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開かずの森・1

「やったぜ!」

 バック一杯に詰まった札束を手に取り、佐竹昭弘は喜びの声をあげた。

 本間光則はそんな昭弘たち3人の姿を横目で見ながらハンドルを握っていた。光則の表情も喜びで溢れている。

 昭弘と光則、そして秋山滋、横地啓介の4人が銀行を襲ったのは昼間の3時、ちょうど銀行のシャッターが閉まる直前だった。4人はそれぞれにトカレフ型の拳銃を行員たちに向け、当然のように金を要求した。この拳銃を暴力団を通じて譲ってもらうために、100万もの金が支払われている。失敗するわけにはいかなかった。

 4人の死にもの狂いの気迫が相手にも伝わったのか、誰ひとりとして逆らう者はいなかった。おかげで人を殺すこともなく、4人は目的を遂げ銀行を跡にした。

 そして10時間経過した今、4人の乗った中古のスカイラインは山道を土煙をあげながら走りつづけていた。盗んだ車3台を乗り捨て、このスカイラインが4台目になる。この車だけは3日前に滋がレンタカーから借りたものだ。盗難車で捕まるわけにはいかないという啓介の考えだった。

 4人が初めて出会ったのは留置所のなかだった。4人とも酔っ払い、喧嘩のあげく警察に捕まったのだ。

 夜の留置所のなか、なぜだか4人の間に仲間意識が芽生えた。

 それが今日の犯行につながった。

 ラジオでは昼間自分たちの犯した犯罪を報道している。しかも、4人が逃走したと予測している方向は狙い通りまったく逆を指している。

「ざまぁみやがれ!」

 参謀格の啓介は自分の計画がうまくいっていることに驚喜した。まじめに勉強をしていれば今頃は東大に入っていたという啓介の言葉もまんざら嘘ではないかもしれないと、光則は思った。

「それで? このまままっすぐ行けばいいんだな?」

「ああ、このまま登って行けば山小屋がある。今夜はそこに眠って明日は解散だ」

「よし、急ごう」

 ぐっとアクセルを踏みこみ、車は暗い夜道を走り続けた。


 啓介の言った山小屋についたのはそれから1時間後だった。

 山小屋は丸太を組み合わせた簡素なもので、夏にはキャンプで訪れる観光客の休息場として使われていたが、秋も深まり出したこの季節では滅多に誰も寄りつかない。

 辺りには背の高い木々が立ち並び、麓から山小屋はすっぽりと覆われて見えない。

 すでに夜中の2時を回っているが、誰も疲れを感じている様子はなかった。

 4人は小屋に入るとさっそくバッグから札束を取り出してテーブルの上に積み上げた。

「ざっと一千万ってところだな」

 昭弘がにやりと笑って3人を見回した。4人のなかでは昭弘が最も欲深い。「きっちり4等分にするか?」

「いや、一万や二万のズレ、俺は気にしない。山分けでいい。昭弘、おまえがわけていいぜ」

 滋はそう言って寝袋を広げた。山小屋は単なる休息の場でしかないため、寝具などあるはずもないため各自寝袋を用意していた。

「俺もそれでいい」

 光則も答え、啓介もそれに従った。

「ようし、きっちりわけてやるよ」

 昭弘は目を輝かせ、札束をわけはじめる。それを横目で見ながら光則は昼間のことを思い出し、あらためて懐にある拳銃を握りしめた。

(いい感触だ)

 銀行では誰一人引き金を引くことはなかった。それは実にいいことだったが、反面もったいないような感じも受けていた。

(一発くらい撃ってみたかったな)

 拳銃を手に入れた後、撃ったのは1度しかない。今度のことだけでこいつをしまいこんでしまうのは実に惜しい。

「よぉ、何考えてんだ?」

 滋が光則の顔を覗き込んだ。

「いや……べつに」

「拳銃しっかり握ってよぉ。まさか、おまえ馬鹿なこと考えてるじゃないだろうな」

「馬鹿なこと?」

「つまり一人占めするつもりじゃないだろうなあ」

「一人占め?」

 金をわけていた昭弘も滋の言葉に驚いて手を止めた。

「馬鹿なこと言うな。俺がそんなこと考えるわけねえだろう!」

 光則は思わず滋の胸倉を掴んだ。

「冗談だよ。冗談」

 光則の剣幕に驚いたのか、滋はすぐに脅えたような笑顔を作った。

「なんだ、冗談か。こんな時にくだらねえ冗談言ってんじゃねえ」

 再び昭弘も手を動かし始める。啓介だけはじっと光則と滋のやりとりを見つめているだけで何も言おうとはしなかった。

(しょせんはにわか仲間だな)

 光則の心に他の3人をさげすむような気持ちが生まれていた。


 その夜、光則は一度小さな物音で目を覚ました。啓介が寝袋から上半身を起こしているのが見えた。

「聞こえないか?」

 光則が目を覚ましたことに気づき、啓介がそっと言った。

「何が?」

「誰かが呼んでるような気がする」

「まさか」

「いや……ちょっと見てくる」

 啓介はそう言って寝袋から出ると、一人で小屋を出て行った。

(いったい何が呼んでるって?)

 光則はあらためて耳を澄まして外の音を聞こうとしてみたが何も聞こえはしなかった。聞こえてくるのは、ただ風が木々を揺らす音だけだ。

 光則は寝袋から出ようともせず、じっと啓介が戻るのを待った。

 30分も過ぎた頃、やっと啓介が戻ってきた。そして、何も言おうとせずにすぐに寝袋に潜りこむ。

「何かいたか?」

 光則が訊ねる。だが、啓介は何も答えようとしなかった。


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