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第3部 記憶のキャンディーと再会のハンカチ

「ちらかってるけど、いい?」

「うん、大丈夫」

 頷く私を見てギャリーは少しだけ苦笑する。まだ、ギャリーのコートの裾を掴んでいることに気付き、慌てて離した。

「ごめんね、急に」

「ううん。元はと言えば、仕事で遅くなったアタシのせいだもの」

 どうやら、ギャリーは仕事の関係で遅くなったようだ。

「メールはしたんだけど、気付かなかった?」

「メール?」

 鞄から携帯を取り出し、確認する。しかし、画面は真っ暗なままだった。

「充電、切れてる……」

 そう言えば、ギャリーが遅くて何度も携帯のディスプレイに表示される時計を見ていた気がする。そのせいで、いつもより早く充電が切れてしまったようだ。

「あらあら」

 ギャリーも携帯の画面を見てそれを確認し、困った顔をした。

「まぁ、イヴも無事だったからよかったとしましょう。確か、アタシたちの携帯って同じ機種だったわよね? アタシの充電器、貸してあげる」

「ありがとう、ギャリー」

「いいってば」

 ニコニコしながらギャリーは廊下を進んでいく。そして、開きっぱなしだった扉を閉めて別の部屋に入る。どうやら、扉を閉めた部屋は見られたくないようだ。

(何があるのかな?)

 そう思いながらその扉を凝視する。

「イヴ? どうしたの?」

「あ、うん。今行く」

 ギャリーの呼び声で我に返り、私もギャリーと同じ部屋に入った。

「ごめんなさいね? ここは比較的、綺麗にしてるつもりだけど……」

 そう言って、ギャリーはコートを脱ぎ、コート掛けに掛けた。そして、すぐに私の方へ手を差し出して来る。その仕草で私は慌ててコートを脱いで渡した。

「それにしても偶然よね」

「え? 何が?」

 手頃な所にあった青いソファに腰掛けて聞き返す。

「だって、まさか携帯の機種まで同じだなんてすごいと思わない?」

「……うん」

「あ、はい。これ、充電器。そこのコンセントを使って」

「ありがと」

「じゃあ、お茶の準備をして来るわ」

 ギャリーから充電器を受け取り、コンセントに差す。そして、充電が切れた私の携帯に繋ぎ、充電を始める。

「……はぁ」

 紅いランプが点いた携帯を眺めながらため息を吐く。確かに、私たちの携帯は同じ機種だ。

 でも、ギャリーは一つだけ間違っている。





 私の携帯、ギャリーと会って同じ機種に変更したんだよ?






「「……」」

 今まで4~5回ほど、イヴとお茶会を開いて来た。しかし、今日みたいに黙ってお茶を飲み続けることなんて一度もなかった。いつもはアタシかイヴがどちらからともなく離し始めたのに。

(やっぱり、さっきの出来事のせいかしらね?)

 イヴが車に轢かれそうになってアタシがそれを助けて。その後、イヴが言った言葉。


 ――――また、いなくなっちゃうんじゃないかって……私の前からスッと消えてもう、何も出来なくなっちゃうんじゃないかって……もう、あんな思いは嫌ぁ


 あの言葉を聞くだけでは1か月前のゲルテナ展より前にアタシと会ったことがあるような感じだった。でも、アタシは覚えていない。それこそ、こんな印象的な子を忘れるとは思えなかった。

