開かずの森・3
「金! 金! かねぇぇぇ!」
昭弘の声が山小屋に響き、光則たち3人はその声で目が冷めた。
昭弘が狂ったように山小屋のなかをうろついている。
「お……おい、どうしたんだ?」
「金がない! 俺の……俺の金がどこにもないんだ!」
今にも気が狂いそうに昭弘は怒鳴った。山小屋にはほとんど何もなく隠すような場所などどこにもない。
光則は起き上がり、寝袋のなかを探った。自分の金はちゃんと紙包みに残っている。滋も啓介もそれは同じだった。
「いったいどこいっちまったんだ」
昭弘は頭を抱え、小屋の隅にうずくまった。その目は血走り3人を睨んでいる。その意味が3人にはすぐにわかった。
「俺じゃない……」
光則の口から思わず言葉が漏れた。
「俺も知らん」
啓介もまっすぐに昭弘を見据えたまま答えた。
「俺だって……」
一番最後に慌てて滋も言った。だが、昭弘は滋をまっすぐに見つめ立ち上がった。
「おまえか?」
「違う! なぜ俺がそんなこと……」
「さあな、それは俺よりもおまえのほうが詳しいんじゃないか?」
「ば、馬鹿な!」
「昨夜の腹癒せか? それとも始めから狙ってたのか? ひょっとして町に降りられなくなったのもおまえが仕組んだんじゃねえのか?」
「馬鹿なこと言うな! 俺がどうしてそんなこと出来るんだよ? みんなだってわかってるだろう! どうすりゃあんな魔法みたいなことが俺に出きるんだよ」
「それじゃ、俺の金は?」
「知るか! おまえのことだ。どっかに隠しておいて、芝居してるんじゃねえのか!」
「芝居だと?」
「ああ、俺に盗まれたふりして俺の金を奪うつもりなんじゃねえのか?」
「なめたこと言いやがって!」
昭弘の手がポケットを探る。だが、拳銃を取り出したのは滋のほうが早かった。
「あいにくだったな。俺がおまえから盗んだのは金じゃねえ。こいつだ」
右手の拳銃は昭弘に向き、左手にもう一丁握っている。
「貴様!」
「おまえなんかにこいつを持たせといたらいつまで生きていられるかわかったもんじゃねえからな」
「やっぱりてめえか!」
「おいおい、言っとくが金を盗んだのは俺じゃねえぞ」
「信じられるか!」
「誤解のないようおまえらにも言っとくぞ。俺はこいつの金なんか盗んじゃいないからな。ひょっとしたらおまえら二人のどっちかはそんなこと知っているかもしれないがな」
滋は光則と啓介のほうを向いてヘラヘラと笑った。その瞬間、滋に一瞬の油断がうまれた。その一瞬を昭弘は見逃さなかった。
昭弘が滋に襲いかかる。
「貴様!」
二人の体がもつれあい転げ回った。光則と啓介の二人はいつものようにじっと二人を見守った。いざとなったときに止めればいいという考えと、その反面争いに巻きこまれたくないという気持ちが入り交じっていた。だが、争いは長くは続かなかった。
体の大きな昭弘に滋が勝てるはずがなかった。滋の体は宙を飛ぶようにして床に叩き落ちた。
「ぐぅ……ぅ」
形成は逆転した。
昭弘が倒れたままの滋に拳銃を構え睨んでいる。その目には明らかに殺意がみなぎっていた。
「さあ、言え! 金はどこだ?」
「し……知らない」
鼻血を出しながら滋が答える。
「嘘だ! 拳銃だって昨夜のうちに盗んだんだろう」
「嘘じゃない! 俺が盗んだのは本当に拳銃だけだ! 昨日、おまえに拳銃をつきつけられて怖かったんだ」
「信じられるか!」
「頼む、助けてくれ。金が本当になくなったんなら俺じゃない。ほ……他の二人だ」
しかし、昭弘は譲らなかった。
「いいや、おまえだ! このなかでそんなことをするのはおまえだけだ。言え! 言わなきゃ殺すぞ!」
「そ……そんな」
滋の顔は昨夜以上に青ざめていた。
「よせよ、滋は知らないって言ってる」
しびれかねて光則が間に入った。これ以上放っておいたら、昭弘は本当に拳銃を引いてしまうだろう。
「邪魔するな」
「だが――」
「おまえが盗んだのか?」
その鋭い目が光則に向く。
「まさか!」
光則は慌てて否定した。そして、壁に腕組みをして立って見ている啓介をちらりと見た。その視線にやっと啓介も腕組みを解いて昭弘に近寄った。
「本当になくなったのか?」
「ああ! おまえらと同じように俺は寝袋の足もとにいれておいたんだ」
「足もと?」
光則と啓介は顔を見合わせた。
「そんなところにいれておいたなら誰も盗むことなんか出来ないだろう」
「だが、なくなってる!」
昭弘の顔に戸惑いが浮かぶ。
「よく調べてみよう」
啓介が昭弘の腕を押さえ、滋に向いた拳銃を下ろした。その時、突然滋が立ち上がり小屋を飛び出した。
「待て!」
滋の行動を見た昭弘もまた瞬間的に小屋を飛び出して滋を追った。光則も飛び出したが、すでに二人は木々の陰に隠れていた。
「逃げるなんて……」
「やっぱりあいつがやったのかな?」
啓介の言葉に光則は答えられなかった。これまでにも滋は仲間たちに嘘をついたことがなかったわけじゃない。だがそのくせ嘘をつくのが下手で、どんな時にもすぐにその嘘はバレた。しかし、今度は嘘をついているように光則には見えなかった。
「すぐに戻ってくるさ」
二人が小屋に戻ろうとした瞬間、森のなかに爆音が響いた。
一発、二発……。
そして、静寂が訪れ再び木々の音だけが聞こえてくる。
(今の銃声……まさか)
二人は足を止め、じっと森の様子をうかがった。やがて、森の奥から重い足取りで昭弘が戻ってくるのが見えた。
「い、今の銃声……」
昭弘が小屋に入ろうとする瞬間、光則は思いきって声をかけた。
「……逃げられた」
光則の問いに昭弘はじろりと上目がちに睨んでから答えた。
「でも銃声が……」
「腹がたったから撃ってみただけだ。どうせ、町までは聞こえないからいいだろう。滋のやつだって今に戻ってくるだろうよ」
昭弘はいまいましそうに言った。
しかし、昭弘の考えは間違っていた。夜になっても滋は戻っては来なかった。




