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酒場

 けだるい気分で目を覚ますと、すぐにフィーナが軽いキスをしてくる。

 この唇と体に感じる柔らかな感触のため多少の気だるさもすぐに解消されてしまう。


「おはようごさいます。ご主人様」

「おはよう」


 物足りなかったので、情熱的にキスを返して、フィーナの口の中を舌で味わう。

 俺がやることには何でも、きちんと答えてくれる。

 ねっとりと絡みつけ、吸い、ねぶると口を離した。

 彼女はぷはっと一呼吸をすると今度は自分から舌を入れてきた。

 吸い付くと丹念に口の中に舌を這わせ、一通り楽しむと口を離す。


 続いてリゼットに顔を向ける。

 俺達の濃厚なキスを見たためか、顔を火照らせたリゼットがすぐに情熱的なキスをしてくる。

 同じようにねっとりと舌を絡ませお互いに吸い合い、続いて唇を吸い合う。

 俺の首に手を回し、唇を押し当てつつ唇を軽く吸うのを何度か繰り返し口を離した。


「ご主人様。おはよう」

「おはよう」


 こんな至福のひとときだが俺の心には小さな棘が刺さっていた。

 クラリーヌは俺の事を好きだと言ってくれた。

 しかし、彼女たちはどうだろうか?

 そんなこと聞くまでもないと思いながらも、不安が口から出てしまう。


「お前たちは俺のことを、どう思っているんだ?」


 俺は布団に横たわったまま天井を見つめて聞いた。


「どう思うってどういうこと?」


 リゼットが俺の手を握り素直な疑問を口にした。


「つまり……俺のことが好きなのだろうか?」

「ご主人様の事は大好きですよ?」


 フィーナは体を少し起こすと、俺の目を見ながら、なぜそんなことを聞くのかという感じで答えた。


「どんなところがだ?」

「全部です!」


 拳を握りしめるような勢いで、間髪入れずに答える。

 嬉しいと思いながらも顔には出さなかった。

 照れくさかったからだ。


「そうか、逆に嫌いなことは有るか?」


 気になったのでついでに聞いてみるとフィーナは少し悩んで答えた。


「ちょっとヘンタイなところでしょうか?」

「ヘンタイなところを直したらもっと好きになるか?」


 彼女は、ばふっと布団に倒れこむと、うーんと唸り答えた。


「やっぱり、今のままでいいです」

「フィーナはヘンタイの俺が好きなのか?」

「気持よくしてくれるならヘンタイのままが良いです」


 顔を真っ赤にして答えると布団に突っ伏してしまった。

 実際、彼女は俺が多少変なことを要求しても許してくれる。

 素の状態では恥ずかしがって拒否するがベッドの上では別だ。

 かわいいので、頭をなでてあげる。

 ついでに、横から胸も揉んであげる。

 体を半回転させて、今度はリゼットのほうを向く。


「リゼットはどうだ?」

「言うまでも無いことだけど、強くて、でもおごらないし、丁寧だし、気配りができて優しいわね」

「ありがとう。だが、肝心なことに答えてもらってないのだが」


 リゼットは、目をそらせて俺の腕から胸に手を這わせながら言った。


「答えなくてもわかると思うけど……」

「できれば口に出して言って欲しい」


 リゼットは体を回転させて布団に顔を押し付けながら、ほとんど聞き取れないような小さな声で言ってくれた。


「…キ」

 