「ねぇ? イヴ」

「……何?」

 一拍置いてイヴが返事をする。

「……アタシたちってどこかで会ったことある?」

「っ……」

 アタシの問いかけにイヴは沈黙を返した。

「アタシってば、忘れてるかもしれないのよ。だから、教えてくれない?」

「……」

「もし、会っていたのならゲルテナ展で再会できたのって“奇跡”だと思わない? なんか、運命感じちゃうわよね」

「……」

「……ちょっと待っててね」

 俯き続けているイヴに一言、言って立ち上がる。そして、ある物を持って来て再び、座り直した。

「はい」

「……これは?」

「レモンキャンディーよ。これを食べるとなんか、落ち着くのよね」

 見本を見せるようにバスケットの中から一つだけキャンディーを手に取り、封を切って口に放り込む。何度か転がしているとサッパリした甘みが口の中に広がった。

「……一つだけ貰うね」

 イヴもキャンディーを口に入れる。

 しばらく、部屋の中にキャンディーが転がる『コロコロ』という音が響いた。

「……ギャリー」

 口の中のキャンディーがそろそろ、なくなりそうになった頃。やっと、イヴが口を開いた。

「何?」

「私たち……1か月前のゲルテナ展で初めて会ったんだよ?」

「……本当に?」

「うん。あの時は気が動転しててあんなこと、言っちゃったけど深い意味はないの。だから、気にしないで」

 そう言うイブは笑っていた。微笑んでいた。きっと、誰もが見ても彼女を綺麗だと思うだろう。彼女が本当のことを言っていると信じただろう。でも――。





「じゃあ、何で泣いてるのよ?」





 紅い目だけは正直者だった。

「え?」

 自分でも気付いていなかったのかイヴが指で目元を拭うとハッとする。

「あ、いや……これは、その。ほら! 目にゴミが入っちゃって」

「あら、そこまでアタシの部屋、汚いかしら?」

「ううん! そんなこと、ないよ! だから、ゴミじゃなくて……紅茶の湯気が目に!」

「もう、とっくに冷めてるわ。おかわり淹れる?」

「湯気じゃない! 湯気じゃないの! その……」

 とうとう、言い訳出来なくなったのかイヴは目を伏せてしまった。

「そこまで、アタシに隠そうとする……何か、理由があるのよね?」

「……」

「また、だんまり? それって、あんまりじゃない? あ、ちょっとギャグっぽくなっちゃったけど気にしないでね。アタシたちって会ってるのよね? 10年前のゲルテナ展で」

「ッ!?」

 バッと顔を上げたイヴの顔は驚愕を浮かべている。図星のようだ。

「ねぇ、教えて。あの時、何があったのか」

「……多分、ギャリーは思い出せないと思う」

「どうして?」

「このキャンディー」

 そっとバスケットの中に入っていたキャンディーを手に取った。

「あの時――ギャリーとぶつかって私の口の中にこれが入った瞬間、10年前のことを思い出したの……」

「じゃあ、それまでイヴも忘れてたってこと?」

「うん……」

 頷いた彼女だったが、体が震えている。

「どうしたの!?」

「怖いの……あの時のことを思い出すの」

 自分の肩を抱いて震えを止めようとするものの止まらない。

「私でさえ、体が震えるほど怖い記憶なのに……ギャリーが思い出したらと思うと」

「大丈夫」

「……え?」

 アタシが即答したのに驚いたのかイヴが目を見開いてアタシを見た。

「確かにアタシは怖い物が苦手だけど……それよりもイヴが独りで辛そうにしてるのを見てる方がずっと辛いの。だから、二人で共有しましょ? その方が、怖さが半分になって楽になるから」

