、廃墟の近くにはオークやオーガの群れと少数の下級悪魔がいるようだ」


 法衣の男が長いあごひげを撫でながら状況を詳しく説明した。


「衛兵を約300名、街の施設の実力者を約30名、冒険者を約40名で対応する。

 これだけの人数がいればモンスターの群れなど問題ないはずだ。

 では、作戦の詳細を説明する」


 パルミロが全員を見渡すと各々がうなずいた。


「廃墟の神殿は森の奥の絶壁に立てれられている。

 だから、裏からまわり込んだりすることはできない。

 包囲するように敵の軍勢を押しつぶす」

「わかりやすい作戦だな」


 黒い鎧を着た男が両手を広げ苦笑しながらバカにしたように言い放った。

 パルミロは一瞥するも無視して話を続ける。


「まず、衛兵と魔法院の者たちは中央で敵の主戦力を相手にする。

 しかし、衛兵は数が多いが冒険者達に比べると弱い。

 そのため、魔法で補助をしてもらいつつ戦線を維持することを目的とする」


 ローブを着た男は深くうなずき、衛兵隊長らしき人は敬礼する。


「冒険者達と剣の訓練所、弓の訓練場の者たちは右翼で敵の数を減らすことに集中して欲しい」

「左翼は、ユウキ殿とリゼット殿を中心とした召喚士たちで構成したい」


 不意に名前をあげられて、少しマヌケな調子で答えてしまう。


「リゼットですか?」

「ああ、魔法院の召喚士も加わればかなりの数の召喚ができるはずだ。

 そうすれば、左翼を任せるには十分だろう。主な目的は敵部隊の奥に食い込み混乱させることだ」

「リゼットは大丈夫か?」

「ええ、もちろんよ」


 リゼットは力強くうなずいた。


「わかりました」

「最後に、教会と盗賊ギルドは後衛にあたる。

 教会の人たちは後ろから補助魔法や回復をして部隊を維持する。

 盗賊ギルドは伝令や物資の補充などをお願いしたい」


 そうして、全員の役割が決まるとそれぞれが指定の位置に付く。


「ご主人様は魔力を温存しておくと良いわ」

「なぜだ? 俺も召喚した方が良いだろう?」

「回復魔法を使える人は残しておいた方がいいし、何かあった時にご主人様なら対応できるからよ。今は私一人で十分だわ」


 リゼットはそう言いながらアンデットを次々と召喚していった。

 他の召喚士も含め全員の召喚が終わると準備ができたことを伝令に伝える。

 しばらくして、伝令が戻ってくると、戦闘を開始しても良いという通達がされる。


「さあ、戦闘を始めるわよ。ご主人様とフィーナは召喚士たちを守ってあげて」

「わかった」

「わかりました」


 リゼットを初め召喚士達は召喚したモンスターを前進させる。

 戦場が森の中で広いため他の部隊の状況は不明だが、しばらくするとオークの群れと激突する。

 以前戦った40匹程度の数ではなく何百匹といるようだ。


……


……


……



 俺はただ見ているだけだった。

 警戒はしていたが敵に肉薄されるような状況はなく順調に押しているように思えた。

 しかし、リゼットの顔色は悪い。


「まずいわね。敵の数が思ったより多い。それに悪魔の数も増えてきたみたい」

「俺は問題がないように思えるが」

「私たちは直接戦ってないから被害はないけど、他の部隊はある程度被害が出てるでしょうね。

 あと、MPもだんだん減ってきたわ。敵の数も減ってるけどすべて倒すにはまだ時間がかかりそうだし、きつい状態ね」


 俺は召喚されたモンスターに守られているから良いが、冒険者達は自分が前線で戦わなければならない。

 彼らならそう簡単に殺られるほどの敵ではないが数が多い。

 しかも長期戦だ。精神的にも疲弊してくるだろう。


「何とかする方法は無いのか?」

「あるならやってるわよ」

「敵の数は減っているわけではないのか?」

「オークやオーガは減っているわ。

 でも、それより強いインプやグールの数が増えているみたい。

 このままじゃジリ貧ね」


 このままじゃまずい。

 さっきまでの楽観的な思考と打って変わり焦りが感情を支配する。

