モンスター狩り
ビゼル王国の三大都市の一つブルージュは、他国との街道が交わるという立地から商業都市として最も栄えた街だ。
その、都市ブルージュの近くにあるマフムード大森林は、都市に必要な木材や食料、薬草などを提供しながらもモンスターが跋扈する危険地帯でもあった。
それは、モンスターを狩る冒険者にとっては最も依頼がきやすい場所でもあり、冒険者がそこでモンスターを狩るだけでも都市と冒険者に多大な利益をもたらした。
---
「マフムード大森林でモンスターを狩るということでいいですね」
「ええ、あそこなら何度も行ってるし二人でも大丈夫だよ」
依頼には2種類あり、依頼者から出される目的が明確な依頼と、街が定常的に出しているものだ。
後者は、常に同じ依頼が出されており、今回はその中で最もポピュラーなモンスター退治の依頼を受ける。
これは、倒したモンスターの強さと数によって報酬が決まるため、新人の冒険者に人気があった。
「では、パーティーに入れます。
パーティー追加、ジョゼット」
「入るわ」
今回のためにフィーナとリゼットはパーティーから外している。
同様にジョゼットもドラゴンファングから一時的に抜けていた。
冒険者カードに彼女の名前が追加される。
――――――――――――――――
ジョゼット 19歳 女 LV 22
ジョブ ファイター
HP 186
MP 32
スキル ソードマスタリー アーマーマスタリー パリィ スマッシュ スウィープ クイックアーマー
装備 鋼のブロードソード 鋼の盾 鋼の胸当て 鋼の兜 鋼のブーツ 鋼のガントレット
――――――――――――――――
スキルや装備もオーソドックスで、この年令なら22レベルというのは高い方なのだろう。
彼女に冒険者カードを見せる。
事前にリゼットと相談をしたが、レベルなどの情報については、いずれはバレてしまうのだから無理に隠すのはやめるという答えに至った。
「俺のステータスです。
あまり言いふらさないようにして下さい。
できればパーティーメンバーにも黙っていて欲しいです」
バラすと決めたとは言え、あまり広まってほしくもない。
「隠さないといけないほどのことなの? 50レベル!」
「声に出さないで下さい……」
「ごめん、すごいレベルだから驚いちゃって……。
移動しようか」
マフムード大森林に向かうため、街の外を目指す。
「強いと思っていたけど、これほどとは思わなかったよ。
スキルの数もすごいし魔法も全属性使えるんだね。
ヒーローなんてジョブも聞いたことないし、何処から聞いたら良いかわからないよ」
後ろ歩きをしながら、興奮した様子で話しかけてくる。
「先に言っておきますが、私は過去の記憶がありません。
なので、自分が何者なのか、なぜレベルが高いのかなど答えることはできません」
「記憶がないの?」
「ええ、この国に来る前の記憶が無いのです」
「そうなんだ……。
なんかわからないことがあったらさ。
聞きなよ。
すぐに教えてあげるから」
「ええ、ありがとうございます。
剣のことなんかを教えてほしいですね」
「ところでさ……その敬語やめない?」
「え?」
「なんか、敬語で話されるとむず痒いし。
デートって感じがしないから」
「すいません。そうですね」
「また敬語になってる」
人差し指を俺に向けて指摘する。
「わかった。敬語はやめよう」
「それで良し」
訂正すると、偉そうな感じを出して腕を組みながらうなずいた。
「こんなに強いとあたしが戦う必要はないかもね」
「そうでもなくて困ってるんだ。
レベルもスキルもあるけど、基本的な戦士としての心構えや立ち振舞を知らないからね」
「あー。確かに、戦士にしては隙が多いね。
真正面の戦いなら勝てないかもしれないけど、不意打ちがありなら、あたしでも勝てそう」
「そうなのか?」
「例えば……」
彼女は、俺の前で右手の人差し指を立てると横に移動させる。
俺はその指を目で追って横を向いた。
指に集中していると、ほっぺを押される感触を感じる。
彼女の左手の人差し指が頬を突いてたのだ。
「ほらね? 気をそらせばほっぺにチューだって出来るわよ」
「……してもいいぞ」
「冗談よ! あたしそんなに尻が軽くないから」
突き出してた指を離して、俺の頬をペチンと叩く。
「どうやったら隙をなくす事が出来るんだ?」
「うーん。普段から警戒する習慣をつけるとかかな?