「で、でも!」

「アタシは……思い出したい。あの時のこと。美術館で何があったのか。イヴと何があったのか……アタシは思い出したい」

 ジッとイブがアタシの瞳を見つめている。アタシも目を逸らさずに見続ける。

「……わかった」

 耐えられなくなったのかイヴは目を逸らして首を縦に振ってくれた。

「本当!?」

「でも、ちょっと難しいかも」

「え? どうして?」

「ギャリー、キャンディー食べても思い出さなかったでしょ?」

「あ……」

 そうだ。イヴはこのキャンディーをきっかけに10年前のことを思いだしたのだ。しかし、アタシは舐めているのに一向に思い出す気配はない。

「だから、他に思い出せる方法が思いつかなくて」

 一瞬だけ、10年前のことを話して貰おうかと思ったが、体が震えるほど怖い記憶みたいなのでイヴにそれを話させるわけにもいかない。これは最終手段としておくことにする。

「そうねぇ……どうしましょうか?」

「うん……どうしよう?」

 うーんと唸るアタシたち。そして、ほぼ同時に噴き出した。

「駄目ね。とりあえず、紅茶を淹れ直すわ」

「うん、お願い」

 ティーセットをトレーに乗せてキッチンに向かう。その間にチラリとイヴの顔を見たがその顔にもう、悲しみの色はなかった。




「駄目ね」

「うん」

 あれから1時間。あれこれ話し合い、何度も試してみたが、全て空振りだった。

「それにしても、アンタって小さい頃から可愛いのね」

「か、かわっ――」

 イヴは顔を真っ赤にして硬直してしまう。その拍子に彼女の手から1枚の写真がテーブルに落ちた。

 その写真には9歳のイヴが写っている。10年前なのでこの頃のイヴを見れば思い出すかもしれないと思ったが、『可愛い』という感想しか生まれなかった。

「ぎゃ、ギャリー! あまり、変なこと言わないでよ!」

「あら、ごめんなさい」

 セクハラで訴えられたら一発で終わりなのですぐに誤っておく。

「でも、一番、可能性があったこれも空振りだったわね」

「うん……後は私があの時のことを話すことくらいしか」

「それだけは駄目! 本当に最後の最後になったらね!」

 実は彼女からも例の案は出て来たが、すぐに拒否した。

「じゃあ、どうする?」

「うーん……」

 腕を組んで悩んでいるとふと先ほどの写真が目に入った。そこには白いシャツに紅いネクタイ。そして、ネクタイと同じ色のミニスカートを穿いた少女がいた。そして、その写真の右下に『Ib 9歳の誕生日にて』と書かれ――。

「……ねぇ!? イヴ!」

「な、何!?」

 突然、大声を出してしまったのでイヴが肩をビクッと震わせる。

「アンタ……名前のスペル、『Eve』じゃないの?」

 出会った時からずっとそうだと思っていた。

「え? 違うよ。『Ib』だよ。携帯にもそう書いてあったでしょ?」

「あの時、赤外線の調子が悪かったから手打ちだったじゃない!」

「あ」

 そうだ。どうして、気が付かなかったのだろう。椅子を乱暴に引いて立ち上がり、リビングから出てあれを取って来る。

「イヴ、これ!」

 アタシの手には『Ib』と刺繍された白いレースのハンカチが握られていた。そう、これが10年前にアタシとイヴが出会っていた証拠。

「そ、それ……9歳の誕生日にママから貰ったハンカチ」

 信じられない物を見たような表情を浮かべてイヴも立ち上がった。そして、ゆっくりと近づいて来る。

「やっぱり、これ。アンタのだったのね?」

「うん。10年前に美術館で落としたって思ってた……これ、ずっと持っててくれたの?」

「ええ。何だか、捨てちゃいけないような気がして。10年も待たせちゃったけどこれ、返すわね」

「うん、ありがとう。ギャリー」

 そう言って、アタシはハンカチを差し出し、イヴがそれを掴んだ――刹那。




「ッ――――」




 脳裏に轟く悲鳴。視界に蠢く人形。記憶に走る雑音。皮膚から信じられないほどの汗が噴き出た。

「ぎゃ、ギャリー!?」

 ばたりと倒れたアタシを見てイヴが悲鳴を上げる。でも、動けない。

(な、何……これ?)

 目の前には床と壁。そして、一つの蒼い人形。それが二つ。三つ。四つ。五つと増えて行く。

 

 どんどん。


 どんどん。


 どんどん。


 どんどん。


 どんどんどんどん。


 どんどんどんどん。


「あ、ああああ……」

 口から情けない嗚咽が漏れるも自分の耳では聞こえない。代わりに一人の少女の声が聞こえる。その少女はイヴじゃない。その少女が絶え間なく、声を発している。内容は聞こえない。いや、アタシが拒否しているのだ。内容を聞き取ればきっと――。

(こ、これ……は)