 横からでもはっきりわかるほど顔が真っ赤だ。

 俺は頭をなでる。


「無理やり言わせて悪かったな」


 俺は深呼吸をする。

 彼女たちに言わせたからには自分も言わないといけないと思った。

 結構な勇気が必要なため深呼吸を数回繰り返す。

 二人とも不思議そうに俺を見ている。

 フィーナの方に向いてはっきりと言う。


「俺はフィーナのことが好きだ」


 想像以上の恥ずかしさに頭がくらくらした。

 不思議そうな顔をしていたフィーナの顔がボフッという感じで一気に赤くなると、またしても布団に突っ伏した。

 そして、顔を布団にゴシゴシこすりつけて足をバタバタさせている。

 今度は、リゼットの方を向く。

 彼女は嬉しそうな恥ずかしそうな困ったような複雑な表情をしている。


「俺はリゼットのことが好きだ」


 再び頭に血が上りめまいがする。

 彼女は、俺の顔をまっすぐ見ながら硬直すると、しばらくして頬に涙が伝った。

 涙は段々と量を増していき鼻の頭が赤くなる。

 ついに耐え切れなくなって嗚咽を吐きながら泣きじゃくった。

 何が何だか分からないが、頭を抱いてなでてあげた。


「あたしの事を好きになる人なんていないと思っていた。わたしもご主人様が好きです」


 泣きじゃくりながら言ったため、聞き取りづらかったがそう言った。

 お互いに好き会う関係になるのをずい分前に諦めていたのだろう。

 そして、絶望の中、アンデットに囲まれて暮らしていたのだ。

 俺は泣き止むまでずっと抱きしめて頭を撫でていた。


 泣き止んだ後はキスをする。

 優しい軽いキスを数度。

 そして、二人と体を使って愛を確認しあった。


---


 午後になり、お昼を食べてから冒険者ギルドを訪れる。

 いい依頼が無いかと掲示板をながめる。


「なんか、でっかい張り紙がしてあるな」

「領主から話があった大規模なオーク討伐の依頼ね」

「日程はまだ決まってないみたいだな。剣の訓練場の件ではお世話になったし、とりあえず参加表明はしておくか」

「今日はどんな依頼が良いですか?」

「そうだな、酒場は遅くから行くから、ちょっと遠い場所でも良いな。ん? これは面白そうだな」

「海岸沿いのモンスター退治ですか?」

「ああ、近くに海があったんだな。ちょっと見に行ってみたい」

「では、この依頼と先ほどのオーク討伐の依頼を受けましょう」


 依頼を受けた後に海岸線に向かいながら会話する。


「二人とも泳げるのか?」

「私は泳げないです」

「あたしもね。というか、漁師とかでないと泳げる人って少ないと思うわよ」

「そうなのか。川で水浴びとかはするのか?」

「それくらいならするわね」

「そういえば、水着ってあるのか?」

「水着ってなんですか?」

「水に入るときに着る服だ」

「普通は裸か下着で入るわね」


 この世界だと水着はなく裸か下着で水遊びをするのか。

 今度川に行ってみようかな。


「ご主人様、いやらしい顔してます」

「川に行っても女性が水浴びしていることなんてめったにないわよ」


 見透かされている……。


 そんな話をしながら3時間ほど歩くと海岸についた。

 海岸沿いの街道を歩いてモンスターを探すとすぐに見つかった。

 2メートルほどもある巨大なタコ型のモンスターだ。

 ぬめぬめしている長い八本の足をくねらせている。

 地上にいるため高さはさほどでもないが広さは直径10メートルはありそうだ。


「こんなところに、クラーケンがいるなんて珍しいわ」

「海に住むモンスターだよな」

「そうね。海で出会ったらかなり厄介だけど。地上なら楽ね」


 そういいながら、ジャイアントスケルトンを3体召喚する。

 俺はそれを見て少し試してみたくなった。

 しばらく間が空いてからジャイアントスケルトンがさらに2体召喚される。


「あれ? リゼットはいつのまに5体も出せるようになったんですか?」

「2体はご主人様よ。ね?」


 フィーナ質問に、リゼットがあきれた表情で俺を見てきた。


「ああ、ちょっと試してみたらできてしまった」


 2体だからリゼットよりは効果が低いということだろう。


