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プロローグ ―全てが始まる直前―

『次のニュースです。昨日、岡山駅前で殺人事件がありました。死亡者は十名にのぼり、犯人は三十歳無職の何森いずもり美江容疑者です。また、容疑者自身もその際に自殺をしたようです。

 しかし、容疑者は刃物等の凶器を持っていなかったそうです。また、被害者の死因がいずれも脳死という極めて珍しい事件のため、何森容疑者は木葉大学精神科で死体解剖を受けるようです――』


  * * *


 日本のどこか――木葉大学で、ある男が顕微鏡の画面を眺めていた。


「中村君、ちょっと来てくれ」

「教授?」

「この世界には、人間亜種――人間以外の種族がいた」

「どういうことです!?」


 中村は、その台詞に声を上げる。しかし教授は、部屋中にエコーのように響く大声を気にもしなかった。高まる興奮を抑えつけ、画面に浮かぶある細胞を指差した。


「この細胞を見てくれ。何森美江の髪だ」

「これは一体……」


 心当たりか何かあるのか、または無さすぎたのか――中村は目を見開き、息を呑む。その視線は、今まで見たことの無い組織に釘付けになっていた。


「……不明としか言いようが無い。全ての人間に存在する組織だということがわかったが、無色透明で、またほとんど発達していない。――何森姓の、特に女性に多く含まれていた」


 人間の体はブラックホールのように謎に包まれている。その謎の一つを解明出来るのかもしれない――教授の胸は高鳴った。この謎を自分で解きたい。そんな思いが心を駆け巡った。


「この組織による影響などはありますか」

「免疫機能が活性化し、精神力も桁外れに向上する」


 この組織はどんな人間にも含まれている。気が付くと治癒している傷、怪我をしていたはずなのに無い傷跡などは、この組織が影響している。――あくまでも、彼の予想であるのだが。


「精神力……。桁外れに、といいますと」

「人間を殺せるほどだ。つまり、何森 美江はこの能力で殺人事件を起こしたようだ」

「な……っ!」


 パリン、とガラスが割れる音がする。見ると、中村の足元には試験管の残骸があった。普段なら叱咤するところだが、仕方が無いと教授は思った。死んだ細胞によって計測器の針が振り切れたのを見て、彼も戦慄したものだ。そのときの体の震えはまだ記憶にある。


「何森 美江は、事件のときに自殺している。データを集めたいのだが……」


 まだショックから立ち直れていない中村を一瞥いちべつし、軽く息を吸うと口を開いた。


「警察には協力を要請した。しかし我々はマスコミに公表するつもりはない。くれぐれも、口外しないように」

「は、はい」


 教授はそう言って部屋を出ようとしたが、、あることを思い出して後ろを振り返った。


「第一発見者は私だ。つまり、この種族に名前を付けることが出来るはずだ」

「そうですね」

「この種族は欠落種族けつらくしゅぞくだ。これからこのような犯罪が起きないように、種族の戒めとして、この名前を――」


  * * *


 遠い日の、記憶。

 晴れた日の午前は風が快い。その風が一番爽やかに吹く場所は公園の木陰だ。しかし、そこには既に先客がいて、無邪気に会話を楽しんでいた。


「らえちゃん、今日は何をする?」

「おままごとしよー!」

「らえちゃんはおままごとが好きだね」

「うんっ。でも……のぶひこくん、他にしたいことある?」

「ううん。らえちゃんとのおままごとは楽しいから」


 一際大きな風が吹いた。風は二人を髪をなぶり、どこかへ駆けていく。

 彼女たちはまだ幼く、何も知らない。この後、二人は離れ離れになってしまう。また逢うとも知らず――……。

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