 危機感。恐怖。罪悪感。その全てがアタシの心を舐る。

 頭で危険信号が発せられている。でも、“ウゴケナイ”。

 蒼い人形が増えていく。少女の声が大きくなっていく。体の感覚がなくなっていく。頭が働かなくなっていく。

 とうとう、大きな蒼い人形が壁の方から出て来た。







 駄目だ。







 あれはマズイ。






 あれを外に出したらアタシは――。







 アタシハ――。








 アタシ――。








 アタ――。











 ア――。



 






 ――。










「しっかりして!! ギャリー!!」







 その声だけはしっかりと聞こえた。そのまま、目を閉じた。























「……くっ」

 酷い頭痛がアタシを襲う。起き上がることすら出来ない。

「ギャリー?」

 頭上から可愛らしい声が聞こえる。その声音でアタシを心配してくれているとわかった。

「……イヴ?」

「ああ、よかった……突然、倒れちゃったから」

 目を開けるとイヴがいた。アタシの顔を覗き込んでいるようだ。

「心配、かけちゃったわね……」

「いいの。私だって心配かけたんだから。おあいこ」

「……そうね」

 しかし、アタシは今、どこに寝ているのだろうか? 確か、アタシが倒れたのは床の上。例え、“あの”イヴでも成人男性をソファまで運ぶことは不可能なはずだ。“あの頃”から成長しているとは言え、さすがに出来ないだろう。

「ねぇ? イヴ?」

「ん? 何?」

「アタシ、今、何を枕にしてるのかしら?」

「私のお膝」

 この娘は躊躇なく男に膝枕をするのだろうか?

「もう、いいわ……それより、立ち上がるの手伝ってくれる?」

「え? でも、無理しない方が」

「駄目なの。今……あれを完成させなきゃ」

「あれ?」

 首を傾げるイヴだったが、答えずに立ち上がろうと努力するも体に力が入らなくて上手く行かない。

「くっ……」

 悔しくて唇を噛んでいるとスッとキャンディーが視界に入った。

「これ」

「え?」

「甘い物を食べれば少しは楽になるはず……だから」

「……ありがと、イヴ」

 お礼を言ってキャンディーを口に含んだ。甘い。

「あの時とは逆ね」

「……っ」

「本当に大きくなったわね。イヴ」

「ぎゃ、ギャリー……まさか」

 アタシの記憶が戻ったことに気付いたのか、イヴは目を見開いてこちらを見て来る。首肯してから立ち上がった。

「どこに行くの?」

「言ったでしょ? 未完成の絵を、完成させるの」

「それは今じゃないと駄目なの!?」

 アタシの体が心配なようでイヴが止めに入るが、それを手だけで止める。

「今じゃないと……忘れちゃう。あの子を、忘れちゃうから」

「あの子? あの子って誰!?」

「……イヴにも見せた方がいいわね。ついて来て」

 何度もよろけながら廊下に出た。

「とっ……」

 そこで視界が歪み、膝から崩れ落ちそうになる。だが、アタシは倒れなかった。

「イヴ?」

「私が支えるから……ね?」

 イヴがアタシを支えてくれたのだ。その強くて優しい瞳は今も昔も変わっていない。

「……ありがと」

「ううん。私たちの仲でしょ?」

 一緒にあの、美術館から脱出した仲間で、相棒で、友達。それがアタシたちだ。

「そうね」

 思わず、口元が緩んでしまった。でも、ここで立ち止まっている場合ではないことを思い出し、すぐに歩き始める。向かう先は――。




「ここって……」

 ギャリーが開けた扉は私がこの家に来てすぐ、彼自身が閉めた部屋の物だった。

「ここは、仕事場なの。ちらかってるし、未完成の絵が置きっぱなしだったから恥ずかしくて」

 そう、すぐに弁解するギャリー。

「イヴ、あそこまで連れてってくれる?」

 ギャリーは申し訳なさそうにお願いする。どうやら、もう足に力が入らないようで自分で動くことすら出来なくなっているようだ。

(どうして……ここまで)

 記憶を取り戻しただけで、ここまで酷くなるとは思わなかった。それにそこまでして完成させたい絵とは一体?