「剣のスキルを覚えた時に予想はしてたけど、本当にできちゃうなんてね。

 まあ、魔法やスキルを見て覚えるのは誰でもできることではあるわね。

 ご主人様はそれが人より格段に早いけど」


 そう、俺は試合をしながら相手のスキルを覚えるという体験をしたため、魔法やスキルを見ただけで使える様になっていた。

 もしかしたらヒーローというジョブの特性なのかもしれない。


「ご主人様はすごいです。見ただけでなんでも出来ちゃうんですね」

「ああ、自分でも驚いている」

「とりあえず目の前のモンスターを倒しましょ。クラーケンは火に弱いわ」


 見ると、ジャイアントスケルトンがクラーケンの足にまとわりつかれて身動きが取れなくなっていた。

 リゼットがファイアーエレメンタルを召喚したあと後、俺もファイアーリザードを召喚する。

 火に炙られたクラーケンは見る間に赤くなって行き、タコが焼けた様な美味しそうな匂いがした。


「クラーケンって食べれるのか?」


 リゼットに聞いてみたらすごくいやそうな顔を向けられた。


「いや、クラーケンにそっくりな生き物を知ってるんだ。もっと小さいけどな、それは美味しいんだ」

「クラーケンを食べるという話は聞いたことがないわね。

 もしかしたら漁師とかは食べるのかもしれないけど」


 せっかく海に来たので、海岸沿いを歩く。

 海沿いは、絶壁の岩場になっていて波も高い。

 到底泳げるような感じではなかった。

 そもそも海はモンスターも多く入るのは、とても危険だと言われた。

 その後、海水浴ができないという残念な思いを残しながら冒険者ギルドに戻る。

 報酬は金貨1枚だった。

 海の上で出会えば危険なモンスターの為、金額が高く設定されているらしい。

 報酬を受け取り終わったころには、暗くなっていたのでそのまま酒場を訪れる。

 酒場に入る前に二人に注意を言っておく。


「フィーナはお酒に弱いみたいなので飲まないように」

「はい。前みたいにご主人様より早く寝ては大変です」

「俺は場合によっては酔いつぶれるかもしれない。その時は介抱を頼む」

「わかったわ」


 親交を深めるためにたくさん飲むことも考慮に入れておく。

 俺はもともとお酒は軽く楽しむ程度で二日酔いや記憶がなくなるほど飲んだことはなかった。

 そもそも、一緒にお酒を飲むような友達もいなかったわけだが……。

 酒場に入ると目線が俺に集まり、活気があり騒がしかった酒場がさらにざわついた。


「お前が、あおい魔法剣士のユウキか?」


 三人の男が近づいて来て、その中のスキンヘッドの大柄な男が話しかけてきた。

 あとは、猫背のひょろ長い男と、目深に帽子を被った男だ。

 蒼い魔法剣士。

 自分では気づいてなかったが、青い鎧は目立つ。

 だから、そんな通り名がついたんだろう。

 中には目立つために派手な格好をしている人もいるが、普通は皮鎧か金属鎧なので茶色いか銀色だ。


「ああ、そうだ。よろしく」


 俺はにこやかに挨拶をしたが、スキンヘッドの男はにらんでくる。


「おっ! かわいい子を連れてるじゃん」


 ひょろ長い男がフィーナに近寄ろうとしたので手を出して制止する。


「なんだよ?」

「人の連れに手を出さないでもらいたい」

「ああん? 生意気なやつだな」


 ひょろ長い男は下から俺を覗き込む。

 面倒な相手にどうするか思案していると一人の男が割って入ってきた。


「この人は俺の恩人だ。手を出したいなら俺が先に相手になる」


 その男はドラゴンファングのバルパスだった。


「そうよ、ユウキに手を出したいなら、あたしたちを倒してからにしなさい。

 実際、あたし達よりずっと強いんだから」


 そう言ったのは、席に座っていたクラリーヌだ。

 周りを見るとドラゴンファングと風の射手のメンバーも座っていた。

 クラリーヌを含め全員鎧を着こみ冒険者の格好をしている。

 舌打ちをすると三人の男は自分の席に戻っていった。

 他の冒険者も好奇の目は向けているが変に手を出す気は失せたようだ。


「こっちに来いよ」


 バルパスの言葉に従ってドラゴンファングと風の射手がいる近くのテーブルに移動する。

 