あたしの場合は子供の頃から剣の練習をしていたら自然と出来るようになってた」
「なるほどな。定期的に剣の訓練場に通うのが良いかもしれないな」
「そうしなよ。あたしが指導してあげてもいいわよ」
腕を組むと、ふふん、と得意げな顔をして言った。
「ところで、女の子でも子供の頃から剣を習うことは普通なのか?」
「あたしの場合は、子供の頃に男の子に混じって遊んでたからかな。
近所の子が剣を習ってて一緒に練習したんだよね」
「その子も冒険者に?」
「うん。あたしも彼に憧れて冒険者になったんだけどね。
一緒にパーティー組む前に死んじゃったみたい」
道端にあった石を蹴りながらつまらなそうに言った。
「悪い。嫌なことを思い出させてしまった」
「ううん。ずい分昔のことだし大丈夫。
それよりモンスターを倒しに行こう。
戦いの中で学べることも多いと思うよ」
道すがらマフムード大森林について聞いた。
場所によって雰囲気が全く違うらしく、奥に行けば行くほど危険なモンスターも多く、場所によって出てくるモンスターの種類も強さも違うという話だ。
その中で、比較的危険なモンスターの少ない場所に行こうと言われついて行くと、すぐにゴブリンに出会った。
「4匹か……余裕ね」
ジョゼットは剣を引き抜きながらペロッと唇をなめる。
俺も剣を引き抜いてゴブリンに対峙すると、ジョゼットの戦いぶりを横目で見ながらコブリンを袈裟斬りに切り捨てた。
彼女は、ゴブリンの棍棒を剣で弾くと、返しの刃で首筋を捉える。
続いてやってきたゴブリンの棍棒を剣で弾くと、流れるように腕に一撃を与え、怯んだ隙に首筋を切った。
俺の方に最後の一匹がやってきたので一刀の元に切り伏せた。
「うーん。さすがにこの辺のモンスターじゃ弱すぎたかな」
彼女は剣についた血糊を拭いながらこともなげに言った。
数が多ければ苦戦するかもしれないが4匹程度では彼女一人でも大丈夫な程だ。
「そうかもな。しかし、ジョゼットの動きはすごいな」
「ユウキに言われると複雑」
彼女はそう言って肩をすくめた。
一撃の技術と力は俺の方が高いのだが、連続した動きとなると彼女のほうが圧倒的に上だった。
攻撃から次の攻撃までの判断が素早くて、動作の隙が少ないのだ。
俺の場合には、一撃は良くても次の敵を見つけて攻撃に移るまでに隙が多く、動作もつながってないため無駄が多かった。
「本当のことだ。判断が早いし使う技も的確だ」
「そういうのは経験なのかな?
意識していないからわからなかった」
彼女は、剣をさやに戻しながらうーんと唸った。
「ところで、なんで俺をデートに誘ったんだ?」
朝からずっと疑問に思っていたことだった。
彼女を見ていると俺が好きとかではなく、単純に友達と遊びに行っているような雰囲気を感じるからだ。
「ユウキのことが好きだからだよ」
笑って言った後、表情に影が降りる。
少し黙った後、勢い良く頭を下げた。
「……ごめんウソ。
そういう嘘はいけないよね」
「別に謝らなくても良い。
俺のことが好きだから誘ったんじゃないことぐらいはわかる」
好きでは無いという言葉でむしろホッとしていた。
ジョゼットとは友達として付き合いたい。
そう思わせるような気軽さと人の良さを感じた。
「実はバルパスの事が好きだったんだよね。
だけど、エルミリーに取られちゃったの」
「それで、酒場でバルパスの方を向いてため息を付いてたのか」
「やだ、見てたの?