 俺はともかくとしても、クラリーヌやジョゼットが怪我をしたり死んだ姿を想像すると恐怖が襲ってくる。

 じゃあどうするか、単純な俺には単純な結論しか出なかった。

 俺は強い。レベルが高い。ならば俺が戦えばいい。

 マンガや小説を読んでいて思っていたことだが、強いキャラクタがいるならそいつが戦えば良い。

 いつも到着が遅れて仲間たちが殺されている。

 そんな、馬鹿らしい展開は俺はゴメンだった。


「復活の儀式を止めればモンスターは増えなくなるんだな?」

「そうね。デーモンロードの力によって召喚されていると思うから儀式を止めて再度封印すれば出なくなると思うわ」

「なら俺が行こう」

「一人で行く気?」

「敵を突破できないか?」

「ご主人様なら出来ると思うけど、一人で行くなんて危険だわ」

「俺は回復もできるし攻撃を食らってもダメージは少ないだろう。

 手遅れになる前に行ったほうが良い」


 意思の硬い俺の表情を目にして、リゼットはため息をついた。


「わかったわ。ただし、フィーナも連れて行くのよ」

「もちろん、ついていきます」

「いや、フィーナでは危険だろう。俺一人のほうが良い」

「だめよ。フィーナを連れて行かないなら行かせられないわ。

 この子はあなたが思っている以上に優秀よ」

「私はご主人様がついてくるな、と言ってもついていきます」


 正直、一人で行きたかった。

 俺が死ぬのは構わないがフィーナやリゼットを巻き込むのは嫌だった。

 しかし、意志は固いようだ。

 下手に断って無理やりついてこられるよりは一緒に行ったほうがマシだろう。


「わかった。あくまで廃墟の神殿にたどり着くのが目的だ。

 無駄な戦闘はせずに全力で突っ切るからな」

「わかりました」


 フィーナはしっかりとうなずいた。

 俺はフィーナと共に召喚されたモンスターの間をぬって森の奥に進んだ。

 森の中は乱戦状態だ。

 召喚されたモンスターが戦っているため敵味方の判断が難しいが、俺には関係無い。

 戦闘を避けながらひたすら奥に進んでいく。

 途中で襲ってくる者もいたが一刀のもとに切り伏せる。

 背後から襲ってくる敵についてはフィーナが上手くあしらってくれていた。

 絶壁に近くなればなるほど、インプやらグールが多くなるが、できるだけ無視しながら進んでいく。


---


 途中ヒールをかけたりしたが大きなダメージを受けることなく廃墟の神殿にたどり着いた。

 廃墟の神殿は、石造りのしっかりとした建物でところどころヒビは入っているものの朽ちてはいなかった。

 神殿は教会のような作りになっており中に入ると広い部屋に石造りのベンチが並んでいた。


 奥に目をやり驚愕する。

 地面にかかれた魔法陣を囲むように黒いローブを着た5人の男達が倒れており、その魔法陣の中心には、ティアーヌが立っていたからだ。

 身を屈めて様子を伺うが、ティアーヌは気の抜けた表情をしており動きはない。

 ただ、その体からは黒い霧のようなものが噴き出しており普通の状態ではないことは明らかだった。


「俺が話しかけてみるからフィーナは気づかれないよう後ろに回りこんでくれ、もしもの時は頼む」

「わかりました。ご主人様も危なそうならすぐに逃げて下さい」


 フィーナはそう言い残すと柱に身を隠しながら壁伝いに大きく回りこむ。

 俺はわざと姿を表してゆっくり近寄りながら声をかける。


「ティアーヌ、大丈夫か!」


 ティアーヌの表情には変化は無いがゆっくりと俺の方を向いた。

 そして、ゆっくりと俺の方に手を向けると手のひらから稲妻が走る。

 不意な攻撃に、横に飛び退くが稲妻は軌道を変え俺の体を的確に貫く。

 痛みを感じるが、それほど大きなダメージを受けてはいない。

 しかし、避けることが難しいと判断し、ティアーヌめがけて走り寄る。

 近づきながら気づく。

 ティアーヌは昨日はつけてなかったサークレットを額につけており、黒い霧はそこを中心に濃く発生していた。


「サークレットが封印の正体だな!