「助けてもらってありがとうございます」

「あいつらは新しいヤツには必ず因縁をつけるんだ。まあ、弱いからユウキなら一捻りだろうけどな」

「ああいう面倒事は苦手なんだ。クラリーヌもありがとう」

「あんたのために言ったんじゃないわよ。あいつらがうざいだけ」


 そう言うとそっぽを向いてしまった。


「いだだだだ。悪かった。本気で取ろうとしたわけじゃないんだ。いだだだだ」


 背後から男の悲鳴が聞こえたので、振り返るとフィーナが男の腕をひねりあげ、首筋にダガーを押し当てていた。


「どうしたんだ?」

「ご主人様の財布を盗もうとしていました」


 フィーナはいつもの可愛らしい声ではなく、ピンと緊張感のある低い声を出す。


「ああ、そいつはいつも人の財布を盗んで自分の技を売り込むんだ。優秀なシーフが必要だろうってな」


 ドラゴンファングのレンジャー、カジミールが両手を広げて肩をすくめながら説明してくれた。


「フィーナ、離してやれ」


 無言で離すと一歩後ろに下がる。


「ありがとよ。しかし、優秀なシーフがいるんじゃ俺の出番はねーな」


 男はひねられた腕を痛そうにさすりながら、俺達から離れて席に座った。


「酒場っていうのはやっぱり荒事が多いんだな」

「ああ、冒険者が集まる場所だと特にな」


 バルパスが補足する。

 酒場にも種類があって集まる層が結構違うらしい。

 ここは、冒険者が多いからいさかいが絶えない。

 むしろ、それを楽しんでいる奴らも多いとか。

 座ったらどうだと促されたので、席に座るとフィーナとリゼットも俺の左右に座った。


 周りを眺めると丸いテーブルがいくつか置かれており、カウンター席もある。

 40人ぐらいが座れそうな席はほとんど埋まっていた。


「あっ、あの。蒼い魔法剣士のユウキさんですよね。

 クリフナイフのリーダをやってますエマニックです」


 見上げると、幼さが少し残る若い男が目をキラキラさせて挨拶してきた。


「ああ、ユウキだ。よろしく」


 俺は立ち上がって挨拶をしたが、エマニックは恐縮してしまった。

 彼は、俺がすごいやら、尊敬しているやら、指導して欲しいとか、一緒に冒険に行きたいとか、そんなことをまくし立てた。

 俺が、「ああ、機会があったらな」と適当に答えると、「よろしくお願いします」と頭を下げて元の席に戻っていった。


「彼は冒険者になりたてのチームでね。俺がユウキのことを話したら、すごいすごい言ってたな」

「蒼い魔法剣士ってバルパスが広めたんですか?」

「いや、俺というよりは彼女らだな」


 話によると、二つのチームの女性冒険者達から他のチームの女性冒険者へと広がるという、普通とはちょっと違った広まり方をしたらしい。

 よくよく考えれば、ドラゴンファングも半分は女性だし、風の射手は全員女だ。

 そいう流れが自然なのかもしれない。

 その後も、2人ほど若手冒険者が挨拶に来た。

 そうこうしているうちに、目の前のテーブルには酒と料理が運ばれていた。

 俺が話している間にカジミールが適当に頼んでくれたらしい。


「せっかく酒場に来たんだから酒を飲もうぜ」


 カジミールは楽しそうにそう言うとジョッキをかかげた。

 俺もジョッキを受け取り、酒を飲みながら冒険者のチームについて聞いてみた。

 レベル20以下のチームがほとんどらしく、ドラゴンファングや風の射手と同じ20レベル台のチームが4つと30レベル台のチームが2つ。

 あとは、40レベル台のシルバーソードがいるが、平均年齢が40を超えているので一線からは退しりぞいている。

 なので、今一番強い冒険者は青薔薇という30レベル後半のチームらしい。


「この酒場にレベルの高い冒険者はいますか?」