うん、そうなの。
だから、ユウキとのデートは気分転換というか、バルパスに対しての当て付けね」
ジョゼットは頭を勢い良く下げた。
「ごめん!」
「いや、そういう話なら別だ。
気晴らしならいつでも付き合うよ。
一緒に剣の訓練場に行くとか良いんじゃないかな?
体を動かせば気分が晴れるだろうからね」
「クラリーヌの言ってた通りユウキは優しいね」
「え? クラリーヌが言ってた?」
「うん、言ってたわ。
本人に聞いても否定すると思うけどね」
彼女は思い出してクスクスと笑った。
「そうなのかな?
俺はクラリーヌに大分、恥をかかせちゃったし」
「ふふ、キスを迫られて断ったんだってね」
「そんなことまで話したのか」
バツが悪くなって頭を掻く。
「ごめんごめん。
違うんだ。クラリーヌは落ち込んでたんだよ。
自分はユウキと付き合うことしか考えてなかったのに、ユウキは自分の事を考えてくれてたって」
彼女は体の前で手を振り否定した後、後ろに手を組んだ。
「いや、そういうわけではないんだけど……」
「今だって、自分が利用されているのに安心したとか、気晴らしに付き合ってくれるとか言ってくれたし、ボクのことを考えてくれてた」
「ボク?」
「あっ、子供の時に男の子とばっかり遊んでたから自分の事、ボクって言ってたんだよね。
今は、あたしって言ってるけどたまに出ちゃうんだ」
ジョゼットは苦笑いしながら説明した。
ボーイッシュの僕っ子は俺にとってはかなり好きなんですが。
「ボクなんて言ってたら、バルパスにふられるのも仕方ないね」
「ボクって言う女の子もかわいいと思うよ」
「ええ!? ただでさえ男っぽいのにボクとか言ったら、男だと思われちゃうよ」
「ジョゼットが女なんて誰も思わないと思うけど」
つい胸元に目が行ってしまう。
胸が大きいため鎧の胸の部分は少しふくらんだ形をしていた。
「ちょっと、どこ見てるのよ」
彼女は顔を赤らめながら鎧の上から胸を隠すように抑える。
しかし、すぐに小悪魔のような笑みを浮かべると俺に近づいてきた。
「じゃあさ、ボクとキスすること出来る?」
鎧同士がガシャッとぶつかり合うと、上目遣いで言ってきた。
「え?」
「うそうそ。
これじゃ、クラリーヌと同じになっちゃうよ」
ドキッとした。
ボーイッシュな女の子がボクと言いながら、照れ顔で上目遣いだ。
俺にとって夢の様なシチュエーションだった。
「なんだ、ウソなのか」
突然の展開に残念な思いが素直に出てしまう。
「あっ!
ごめん!
今日のボクって最低だね」
彼女は自分のした事を反省し顔を暗くする。
それから顔をあげると赤い顔をして言った。
「あのさ……。
キスしてもいいよ。
誰にも言わないから」
「ええ!?」
「ユウキを都合よく扱ったうえにひどい冗談を言っちゃったお詫び」
そう言うと、腕を後ろに組んで、顔をあげて目をつぶった。
『誰にも言わない』そんなことを言われれば、キスをするとまずいというブレーキが外れてしまう。
肩を掴むと、彼女はビクッと震える。
その時、樹の上からガサガサッと音がして何か大きな物が落ちてきた。
「に”ゃー!!!!」
ジョゼットは瞬時に危険を察知すると、俺を突き飛ばし後ろに大きく跳躍する。
俺は状況をうまく飲み込めないながら、落ちてきた物が女の子だと気づくと、受け止めようと手を伸ばした。
腕で支えようとするが、勢いと重さで仰向けに倒れてしまった。
そして、胸の上に女の子が勢い良く乗っかる。
「ふにゃっ!」
「ぐふっ」
胸のあたりに焼けつくような痛みが走る。
「大変にゃ!
怪我したにゃ?