 それさえ奪ってしまえばその子は解放されるんだろ!」


 フィーナに聞こえるように大声で、しかしフィーナの存在をさとられないようにわざとティアーヌに話しかける様に言い放った。

 言ったことに根拠はない。

 そうだったら良いなぐらいの気持ちであり現状では、それ以外の有効な手段が思いつかなかった。

 しかし、予想に反してティアーヌの口からは人とは思えないような声が発せられた。


「ワシの復活を阻止しようと言うのか」


 ゆっくりとそれだけ言うと再び手から稲妻が走る。

 今度は逃げずにまっすぐにティアーヌ目がけて走り、ヒールを自分にかけながら強引に近寄る。

 そのままの勢いを殺さずにティアーヌにタックルを仕掛けた。

 しかし、思いの外、体は硬くびくともしなかった。


「無駄だ。お前ごときにワシを止めることはできん」


 ティアーヌを中心に波動のようなものが発せられて俺は1メートルほど吹き飛ばされる。

 俺はすぐに立ち上がるとフィーナの位置を確認する。

 フィーナは大きく回り込んでいるため、ティアーヌの後ろに来るには多少距離があった。


「ティアーヌをどうするつもりだ!」

「ワシはただ自由になりたいだけじゃ。

 この娘はワシの体の一部になってもらう」

「自由になってどうするつもりだ」

「ワシは長い間封印されていたせいで腹が減っておる。

 とりあえず街の一つも飲み込めば満足するかの」

「わかった。ならば、もう一度眠りに落ちるが良い」


 フィーナが裏に移動できた事を確認するとティアーヌに駆け寄る。

 先ほどと同じ波動が出されるが、それに合わせてジョジゼルから習得したパワースマッシュを放つ。

 パワースマッシュは斬撃ではなく衝撃波を発するため波動と相殺できると思ったからだ。

 斬撃ではなく衝撃波だけに威力を集中しパワースマッシュを放つ。

 衝撃波を相殺しつつティアーヌを吹き飛ばすことに成功した。

 ティアーヌは俺の狙い通りにフィーナのいるすぐ近くの壁に激突する。


「なかなかやりおるな」


 デーモンロードに憑依された彼女はほとんどダメージを受けた気配はなかった。

 しかし、吹き飛んだ隙に、後ろから近づいていたフィーナが素早くサークレットを剥ぎ取る。

 するとティアーヌは意識を失い崩れ落ちた。

 様子を見守るがどうやらデーモンロードの動きを止める事ができたようだ。

 俺は喜びながら急いでフィーナに近寄る。


「フィーナよくやった」

「うう……ううう……」

「フィーナ?」


 手に持っているサークレットから発せられる禍々しい黒いキリのような物は、フィーナを包み込もうと腕を這い上がっていった。

 フィーナは、目を見開き、手を震わせながら少しずつサークレットを額に近づけていく。


 俺は危険を察知しすると、フィーナの手からサークレットを奪う。

 自分が危険だとかそういったことは考えなかった。

 奪ってすぐに投げ捨てるつもりでいたが、俺がサークレットを掴んだ瞬間、サークレットからまばゆい光がピカッと発せられる。

 光が消えるとサークレットから出ていた黒い霧はなくなっていた。


「大丈夫かフィーナ!」


 言葉に反応するようにフィーナが崩れ落ちる。

 俺は急いで、フィーナを抱きかかえ床に寝かす。

 フィーナは疲れた様子だがすぐに意識を取り戻した。


「大丈夫です。ご主人様に助けられるのは二度目ですね」


 フィーナは無理に笑顔を作る。

 俺はフィーナを抱きかかえると頭を撫でた。


「危険な目にあわせてすまなかったな。フィーナのおかげで助かった」

「ご主人様を助けるのが私の努めです」


 フィーナは顔色が悪いながらも笑った。

 俺は安堵の溜息をつくが、突然後ろから抱きしめられて驚く。


「ユウキはやっぱりにゃーの運命の人だったにゃ」


 いきなりの出来事に混乱していると、ティアーヌは頬ずりをしてきた。


「ご主人様に何をするんですか!」


 フィーナの言葉に混乱から立ち直ると、しがみつくティアーヌの手を体から引き剥がす。


「にゃー、なにするにゃー」

「それは、こっちのセリフだ」


