母、熱を出す。
ヒロが小学校に入ってからやたらと病気が流行る我が家。まして三人子供がいるとなると回るや回るで病院通いが続いていた。とうとう体力にも限界が来たのか私がダウンして1日。「お母さんは家の太陽」とはよく言ったもので私が倒れるとたちまちこの家は立ち行かなくなる。
……当然シンクの汚れた食器を片づける者もなく。掃除機をかける者もいない。洗濯物に至ってはそこにたどり着いてさえいない。ミチがジュースを強請るのを寝たふりで交わし、トモが手足にマジックでどこぞの民族のような文様を描こうが無視する。……地獄絵だ。布団の中で唸っているとき長男ヒロが私に話しかけてきた。
ヒロ 「お母さん、この先のコンビニならいけるよ?なにか買ってこようか?」
母 「ヒロ、一人でいけるの!?お母さん喉が渇いてるから〇カリかアク〇リアスが欲しいけど。」
ヒロ 「コンビニくらいならね。じゃ、〇カリ(スポーツ飲料)でいい?……重いかなぁ……でも、買ってくるよ!」
母 (感動。初めてのおつかいだよ!)「じゃあ、お願い。横断歩道は気を付けて渡るんだよ!」
そう言ってヒロの財布に1000円を入れて持たせた。いつも買ってくるスポーツ飲料は2リットル。ヒロにとっては重いに違いない。家からコンビニは200メートルほど先だが、何分初めてなのでこちらの方が緊張する。ドキドキしながら待っていると意外にも早く帰ってきた。
ヒロ 「お母さん!買ってきたよ!」
走ってきたらしいヒロはコンビニのビニールを私に差し出した。
母 「……。ヒロ、これ凍ってるね……。うん。キンキンに。」
ヒロ 「これしかなかったんだ!ハアハア。」
(どう見ても500ミリリットルボトルだよね?重いって思わせぶりに言ってなかったか?
母さん、喉カラカラなんだけど、一滴も出てきそうにありません。)
母 「ヒロ。ありがとうね。冷たくて気持ちいからうれしいよ。」
(飲めないけどね。)
辛うじて私がそういうとヒロはいたずらっぽく笑って私の枕元にやってきた。
ヒロ 「これさあ、冷たくって、こうやってレジまで運んだの。」
母 「そうかあ。冷たいからこうやってね。」
ヒロはボトルの蓋を摘まんで得意げに見せる。
その顔は誇らしげだった。
ある程度は想像していたものの、ヒロの行動は予想外だった。余計なものを買ってくるでもなく一目散に私が頼んだものだけ買って帰った……キンキンに凍ったペットボトル。
しんどいのに笑わせないでくれ。
私は布団の中でニヤニヤしながらボトルを首筋に当てた。
後日コンビニで凍ったスポーツ飲料のボトルがアイスコーナーの上にあったのに対し、2リットルも500ミリリットルのボトルも下の方にたくさん並んでいるのを苦笑して見たのは言うまでもない。
子供って……ミラクル。




