第四話 面白い奴
四番手、妄音ルゥ参ります。
ドゴォォォオオオオオン
「おいおい、やりすぎだろう?お前は加減を知らんのか?」
「ん、ごめん」
突然の轟音と衝撃、そしてあたりを舞う粉塵にその場に居た生徒達は、いや教師でさえも目を見張る。
そんな中聞こえてくる二人分の声、それは男女の声だった。
「しっかりしてくれ……あぁくそ!無駄に注目を浴びちまってるじゃねぇか」
粉塵が晴れ見えてきた姿は、背の高い白髪の青年と背の低い黒い長髪の少女だった。
グラウンドに居た者は、勿論彼らを見ている、その表情には驚愕が、畏怖が、尊敬が見て取れた。
「ん」
少女は腕を突き出し他の生徒へ向ける、そして……
「って待て!撃つんじゃねぇぞアヤナ!これ以上ややこしくなったらどうにもならん……」
「だって、キラ嫌なんでしょ?」
キラと呼ばれた少年は、必死な様子でアヤナと呼んだ少女を止め
アヤナと呼ばれた少女は何故止められたのかと不思議そうに首をかしげている。
「それでも駄目だ、無闇に他人に力を向けるなよ、お前じゃ取り返しがつかんことにもなりかねんからな」
「ん」
キラの言葉を理解したのかしていないのか、それは分らないがアヤナは軽く頷いた。
「おいおい、子守は他でやってくれないかい?」
突然、声をかけてくるものが居た。
ドゴォォォオオオオオン
「なんだよ、今の音……」
突然の轟音にフリードは動きを止め、音のしたほうへと目を向ける。
「すごい音だったが今の、俺らと同じただのファイアか?」
「どうでしょう?でも新入生ではありますしファイアで間違いないんじゃないですか?」
シュバルト、リヒャルトの二人も疑問を口に出す。
そこでちょうど爆発で舞った粉塵が晴れ、二人の生徒が見える。
「なぁシュバルト、あれ誰だか知ってるか?」
「あ!あたしあの二人知ってるよ?というか二人とも同じクラス、男の子の方がキラ君で女の子の方がアヤナさん、二人とも極東の生まれで留学生なんだよ」
「……お前には聞いてねーよ」
フリードがシュバルトに質問したが、その答えはイティアから返ってきた。
フリードはどうにも面白くないのか不機嫌にそれを返す。
「イティア、あいつらのこと知ってるのか?」
シュバルトはイティアに聞く。
「うん、話したことは無いけど知ってるよ?だって新入生の中では割と有名だもんあの二人」
「有名、ですか?」
「うん、アヤナさんってMID適正AAAなんだって。それでキラ君はMID適正F……MID適正最高位と最低位が一緒に居るって有名なんだよ?」
「「MID適正F!?」」
「それはまた……すごいですね」
イティアの説明を聞いて驚愕の声を上げる三人、だがそれも当たり前のことなのである
なぜならMID適正Fは不合格(False)を意味している、つまり新入生の、しかも入学初日にMID適正Fが居るのはおかしいのである。
余談では在るが、MID適正Fを受ける生徒は受験者だけではなく在校生にも居る。
Fを受ける生徒は、自分の実力に合わない魔法を行使したり、処理が追いつかず魔法が暴発したりして何らかの障害を得てしまった者がFを受けるのだ。
「なんでそんな奴がここに居るんだよ?Fは不合格だろ?」
「そうなんだけどね、キラ君は特別でなんか……」
『おいおい、子守は他でやってくれないかい?』
「あれは……」
「おいおい、子守は他でやってくれないかい?」
突然、声をかけてくるものが居た。
金髪の長身の少年だ。
「あ?なんだって?」
「そういうのは他でやってくれと言ったんだよ、False」
「Falseねぇ、じゃあなんで俺はここに居るんだろうな?」
金髪の少年の挑発を、キラは挑発で返す。
一触即発の空気が流れる。
しばしの沈黙、そして、先に沈黙を破ったのは金髪の少年だった。
「まぁいい、用があるのは君じゃない。君だよ、アヤナさん?」
どうでもいいようにそう言った少年はアヤナに目を向ける。
「私は、ない。」
「そうだろうね、今は。一応初めまして、僕はロイ、君と同じMID適正AAAの新入生だ」
周囲がざわつくのが分った、それがMID適正AAAだったからなのかはわからないが。
「そう」
「あぁ、そうなんだ。だから君に言いたいことがあってね」
「文句でも付けに来たか暇人」
「Falseは黙っていてくれないか?」
キラが一言言うとすかさずロイはそう言い捨てる。
「僕と付き合え、MID適正AAAの最強カップルになろうじゃないか?」
「嫌、キラが居るから"いらない"」