 元気なように見えたティアーヌも気分が悪かったらしく、俺から離れるとペタリと地面に座り込んでしまった。


「大丈夫か?」

「大丈夫だにゃ。ちょっと気分が悪いだけだにゃ」


 特に外傷のようなものはなくヒールをかけてやりしばらく休むと、二人共すぐに歩けるようになった。

 二人が休んでいる間倒れていたローブの男たちを確認したが全員すでに息絶えていた。

 戦いの様子が気になり外に出ると、先程までいた下級悪魔たちは姿を消していた。


「召喚されていた悪魔だから、デーモンロードがいなくなったことで消えたのか」

「多分そうですね」

「すぐにリゼットの元に戻ろう」


 下級悪魔が消えたため苦労することなくリゼットのいた場所に戻れた。


「封印に成功した様ね」


 俺の顔を見るとリゼットは安心して表情を崩す。


「ああ、どうやらこのサークレットに封印されていたらしい」

「悪魔はいなくなったようだし、これならなんとかなりそうよ。MPも底をつきそうだったし危なかったわ」

「ああ、リゼットのおかげで助かった」


 小さなリゼットの体を抱きしめる。


「ご主人様。嬉しいけど人が見てるわよ」


 周りには他の召喚士たちもいた。

 俺は照れから頭を掻きつつ愛想笑いをした。

 伝令のためにいた盗賊ギルドのシーフが状況を飲み込めずに聞いてくる。


「ユウキ殿がデーモンロードの復活を阻止したということでしょうか?」

「ええ、悪魔もいなくなったようですし、これからモンスターが増えることは無いと思います」

「わかりました。すぐに本部に伝えます」


 悪魔がいなくなった後は各部隊ともストレスを発散するように進撃すると、あっという間にモンスターの群れを駆逐してしまった。

 その後、俺達は朝に訪れた天幕に戻ると状況の説明をした。


「なるほど、そのサークレットにデーモンロードが封印されていたのだな」


 黙って聞いていたパルミロがゆっくりと口を開いた。


「はい、これをつけられていたティアーヌはデーモンロードに操られているようでした」

「今は大丈夫なんだな?」


 パルミロはすこし躊躇しながらもサークレットを手に取る。


「これは我々で調査しよう。レンツィオ頼めるか?」

「わかりました。魔法院の知識を動員して調べてみましょう」


 ローブを着た男はサークレットを受け取ると、少し楽しそうにしながらサークレットを眺める。


「ティアーヌについてはどうなるのでしょうか?」


 事態を悪くした責任を取らされるのかと心配になり質問する。


「ああ、デーモンロードに操られていた娘だな。

 今回の件に関しては被害者なので問題ないのだが……」


 パルミロは言いづらそうにしていると、法衣を着た男が憎々しげに言った。


「そいつは神聖な捧げ物を食べてしまったんだ」

「それは、犯罪行為なのでしょうか?」

「ええ、かなりの重罪だったはずよ」


 俺の質問に残念そうな声でリゼットが教えてくれる。

 おそらく昨日言っていたつまみ食いのことだろう。

 宗教に興味のない俺にとっては、捧げ物だろうとなんだろうとつまみ食い程度で犯罪者扱いにされるのは気分が悪かった。


「犯罪者であるならば、捕まえた私の所有物にしても問題無いですよね?」


 俺の提案に、法衣の男は鋭い目線を向ける。


「そんなことが認められるか! 教会として罰を与えない訳にはいかない」


 しかし、その言葉にパルミロが重い口調で割ってきた。


「教会の体裁も有るだろうが、法律としては問題ない。

 しかも、ユウキ殿は今回の事態を解決した功労者だ。なるベく便宜を図りたい」


 パルミロの言葉に、法衣の男も不機嫌ながら口をつぐんだ。


「では、ティアーヌは私の所有者としたい。問題ないなティアーヌ」


 ティアーヌは嬉しがりながら俺に抱きついてきた。


「ユウキはやっぱり優しいにゃー。もちろん大丈夫だにゃ。

 にゃーからお願いしたいぐらいだにゃ」


 俺は、ティアーヌを無理やり引き剥がすと注意をする。


「ただし、これからいきなり抱きついたり勝手な行動をしないこと!