「ああ、今いるのはあそこに座っているシルバーソードのジェロマンさんぐらいかな」


 カウンター席に目をやるとあご髭を生やした白髪交じりの男が一人でちびちびとお酒を飲んでいた。

 挨拶に行ったほうが良いか聞くと、一人で飲むのが好きな男で挨拶とか面倒なのは嫌いらしい。


「堅い話ばっかりしてるー。もっと楽しみましょうよー」


 会話に割って入ってきたのは、風の射手のエロディットだ。

 金髪ロングの人懐っこい感じの女性だ。

 冒険者たちの中では一番女性っぽく、ファッションや色恋沙汰が大好きみたいで、いわゆる女子と言った感じだ。

 ちなみに、冒険者たちは見ためで判断するなら大学生ぐらいの年齢だろう。


「ユウキとフィーナって付き合ってるの?」

「ぶっ!!」


 好奇心からくる率直な質問に俺は酒を噴き出してむせてしまう。

 むせながらどう答えるか考えていると、リゼットが冷静な口調ではっきりと言った。


「ご主人様とあたしは、主人と所有者という関係です」


 エロディットは自分の聞きたかったことをはぐらかす答えに、あごに人差し指を当てて、んーと考えると、とんでもないことを言い出した。


「じゃあ、あたしがユウキと付き合っても問題ないよね?」


 俺はまたしてもむせてしまう。


「ご主人様がいいなら私達は何も言いません」


 そこは、拒否してほしかった……。

 その話を横で聞いてた風の射手のペレニックとジスレニスがじゃあわたしもと言ってきた。

 俺は押し寄せる女性陣にどうして良いか分からずに笑ってごまかす。

 しかし、意外なことにクラリーヌだけは、その輪に入ってこず一人で飲んでいた。

 俺が気になって目線を送ると、顔をそむけられる。

 この間のデートで俺って嫌われたのか。

 思ったよりもショックを受けている自分に驚く。

 先程から無口だったベルナンドがお酒の瓶を持って俺の近くに座ると、勢いよくコップを置いて酒を入れた。

 ベルナンドは、ガタイがよく身長172cmの俺よりだいぶ大きい。

 筋肉も立派で、女性ボディビルダーといった感じだ。

 俺にコップを差し出すと「飲め」と一言だけ言った。


「ベルナンドは気に入った強い男性に、お酒を飲ませたがるの」


 エロディットがフォローしてくる。

 渡されたお酒をすこし味わってみた。

 予想通りウォッカのような度数の高い酒だった。

 さすがに、いきなりついお酒を飲んでつぶれるわけにはいかない。


「すまない、俺はあんまりお酒は強くないんだ」


 この世界に来て酒を飲むのは2回目なので、この体だと強い可能性もあるが自信はなかった。

 拒否するとベルナンドは残念そうにため息をついて席を立ってしまった。


「ただ強いだけじゃなくて、お酒も強い男じゃないとだめらしいの」


 またしても、エロディットが説明してくれる。

 彼女は、ただ軽いだけじゃなくて空気を読んだりフォローするのが上手い様だ。

 風の射手の女性たちは女性たち同士で盛り上がり始めた。

 会話の内容は主に恋の話とファッションの話だ。

 たまに俺達に話を振ってくる。


 横を見ると酒に自信があるのか、ただの酒好きなのか、リゼットが俺が残した強いお酒を飲んでいた。

 フィーナは料理を食べながら静かに座っている。

 ドラゴンファングの面々はどうしているかと目を向けてみた。

 体格のいい男の戦士ザールと女性メイジのディアナは、たまに会話をする程度だが、ちょっといい雰囲気だ。

 ちなみに、ディアナは小柄で眼鏡のおさげで胸が大きかった。

 その横を見ると、バルパスと女性プリーストのエルミリーがイチャイチャしていた。

 いつもきりっとした顔のバルパスがデレデレしているのは、ちょっとだけ気持ち悪い。