すぐに回復するにゃ」
彼女は俺にまたがったままヒールをかけてきた。
「大丈夫かにゃ?」
「ああ、なんとかな」
よく見ると昨日出会った猫耳の女の子だ。
「ごめんにゃさい。
頭は打ってないかにゃ?」
俺の頭を両手で触って怪我が無いか確かめる。
そのせいで、目の前に大きな山が二つ迫ってきた。
それは、触れるか触れないかの距離で、彼女の腕の動きに合わせてたぷたぷと揺れ動く。
「いつまで乗っかってるのよ」
「に゛ゃ゛ー!」
猫耳の子は勢い良く俺から転げ落ちる。
見るとジョゼットの足が前に突き出されていた。
「ひどいにゃ。蹴ることはにゃいと思うにゃ」
「あんたのせいでユウキが怪我したじゃない。大丈夫?」
しゃがみながら俺の顔を心配そうに覗きこむ。
「ああ、彼女が回復してくれたから怪我はない」
「そうにゃ。にゃーが回復したから大丈夫だにゃ」
「なんで木の上から落ちてきたんだ?」
俺は起き上がりながら聞いた。
「お昼寝してたにゃ」
「こんなモンスターの出る場所でか?」
「木の上なら安全だにゃ。それに、にゃーは耳と鼻が良いからモンスターが近づいてもわかるにゃ」
「その割には、木から落ちてきたけどな」
「起きたら発情の匂いがしたからびっくりして落ちちゃったにゃ」
「発情の匂いって何よ?」
「エッチな気分になると出る匂いだにゃ。
二人共すごい匂いを出しているにゃ」
その瞬間、猫耳頭に拳が舞い降りた。
「あたしは、発情なんてしていないわよ!」
「痛いにゃー。暴力反対だにゃ」
「ところで、名前はなんて言うんだ」
喧嘩になりそうだったので話をそらす。
「にゃーは、ティアーヌだにゃ」
「俺はユウキ、彼女はジョゼットだ。
で? ティアーヌはここで何をしてたんだ?」
「追われてたから隠れてたにゃ。気がついたら寝ちゃってたにゃ」
「なんか悪いことでもしたのか?」
「そんな、大変なことはしていないにゃ!
ちょっと、つまみ食いしたくらいだにゃ」
ジョゼットは呆れ顔だ。
「そんなのだったら、わざわざ逃げる必要ないんじゃない?」
「かなり怒ってたなにゃ。だからにゃーは逃げるにゃ」
「逃げるってこんな所じゃ危ないだろ」
「大丈夫だにゃ。
この先に廃墟の神殿があるからそこに隠れるにゃ。
にゃーの秘密の場所だにゃ」
「危なそうだから送ってやろうか?」
「嬉しいけど、モンスターは鼻でわかるから大丈夫だにゃ。
発情の匂いを出されるとわからなくなるにゃ」
もう一度、拳が頭に落ちてきた。
ティアーヌは頭を両手で抱えてうずくまる。
「だから、発情なんてしていないって言ってるでしょ!」
「ひどいにゃー。とにかく一人で大丈夫だにゃ」
ティアーヌは何かを思い出し、パンと手を合わせた。
「そうだにゃ。昨日のお詫びもしなきゃいけないにゃ」
「昨日?」
「ああ、昨日もティアーヌとぶつかったんだ」
「でも、今は何も持ってないにゃ」
腕を組んで座るとうーんと唸ると、勢い良く立ち上がり自分の胸を両手で持ち上げた。
「そうだにゃ!
おっぱいを触らせてあげるにゃ」
またしても、ジョゼットの拳が飛ぶ。
「ポンポン頭を殴ってはいけないにゃ!」
「あんた、いつも人に体を触らせてるの?」
「そんな、はしたない女じゃないにゃ。
今は何も持ってにゃいし、ユウキとは運命を感じるにゃ」
「「運命?」」
ジョゼットと俺の声が重なる。
「2日続けて、しかもこんな場所で出会うにゃんて奇跡だにゃ。運命の赤い糸だにゃ」
ティアーヌは俺の手を取るとキラキラした目で俺を見つめた。
「そ、そうか。
運命かどうかは分からないが。
お礼はいらない」
「そうかにゃ?