 それが守れないなら保護者はやめる」

「わかったにゃー。飼い主の言うことは聞くにゃー」


 ティアーヌは怒られた猫のように耳を伏せた。

 廃墟の神殿にいたローブの男たちや戦いの後処理は衛兵たちがやってくれる事となった。

 被害状況を聞いてみたが、衛兵と冒険者に重傷者が何人か出たが、死人までは出なかったらしい。

 冒険者仲間と酒場に行き、すこし早めの夕食を食べるが、長い戦いに疲れきった俺はすぐに家に帰った。

 他の冒険者たちは、勝利を祝ってどんちゃん騒ぎをしていた。


---


「フィーナ、リゼット、ティアーヌの事を勝手に決めて悪かったな」

「ご主人様が決めたことですから大丈夫です」

「ええ、あたしたちに遠慮する必要はないわ」


 昨日、メンバーは増やすつもりはないと言いながらもティアーヌが加わってしまった。

 二人がいいと言っても、自分でした約束をすぐに破ってしまったことに罪悪感を感じる。


「細かい話は明日するが、ティアーヌは二人の言うことをしっかり聞くこと」


 落ち着きのなさそうなティアーヌは、二人に指導してもらったほうが良さそうだ。


「わかったにゃ。飼い主が言う通り二人の言うことをしっかり聞くにゃ」


 多少、不満気ではあるが俺のいうことはきちんと従うらしい。

 しかし、気になっていたが『飼い主』という言い方は引っかかる。


「飼い主というのもやめてもらえるか?」

「うーん。にゃんて呼べばいいかにゃ?」

「ご主人様と呼ぶのが良いと思いますよ」


 フィーナが嬉しそうにティアーヌに指導する。


「わかったにゃ。ご主人様と呼ぶにゃー」

「よし、では少し早いが今日は休むことにしよう。で、二人共疲れてないか?」


 リゼットは仲間になった時にはフィーナと相手をしなかったため不安にさせてしまった。

 同じミスは二度繰り返したくないので、望むならきちんと相手をしたい。


「私は大丈夫です」

「あたしも大丈夫よ」


 二人とも安心したような嬉しそうな表情で答えた。


「では、フィーナから相手をしてもらう。

 リゼットはティアーヌの事を見ていてくれ」

「わかったわ」


 フィーナの手を引くと寝室に向かった。

 ティアーヌは不思議そうに顔をかしげてリゼットに質問した。


「ご主人様とフィーナは何をするにゃ?」

「ご主人様の疲れを癒やすためマッサージをするのよ」


 寝室に入るとまずは俺の体をフィーナに拭いてもらう。

 戦いによる返り血をすべて洗い流すのだ。


「今日はお前の体を拭こうと思うがどうだ?」


 俺の胸を拭きながら赤い顔をして小さくうなずいた。