 エルミリーはピンク髪の巨乳ちゃんで、間延びしたしゃべり方をする男性に好かれるタイプ。

 男にこびたような態度をとる彼女は苦手だ。

 女剣士のジョゼットはパルパスのほうを見てため息をつくと、つまらなそうに一人でお酒を飲んでいた。

 レンジャーのカジミールは風の射手の女性陣の輪に入り盛り上げているが、あまり男として相手にされてなさそうだ。

 俺は酒場の雰囲気は好きなので、お酒を楽しみながら眺めていた。


 ……

 ……

 ……


 女性陣と適当に話しながらお酒を楽しんでいると、急にリゼットが腕に抱きついてきた。


「ごしゅじんさまー。あたまなでてー」


 顔色は多少赤くなる程度だが目が虚ろで、動きも怪しかった。

 普段は出さないような甘えた声を出して頭を向けてくる。

 人前でちょっと恥ずかしいが、頭を撫でる。


「ごしゅじんさまー。キスしてー」


 そう言って無邪気に目をつぶり顎を上げてきた。

 俺は固まる。

 俺だけではないリゼットとフィーナ以外は固まっていた。

 リゼットは見た目は子供だ。

 その子供に普段からキスをしているなら確実にヘンタイヤローだ。

 実際は子供でもないからキスもしているのだが知らない人から見たらヤバイ。

 どう言い繕っても藪蛇やぶへびにしかならなそうだが説明をするしかない。


「あれだぞ、リゼットは幼く見えるが魔法によって若くなっているだけで、俺達より年上だからな」

「そうよ、あなたたちよりおねーさんなんだから」


 言い方は全然お姉さんっぽくないが胸を張って宣言した。

 人前ではなかったら胸を撫でてる所だ。

 冒険者達は、リゼットが中級の召喚魔法を使っているのは見ているので、ただの子供じゃないことは知っている。

 それゆえ、一応納得したらしい。

 それどころか、若い姿になれるという言葉を聞いて女性たちが集まりだした。

 よく考えたら普通の女性からすれば永遠の若さというのは夢の様な話だ。

 リゼットにどんな魔法を使ったのか必死に聞こうとしている。

 しかし、リゼットは酔っ払っているので要領を得ない感じだ。


 また、キスを迫られたら困るので、リゼットから離れることにした。

 何処に行こうか周りを見渡して、一人で居たクラリーヌと目があったが、やぱり顔をそらされてしまった。

 仕方ないので、つまらなそうに一人で飲んでいるジョゼットの隣に座る。


「先輩剣士のジョゼットに戦いについて聞きたいのですが」


 ジョゼットは首を傾けながらうつろな目で俺を見ると苦笑しながら言った。


「それって、嫌味?」

「とんでもない、真剣な悩みです」

「あたしって女として見られないのかしらね?」


 大きくため息を付きながらコップをゆらゆらと揺らしている。


「どういう意味ですか?」

「だって、女として見てるなら剣のことなんて聞かないでしょ?」


 お酒を飲み干すと、酒瓶からお酒を注ぐ。

 随分と酔っているらしく少しろれつが怪しい。


「それは失礼をしました。あなたはとても魅力的な女性ですよ」


 実際、彼女はかわいかった。

 短く切った黒髪で、中性的な凛々しい顔立ちではあるが女性の魅力もしっかりある。

 これで僕っ子だったら俺は一瞬で落ちていただろう。


「なんか、お世辞っぽいなー。じゃあ、あたしとデートする?」

「いや、それは」

「やっぱり、嫌なんじゃないかー」


 彼女は机に腕を投げ出すと突っ伏してしまった。


「いえ、そういう意味ではなくてですね。

 女性をエスコートするのが苦手でして、デートしてもつまらないと思いますよ」

「でも、クラリーヌは楽しかったって言ってたよ」


 え?

 さっきから顔を会わあせてくれなかったからすっかり嫌われていると思っていたが、楽しかったのか?