ロイのいきなりの告白(?)を、アヤナはバッサリ切り捨てた。
「だ、そうだ。分ったら帰りな暇人」
アヤナの返答を聞き、キラはそうロイに言う。
だが、
「いらない……だと?僕とFalse!どう考えても僕の方が優秀だろう!?何故僕よりFalseなんかを!!」
ロイはいきなり怒鳴りだし、MIDを構える
「ファイア!!」
突然の魔法、それも至近距離だ
避けることは不可能だろう
……避けることは
「ちっ!プロテク!!」
不可思議な発音、キラがMIDを構え叫んだ一言は何かがおかしかった
「False程度がっ……!?」
それは、理解の範疇を超えた事象だった。
キラが叫んだ言葉、それは確実に魔法の起動キーであった
だが所詮は新入生に渡されただけの無改造・無編集のMID、強力な魔法など登録されているはずも無い。
プロテクは防御の魔法だ、瞬間的に不可視の壁を具現化し対象を止める、ただそれだけの魔法
にも関わらず、ファイアを放ったロイは、その場から弾き飛ばされていた。
「ぐっ!何を……!?」
「教えると思うか?」
「くそ!なら、サンダー!!」
ロイは弾き飛ばされ転がっていたがすぐに立ち上がり次の魔法を具現化する。
「プロテク!」
またも不可思議な発音、聞き取れているのにもかかわらず聞こえたのか不安になるような、きちんと発音されていないようなそんな発音の一言。
そして、水が球を成して跳ぶ
バシンッ!と音がしたと思うと、キラが放った水は雷に撃たれ四散する
だが、雷は直進を続けキラに迫った。
……のだが、やはり何かに阻まれキラには届かない。
「何故だ!何故届かない!?」
「うっせーな、黙れよ」
そして、キラが魔法を起動しようとした時
「何をしている!?すぐにやめなさい!」
教師が来た。
「あれは確か隣のクラスのロイ君だね!」
イティアがそう言った。
「ロイ?」
「うん、新入生で二人しか居なかったMID適正AAAの一人で、お父さんはMIDの開発・販売で有名になったルイさん。ほら、MID世界シェア7割の『クリエイティブ・スイート』って知らない?」
「本物の坊ちゃんかよ」
溜息混じりにシュバルトは一言
「ただの天狗だろ」
若干僻みの入った一言はフリード
「でもMID適正AAAすごいと思うよ」
と素直に感心するリヒャルト
結局感じ方は人それぞれである。
「つーかさ、キラだっけ?あいつの魔法変じゃね?」
「あれはね、マルチタクスって言うんだって」
またイティアが説明を始める
……というかこいつはなんでこんなに詳しいんだ?
「マルチタクス……重複思考ですか」
「なんだよじゅーふくしこーって」
理解したらしいリヒャルトの呟きにフリードが疑問を口にする。
「重複思考というのは、簡単に言えば二つのことを同時に考えることができる能力のことですね。たとえば1+1と1-1という計算があったとして、僕達普通の人はまずどちらか一方の答えをだし、そしてその後にもう一つの答えを出します。それを彼は一度にできるんですよ、同時に考えることができるわけですから」
「あ?それくらい俺だってできるぞ?」
「確かに今の1+1と1-1ならできますが、たとえば24×12と35÷4、これならどうですか?」
リヒャルトの問いにフリードはしばし黙り
「分らん!」
「バカが、288と8.75だ」
「なんだとー!」
フリードの叫びの後シュバルトがすぐに答えをいい、フリードは怒る。
「正解です、けど今順番に計算したでしょう?それを彼は同時に計算し、答えを出せるんですよ。これが二つ三つなら大した差にはなりませんが五つ六つともなれば彼は随分な速さになるでしょうね」
「そうだよー?キラ君はね、MID適正Fを貰っちゃったんだけどマルチタクスでの同時演算でそれをカバーできるから合格できたんだって」
「ところで、それがあの変な魔法にどう関係すんの?」
フリードがまた疑問を口にする、少しは考えようとしないかお前は……
「つまり彼は、プロテクの魔法の起動計算とウォーターの起動計算を同時に処理して同時に使用した。そう言うことですよね?」
「そうらしいよ?まぁ本人に聞いたわけじゃないから本当かは分らないけどね?」
リヒャルトの確認にイティアはそう答える。
「へ~、すごい奴もいるんだなぁ」
フリードが感嘆の声をあげる頃、グラウンドの隅では教師が説教しているのが見えた。
多分先ほどの三人に説教しているのだろう。
「面白い奴らも居るんだな……」
シュバルトは一言呟き、実習は終了した。
入学初日は、まだまだ終わらない。
お次はコノハさんです。