 俺の体が拭き終わるとフィーナの体を拭く。

 風呂で体を洗ったことを除けばフィーナの体を拭くのは初めてだ。

 今日はいやらしい気持ちで拭くわけではない、体を清める儀式のようなものだ。

 今まで恥ずかしさからフィーナが拒否していたが、最近は拭いてもいいと言ってきていた。

 ティアーヌが入ったタイミングが意識的にも丁度良いと思えた。

 おそらく彼女も同じ気持ちだろう。

 フィーナの体を愛おしい気持ちで隅々まで拭いていく。

 その体のひとつひとつが愛らしいと思えた。


 体が拭き終わりベッドに座ると神聖な儀式を終えたせいか初々しい気分が蘇ってきた。

 フィーナもいつものように情熱的な感じではなく、照れたような笑顔を向けてくる。


「フィーナ好きだ」

「私もご主人様が好きです」

 

 そう言って軽いキスをするとフィーナの目の端に小さな涙が光る。

 そのまま、首筋から胸に唇をはわせるとフィーナをベッドに押し倒した。


……


 フィーナが寝室から出るとリゼットが代わりに入ってくる。


「フィーナにさっき拭いてもらったが、リゼットにも拭いて欲しい。

 あと、今日はリゼットの体を俺が拭こう」

「お願いするわね」


 リゼットは照れた笑みを浮かべながら答えた。

 新しい気分で愛しあうために俺の体を拭いてもらう。


 その次はリゼットの体を拭く。

 今日のリゼットはいつもと違く、体が火照っていた。

 敏感になった体は拭いているだけでも感じるらしく、少し体を擦るだけで熱い吐息と感じ入った声を出した。

 その熱と女の香りに俺も拭いているだけで体の中が熱くなってしまう。

 なるべく時間をかけて丁寧に体を拭いたが、最後の方はリゼットも恨めしそうな懇願するような顔を俺に向けきた。

 俺自身も我慢の限界を感じ最後まで拭き終わらないうちにリゼットを抱きかかえるとベッドに向かう。

 抱きかかえた時には、今まで見たことのないような嬉しそうな笑顔で俺の首に手を回しキスをして来た。

 ベッドにリゼットを寝かせると、少しもったいぶったようにして言葉をかける。


「リゼット、愛している」

「あたしもよ。ご主人様」


 そう言って熱く長いキスをした。


……

 

 リゼットとの熱い語り合いも終えて、ティアーヌの様子を見に居間に行くと、ティアーヌは興奮した様子だった。


「ご主人様! にゃーもマッサージしたいにゃー」

「俺達がやってたのは普通のマッサージじゃないんだぞ」


 言い方を迷いながらも遠回しに説明した。


「にゃーもわかるにゃー。交尾のことだにゃ?