「ね? クラリーヌ?」


 ジョゼットは俺の隣を見ながら言った。

 横を向くと離れて飲んでいたはずのクラリーヌが座っていた。

 目線が合うとすぐに顔をそらしてしまう。


「あたしそんなこと言ってないから」

「そう? まあ、良いけどさ。じゃあさー。ユウキ、今度デートして」


 デートでは痛い目を見ているのでできれば断りたい。

 が、断って彼女が落ち込んでしまうのも嫌だ。


「つまらなくても良いのであれば、俺は構いませんが」

「やったー。クラリーヌもいいよね?」


 ジョゼットは俺の腕にしがみついて喜ぶと、クラリーヌの方を意地悪い顔で見た。


「なんであたしに聞くのよ!」

「じゃあ、オーケーね」


 ジョゼットは、デートの約束をして満足したのか、俺の腕に腕を絡ませて寄りかかると目を閉じた。

 甘えているとかではなく眠そうな感じだ。


「クラリーヌさん」

「なんで、さん付けなのよ」


 俺の顔は見ないで、不機嫌そうに言った。


「今度、お返しに奢るという話でしたがいらないですよね?」

「なんでそうなるのよ。奢りなさいよ」


 すねたように、口を尖らせた。


「いや、楽しくなかったようなので」

「誰もそんなこと言ってないでしょ」

「俺のことが嫌いになったんですよね?」

「誰がそんなこと言ったのよ」

「さっきから俺の目を見てくれません」

「それは、どんな顔をしたら良いか……。あー、もう、あたしのことはいいの! とにかくどこか連れて行きなさい」

「……どこが良いですか?」

「あなたが決めなさいよ」

「俺が決めるとつまらないところかもしれませんよ?」

「つまらなかったらその時考えるわ」

「わかりました。では、場所が決まったら連絡します」

「あたしの住んでる場所、知らなかったわよね? 教えてあげるわ」


 住んでいるところはかなり近かった。

 俺達と同じく冒険者ギルドが提供している家にチームで住んでいるからだ。


「では、こんど誘いに行きます」

「期待しないで待ってるわ」


 クラリーヌは真正面を向いたまま俺の顔を見ないで話をしていた。

 こんなつっけんどんな会話だが、デートの時の様な緊張を感じないので楽しかった。


「やっぱり、クラリーヌは普通にしていたほうが、一緒にいて楽しいですね」


 驚いた表情で勢い良く俺の顔を見ると、すぐにそっぽを向いてしまった。


「あんたはどうしてそんな臭いセリフが吐けるのよ」

「臭かったですか? 素直な感想を言っただけなんですが……」

「だから、そういう所がズルいって言ってるのよ」


 クラリーヌは顔を反らすどころか俺に背中を向けてしまった。

 ズルいのかな?

 よくわからない。


 ふと、見渡すと人がまばらだった。

 ドラゴンファングのメンバーは、ジョゼットが俺の腕にしがみついて寝ている。

 カジミールは床に寝転んでグロッキーになっていた。

 他の四人は知らない間に帰ったらしい。

 風の射手の面々は、ベルナンドはかなりの酒豪らしくひたすらお酒を飲んでいる。

 他の3人は机に突っ伏していた。

 リゼットは虚ろな目になりながらもベルナンドに付き合ってお酒を飲んでいる。

 フィーナ一人がシラフでおつまみをポリポリ食べていた。


 腕にしがみついて寝ているジョゼットを静かに机に寝かせると立ち上がった。

 そして、財布から金貨1枚を出してクラリーヌに渡す。


「なにこれ? あたしを買おうっていうの?」

「いえ、お酒の代金です」

「こんなにいらないわよ。あたしが払っておくわ」


 そう言うと金貨を俺の手に返してきた。


「しかし、この間も払ってもらいましたし」

「じゃあ、今度のデートで全部返して」

「……わかりました。他の方々は大丈夫でしょうか?」

「ベルナンドもいるしいつもの事だから大丈夫でしょ」


 クラリーヌは酔ったふうでもなく疲れたように答えた。

 おそらく、いつも酒の強いベルナンドが介抱しているのだろう。

 俺は、リゼットとフィーナに帰ることを告げると、リゼットが甘えたように抱っこしてと言ってきた。

 人前ではやはり恥ずかしいが、お姫様抱っこでリゼットを持つとフィーナを連れて酒場から出た。


「フィーナ、すまなかったな。お酒を飲まないとつまらないだろう?」

「いえ、料理も美味しかったし、みなさまのお話も楽しかったです」

「それなら良かった」

「それに、今日はご主人様を独り占めできます」


 リゼットを見ると俺に抱っこされて眠っている。

 フィーナは嬉しそうに俺に寄り添って歩いた。


「しかし、リゼットがここまで酔うとは思わなかったな。俺を介抱してくれと言ったのに、逆に介抱させられるとは思わなかった」


 別に不満はない。

 介抱されるほど酔っ払ってないし、酒に酔って甘えてくるリゼットはかわいかった。

 今度、家にいる時に飲ませようかとも考えてしまう。


「今朝のことが嬉しかったんだと思います」

「んん? ああ、なるほどそれでか」


 俺に好きと言われて嬉しすぎてハメを外してしまったのか、もしそうなら光栄な事だ。

 家についたら、リゼットを寝かせて、寝顔に軽くキスをする。


 そして、今夜はゆっくりとフィーナと楽しんだ。


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