雄はみんなにゃーのおっぱいが好きだと思ってたにゃ」
残念そうに肩を落とした。
もちろん、俺も彼女の柔らかそうな大きな胸は触ってみたい。
が、ジョゼットを前にして、揉む訳にはいかない。
「わかったにゃ。
今はお礼ができにゃいからもう行くにゃ。
また出会ったらお礼をするにゃ」
そう言うとティアーヌは、森のなかに走っていった。
「騒がしいやつだな」
俺は呆れながらため息をつく。
ジョゼットはしばらく沈黙すると、胸の前で指を絡ませながら照れた表情で聞いてきた。
「キスの続きする?」
「い、いや、やめておこう。
勢いとか雰囲気でするのは良くない」
「ボクって魅力ないかな?」
少し潤んだ瞳で、俺の目を真っ直ぐ見ながら聞いてきた。
「そのボクっていうのやっぱりやめたほうがいいかも」
俺は顔をそらす。
彼女を見つめていて、その気になってしまっては大変だ。
「ボクって言うのがかわいいんじゃないの?」
不思議そうな顔をして俺を見つめている。
「俺はちょっと変な趣味をしているだけだから気にしないでくれ」
「なによそれ? ボクが変だって言ってるの?」
腰に手を当てて頬を膨らませた。
「ごめん。そういう意味じゃないんだ。
むしろ魅力的すぎて困るというか」
「クラリーヌも言ってたけど、ユウキってそういうこと平気で言うのね」
「そういうこと?」
「女性を誘惑するようなセリフよ」
「ええ? そんなつもりは全然ないんだけど」
「その、悪気がないっていうのがたちが悪いのよね」
彼女は、頭の後ろで手を組むと大きなため息をついて歩き出した。
「あーあ。これじゃクラリーヌが惚れ込んじゃうのも仕方ないね」
俺は困って頭を掻くと彼女についていった。
……
その後、モンスターを何体か狩り、街に戻ってきた。
夕焼けの街の入口でジョゼットが呼び止める。
「訓練の成果が出たか、あたしが確かめてあげる」
そう言うと今朝やったように、右手の人差指を立てて横に動かす。
俺は不意打ちでやられたため反応できずに横を向いてしまった。
しまった! と思った瞬間に、俺の頬に柔らかい感触がした。
目を向けると彼女の顔がすぐ近くにあった。
「へへ、ユウキはまだまだだね」
ジョゼットは赤い顔で舌を出して言った。
「あっ! 勘違いしないでよ。
別に、好きになったわけじゃないから。
今日のお礼ってところかな」
俺は突然のことに、頬に手を当ててしばし呆然とする。
「ユウキじゃない何やってんの?
あれ? ジョゼットも一緒?」
声のした方に顔を向けるとクラリーヌと風の射手のメンバーがいた。
「二人してどこ行ってたの?
フィーナとリゼットは?」
「ああ、ジョゼットとモンスター狩りに行ってたんです」
「二人っきりのモンスター退治デートよ」
ジョゼットが腕を組んで勝ち誇った表情でふふんっと笑った。
クラリーヌはジョゼットをわざとらしく無視すると、俺に向かって言った。
「あたしとの約束は忘れてないわよね?」
「もちろん忘れてないです」
目を細めて、俺の事をしばらく見つめる。
「決めた! 次はあたしをモンスター狩りに連れてって」
「構いませんが、それだと驕られた分が返せませんが」
「報酬から返しくれればいいわ。
さっ冒険者ギルドに行きましょ」
クラリーヌは冷たい声で言うと、さっさと冒険者ギルドに向かって歩いていった。
冒険者ギルドにつくと、いつにもまして騒がしい。
「騒がしいな」
「オーク討伐の日時が決まったみたいね。
明日の朝?
