第五話 MIDによる魔法。その特性
六番手、コノハ。拙く、短い文章ですが、皆様に楽しんでもらえるようがんばります。
ファイア。その魔法はここブロッドサム学園に入学したものが一番最初に習う魔法であり、一番使う人間が多い魔法である。炎による攻撃は熱を持ち、人に対して根源的な恐怖をもたらす。戦闘においてそれは、勝利に近づく第一歩でもある。先ほどのトラブルで中止された実習は、時間をおき、その原因となった三人を除外した上で再び執り行われた。教師が使うよう指示した魔法は、大多数の生徒が想像したであろう、ファイアの魔法。
「燃え上がれ……『ファイア』ッ!」
シュバルトはMIDを起動し、叫んだ。彼の手のひらから高熱を持った火の玉が現れ、前方の何もない空間に弾丸かと見まごうほどの速度で発射される。昨日彼が使った魔法とは違う、瞬間的な魔法。シュバルトは昨日使った魔法の違いを感じた。そのおかげか、瞬間的魔法の特性を、ほかの新入生とは違う角度で、理解した。
「やってやるぜっ! 『ファイア』!」
その隣では、フリードが無駄に大声を上げて、昨日使えなかった魔法を使っていた。彼の炎はシュバルトとは違い、飛行距離こそ少なかったが、火力はわずかに彼のものを上回っていた。まるで、燃え上がる闘志が現れたかのようだった。
「う~んと、『ファイア』?」
頼りなさげな詠唱とは裏腹に、イティアの炎はしっかりとその火力を保ちつつ、ほかの新入生の誰よりも長距離を飛行した。火力そのものはひどく弱々しかったが。
「『ファイア』」
リヒャルトの炎は、個性的だった。多くの生徒が目の前に炎を打ち出しているのに対し、彼の魔法は彼の体を中心に、まるで衛生のように回る。
「これが僕の魔法ですか。意外といえば、意外ですね」
その様子に彼は驚いた様子を見せたが、それは炎そのものに対してではないようだった。
「なあ、なあ! おまえ、それどうやったんだ!?」
見慣れぬものを見たせいか、フリードは目を輝かせてリヒャルトに聞いた。
「どうやって、と聞かれても困ります。ならばフリードさん、先ほどの瞬間的な火炎、いったいどうやって?」
理知的なリヒャルトに逆に質問され、フリードはぽかんとした。
「はあ? どうやってって、そりゃ、普通に……」
「ええ、僕も普通にファイアを使いました。それが、この結果です」
リヒャルトの答えで、シュバルトはだいたいの予測がついた。しかし、同時に新たな疑問がわいてくる。
「なあ、リヒャルト。俺がおまえみたいな魔法を使えるのか?」
「え? ああ、はい。使えるでしょうね、経験を積めば」
「ねえねえ! 二人で納得してないで、私にも教えてよ!」
互いにわかり合う二人に、イティアは説明を求める。
「ええと、ですねイティアさん。MIDの仕組みはご存じですか?」
「えっと、これに魔法の情報を記録して、頭の中で演算して云々?」
「はい」
イティアのあやふやな答えにも、リヒャルトはうなずいた。
「MIDの仕組み上、魔法には、魔法の使用者個人の素質が関係せざるを得ません。だからMID適正というものがあるんですよ。そして、魔法というものは、本人の素質に合った形で発動します。シュバルトさんなら速く、フリードさんなら火力、イティアさんなら距離、僕なら操作性、という風に」
「え、じゃあ私、強い炎を出せないの?」
不安そうな彼女の問いに、リヒャルトは首を振って答えた。
「いいえ。訓練すれば、可能です」
「やった!」
閉じたと思った可能性がまた開き、イティアは花のように明るい笑顔で喜んだ。
「……じゃあ、キラとかアヤナとかの魔法は?」
シュバルトの質問に、リヒャルトはしばらく考え……、これは想像ですが、と前置きしてから口を開いた。
「おそらく、アヤナさんは瞬間的な火力がすさまじいのだと思います。一瞬だけ、恐るべき火力で炎が発生する。だから、先ほどのようになったんだと思います。キラさんについては……ちょっと今のところは、想像つきませんね。適正Fで、適正AAAの魔法をはじくなんて、聞いたこともありませんから。彼については、規格外、ということで」
「そっか。ありがとな、リヒャルト」
「いえいえ、気にしないでください」
リヒャルトに礼を言うと、シュバルトは皆から離れ、自分の実習に戻った。
「……『ファイア』」
弾丸のような火炎を飛ばしながら、彼は頭の中で別のことを考える。
あの二人は一体、何者なのだろうか。なんでキラは適正そのままの実力ではないのだろう。なぜキラとアヤナは共にいるのだろうか。そんな答えの出ない疑問を、心に浮かべては考える。
実習が終わるまでには、答えが出ているだろうか。そんな希望的観測をしながら。
どうでしたか? 次は大久保 唯様、よろしくお願いします。