「これよ」

 ギャリーが指定した椅子に彼を座らせると一つのキャンバスを指さした。

「これ!?」

 そのキャンバスには一人の女の子が描かれている。ふわりとウェーブのかかった長い髪。スカート部分が長いワンピース。そして、手に3輪のバラを持っていて可愛らしく微笑んでいる。

「久しぶりね……メアリー」

 そう、この子はメアリーだ。全く、色は付いていないがその姿はメアリーそのものだったのだ。

「ぎゃ、ギャリー……これって」

「アタシ、本当は記憶があったのかもしれないわね。でも、あまりにも怖い記憶だったから自ら記憶の底に封印しちゃったのかも。だから、こんなになっちゃった……当然の報いよ」

 そこまで語り、筆を取ろうとするも手が震えていて上手く掴めなかった。

「本当に……アタシってバカね。あの出来事があったからこうやって、イヴと仲良く出来てるし、こんなに素敵な絵が描けるのに。それを自分の手で捨てたなんて。馬鹿ね……」

 やっと、筆を掴んだ彼はそのまま、絵の具をパレットに落とす。その作業もゆっくり、丁寧に時間をかけて行い、やっと絵が描ける準備が出来た。

「アタシ、こんなんだからきっと、メアリーの色をすぐに忘れちゃうわ。だから、記憶が鮮明な内に……」

 まるで、自分に言い聞かせるように呟くギャリーだったが、上手く筆を扱えず、どんどんパレットが絵の具で汚れていく。色を混ぜることすら出来ないのだ。

「お願い……今だけは、言うことを聞いて。お願い……」

 思い通りに動かないことが悔しいのか、いつかしか彼は涙を流している。その涙にカーテンから差し込む月明かりが淡く反射した。

「ギャリー……」

 私は彼の名を呼びながらそっと、筆を持つ手――彼の左手を掴んだ。

「イヴ?」

「ギャリーはメアリーを覚えてるの?」

「え、ええ……」

「……私は覚えてない」

「……」

 あのキャンディーを食べて記憶が戻ったのにも関わらず、私と一緒にあの美術館を歩いてくれた同年代の友達の姿を思い出せなかった。ずっと、思い出したかったのに。思い出せそうになってもすぐに消えてしまう。だからこそ、この下書きを見た瞬間、私は――。

「ギャリー、私にも手伝わせて?」

「……」

「ギャリーはメアリーの色を覚えてる。私は体が動く。だから、私に……色を塗らせて? 貴方の手になりたいの」

「……イヴ、お願いするわ」

「うん」

 ギャリーから筆とパレットを受け取って、色を混ぜる。

「もうちょっと、白っぽく……そう、それは髪の色。綺麗な金髪」

 ウェーブのかかった髪が金色に輝く。彼女の笑顔と同じぐらい眩しかった。

「そっちはもっと、深い……ワンピースの色。深い緑。ワンポイントに青いネクタイ」

 白かったワンピースが深い緑色になった。そこに私がネクタイを描き加える。

「透き通るような蒼。目の色」

 碧眼。美しい海の瞳。その眼の奥に灯る光。

「薔薇。愛情の赤。奇跡の青。嫉妬の黄色」

 薔薇に精神が宿る。私、ギャリー、メアリーの色に染まって花を咲かせた。

「最後よ……この子に名前をあげて」

 キャンバスをひっくり返して――『永遠の友達』と書いた。



 ――ありがとう。イヴ、ギャリー。




 そんな声が聞こえたような気がした。

「メアリー……」

 もう一度、ひっくり返して私の友達を見る。あの頃のメアリーだ。

「素敵な……子ね」

「うん。私たちの友達……」

 ただ、静かに時が過ぎて行く。私もギャリーもひたすら、絵の友達を見続ける。



 そして、いつしか私たちは抱き合って涙を流していた。


 あの時の恐怖を思い出し。


 あの時の別れを惜しみ。


 この時の再会を喜んだ。


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