 みんなからすごい発情の匂いがしているにゃ」

「そうか、匂いでわかるんだったな。だけど、3人目になるが良いのか?」

「ご主人様は運命の相手だにゃ。

 3日連続で偶然で会った上ににゃーを助けてくれたにゃー。

 それに、猫族は強いオスと交尾出来るのは幸せなことだにゃ」


 しかし、詳しい話をせずにするというのは気が引ける。

 一応、明日の朝に確認しようとは思っていたが、それはきちんと話し合った後と考えていた。

 俺が悩んでいると、ティアーヌは目に涙を貯めてしがみついてきた。


「強い発情の匂いを嗅いでにゃーも発情しちゃったにゃー。

 ご主人様のオスの匂いはにゃーにとってはマタタビみたいなものだにゃ。

 こんな状態で放って置かれたらおかしくなっちゃうにゃー」


 見ると目に涙を貯めて顔は高揚していた。


「わかったわかった。たしかに今の状態で放っておくのは可哀想だ。

 フィーナもリゼットも問題ないか?」

「ご主人様か良いなら私は問題無いです」

「あたしも同じね。ご主人様がいいならいいわ」

「すまないな。よし、では、ティアーヌ。寝室に行こうか」

「にゃー。ありがとうにゃ」


 ティアーヌは嬉しそうに俺の腕にしがみついて寝室までついてきた。


「さて、まずは俺の体を拭け、その後ティアーヌの体を俺が拭く」

「わかったにゃー」


 そう言うとティアーヌは自分の服を脱ぎだした。

 フィーナとリゼットは俺の体を拭くときには服を着たままだ。

 恥ずかしいからだろう。

 しかし、ティアーヌはあっけらかんと豪快に法衣を脱ぎ捨てた。

 フィーナの引き締まった体とは違って、女性的なむっちりとした肉感のある体だった。

 法衣のせいで隠れていたがお尻には猫の様な細長いしっぽが生えている。

 さらに、目を引くのは大きめなフィーナの胸より二回りは大きいバストだ。

 フィーナより少し背が小さいため大きい胸がもっと大きく感じる。

 

 彼女の体を眺めながら俺も服を脱ぐ。


「にゃーが脱がせなくてよかったにゃ?」


 二人とは反応が違って戸惑う。

 恥じらいというものが全く感じられないからだ。


「ああ、服は自分で脱げるから大丈夫だ」

「わかったにゃ、じゃー。拭くにゃ。ご主人様は胸板が厚いニャー」


 筋肉がすごいとか、引き締まっているとか感想を述べながら力強く拭いていく。

 俺の下半身を拭くときには、初めて見たと言いながら興味津々にいじってきた。

 

「じゃあ、今度は俺が拭くぞ」 

「お願いするにゃー」


 そう言うと、足を肩幅に開き、腰に手を当て、胸を張る。

 巨大な胸が前に大きく突き出た。

 男らしいとも言えるような豪快な立ち姿だ。


「じゃあ、拭くぞ」


 拭かれている間も、くすぐったいと言ったり、胸は魅力的か聞いてきたり、おしりの形は自信があるとか、とにかく喋り倒しだった。


「拭き終わったぞ」

「やっとするにゃ?」

「ああそうだ」


 俺が答えると、すぐにベッドまで走って行き四つん這いになるとおしりを俺に向けてきた。

 細く長いしっぽが上にまっすぐ立っている。


「初めてだから優しくしてほしいにゃー」


 そう言いながらおしりを振って誘ってきた。


「まずはキスからだ」


 呆れた声で俺が言うと照れた笑いを浮かべて立ち上がった。


「ちょっと興奮しすぎたにゃー」


 優しく抱き寄せて、キスをする。

 ティアーヌは積極的に唇を押し付けてきた。

 流れに任せて舌を入れると、すぐに舌を絡ませてきた。

 舌はすこし、ザラザラしていたが本物の猫ほど硬いわけでもなく適度な刺激になって心地いい。

 そのまま体を愛撫すると、快感をそのまま声に出して喜んだ。

 一通り愛撫が終わり入れようとすると、初めてだから後ろからが良いと言われた。

 猫族は後ろからするのが普通らしい。

 要求通り四つん這いにさせて後ろからしてあげた。

 終わった後は、甘えて頭や頬を俺にこすりつけてくる。


「ご主人様はすごく上手だにゃ。初めてなのにとっても気持ちよかったにゃ」


 俺に抱きつきながら興奮冷めやらぬ顔で言ってきた。

 

……


 ティアーヌが増えたためベッドを一つ増やし三つ並べた。

 ベッドに四人で寝転ぶ、ティアーヌ、フィーナ、俺、リゼットの順番だ。

 ティアーヌはみんなで一緒に寝られることに、修学旅行生のように興奮していたが疲れが溜まっていたせいかすぐに寝てしまった。

 俺も左右の二人の体温を感じながら眠りについた。


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