随分急ね」
「みなさんも行くんですか?」
「ええ、当然参加するわよ。
こういう所で領主に恩を売っておくのは大事だからね。
ほとんどの冒険者が行くんじゃないかしら?」
クラリーヌが言うと、ジョゼットが腕を組んだ姿勢で先生を気取って俺に講義した。
「こういう依頼は危険度が高いのが多いから気を付けたほうがいいわよ」
「ああ、わかった」
……
家に帰ると、二人は夕飯の支度を終えていた。
夕食を食べながら今日のことについて話す。
「以前から受けていた大規模なオーク退治が明日決行されるようだ。
朝早くから冒険者ギルドに行くからな」
「わかりました」
「フィーナは今日はついてきてたのか?」
「いえ、ジョゼットなら心配なさそうなので家事をしてました」
「ご主人様はクラリーヌとジョゼットを仲間にする気なのかしら?」
「いや、彼女たちは別のチームもあるし今のところ仲間を増やす気はない。
二人がいれば俺は満足だからな」
「でしたら、あまり深入りはしない方がいいと思うわよ」
リゼットはいつもどおりの呆れ顔だ。
「ジョゼットについては、気晴らしに付き合っただけだ。
今後、剣の訓練を一緒にしたりするかもしれないが、友達という感じだな」
「クラリーヌは?」
「クラリーヌもできればいい友達になれればうれしいが……」
「ご主人様は押しに弱そうだから気をつけた方がいいわね」
「ああ、心配をかけてすまない。
改めて言うが俺は二人がいれば満足だ。
むしろ、俺には出来すぎた……恋人たちだと思っている」
何度言っても恥ずかしい。
「ありがとうございます。
ご主人様に言われるともっと頑張りたくなります」
フィーナは顔を赤くしているが素直に喜んでいる。
リゼットは顔を赤くしてもじもじしている。
「もう、そう言われたら何も言えなくなっちゃうじゃない」
お互い恥ずかしさのため沈黙の時間が流れる。
……
食事を済ましてベッドに入ると二人を左右に寝かせる。
いつもならすぐにでも襲いかかっているところなので、フィーナが心配そうな顔で聞いてきた。
「今日はしないんでしょうか?」
「今日はゆっくりと楽しもうと思ってね。お前たちはして欲しいこととかないのか?」
「うーん、いつもご主人様には良くしてもらっているので満足しています」
二人は俺に対して要求をしてくる事がない。
フィーナはベッドの上では積極的ではある。
しかし、積極的といっても自分が楽しむためではなく俺を喜ばせるためだ。
俺を気持ちよくするために腰を動かしたり舐めてきたリ、いつも尽くしてくれる。
リゼットは、消極的で自分から何かをしてくることはなく、いつも俺にされるがままだ。
もちろん、俺が要求すればその通りにしてくれる。
だからと言って、行為が嫌いなわけではない、自分から動くのは恥ずかしい、はしたない、エッチだと思われたなくないなどの気持ちが強いようだ。
その、普段はされるがままのリゼットが遠慮がちに要求してきた。
「あの……キスマークを付けてほしいの」
「キスマーク?」
「それなら、私もつけてほしいです」
「それがうれしいのか?」
俺としてはキスマークを付けたいという気持ちになったことはない。
そもそも、考えた事すらなかった。
「ご主人様の物だという証明がほしいの」
「私もです」
「わかった。お前たちが望むならそうしよう」
二人を座らせると、キスマークを付けるため、胸元に強く吸い付く。
吸っているときには、二人ともいとおしそうに頭を撫ながらうっとりとした表情をしていた。
「出来たぞ」
跡が付くと二人ともキスマークを指先で撫でている。
「これで、私たちは愛し合っているという証明になりますね」
「そうね。ご主人様とはただの所有者という関係だけじゃなくなったわ」
その言葉を聞いて『ご主人様の物』という意味を理解した。
ただの、所有物やメイドなどではなくそれ以上の関係だという確証がほしかったということだ。
その気持ちはうれしい。
さっきまでは興味がなかったが、二人に俺のキスマークがついているのを見ていると、独占欲が満たされた。
二人を抱きしめる。
「お前たちは一生俺のものだ。絶対に手放さないし、逃がさないからな」
「はい、一生ご主人様についていきます」
「あたしもご主人様から一生離れないわ」
フィーナは嬉しそうに、リゼットは目うるませながら宣言した。
そのまま、二人を押し倒すとキスをする。
愛撫しながら、俺のものだと言うと、「ご主人様の物なので好きにして下さい」と言ってくれた。