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学園ユートピア  作者: リヴァイアサン
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第三十二話 新たな影

遅れましたが中津ロイいきます。

申し訳ありません!

 学園祭初日のオープニングセレモニーを出席せず、フリードは一人で学園内の出店がある通りを歩いていた。

 ブロッドサム学園のセレモニーは派手で豪快だ。


 炎が渦を巻き、風に色がつく。

 昼間から空が暗くなり、光が星のように輝く。

 小さな小鳥が羽ばたき、中心に大きな白竜が翼を広げて風に乗る。

 魔法をふんだんに使い、この学園こそが魔法の最先端であるということを誇示している。


 魅せるだけの魔法。フリードも学園に入学してからシュバルトと過ごすまではそういった魔法に興味があった。今でも親友二人のことがなければ楽しめていたのかもしれない。だが今必要なものは魅せるためのものでも使うだけの魔法ではない。

「俺があいつらを護るんだ」

 小さく呟くと気持ちが固まったような気がする。

 護るために監視しなくてはいけない、それはフリードを勧誘したリャフィアンとの約束でもある。

 フリードが監視を引き受けない場合は他の誰かが監視することになっていた。そんなこと、フリードに我慢できるはずがないということを知っていてのことだろう。

「それにしてもなんで俺だけ一人なんだ」

 本来は風紀委員は二人一組で回ることになっている。本来フリードと一緒に回ることになっていたのはリャフィアンだ。

 だがリャフィアンは風紀委員室にこもりフリードを一人でいかせた。

「僕が君と回らないことによってデメリットは大きい。君が僕と回らないことによるメリットもある。故にこれは僕の君に対する信頼ということにしておくといい」

 そう言ったリャフィアンはいやらしい笑みを浮かべていた。

 信頼。まるでフリードの全てを知っているかのように言い切った。

 足で地面を蹴りつけ、気持ちを落ち着ける。自分が気持ちを荒げていては二人のことは護れない。

「なんか最近気が立ちやすいなー……」

 頭を振っていろいろと考えていた思考をクリアにする。それから今やるべきことを整理する。

 フリードのやるべきこと、まず初めにあげられることは、シュバルトとリヒャルトの二人の安全を護ること。その次にあげられるのは、リャフィアンやギオの思惑を判断することだ。

「となればまず二人と合流しないとなー」

 ポケットから標準装備のMIDを取り出しシュバルトにコールする、五回のコールが終わり通信が切れる。次にリヒャルトにもコールしてみるが繋がらなかった。

 頭にすぐに思いついたのは二人に何かあったのかということ。

 鎖で首に下げていた白銀の指輪を手に取る。この指輪は学園のほぼ全てを見ることができるリャフィアンと直接通信することができる。

 だが今使っていいものか、二人にも二人の予定があり出られないだけかもしれない。ここでリャフィアンに知らせて何かあった場合、自分で庇えることができるのだろうか。

「うがあああ!! 考えても埒がない! とにかく探さねえと、ターボ!!」

 発生すると足に全身に風が纏わりつき体が軽くなる。そのまま駆けると普通に走るよりも高い速度をだすことができる。

 いざというとき、二人を抱えてでも逃げることができるように組み込んでいる。二人の過重が加わっていない分ずっと軽く走ることができる。

「変なことに巻き込まれてるんじゃないだろうな!?」

 ダッシュで学園内を走る。人が少ないためフリードが思っていた以上に速度がでるため、内心で楽しんでいた。

「何考えてんだ俺は!? 今は一大事だろう!?」

 一人で愉快に大声を出しながら走りまわるフリードを多くはない人が奇異な目で流し見ているが、フリードには気づくこともなく走り続ける。




 フリードの様子を校舎の屋上から見下ろすベリアルの姿があった。

「監視対象が動くぞ、どうすればいい?」

 指に嵌めた白銀の指輪に話しかける。その指輪もまたフリードの持つものと同じく特注のものである。

「監視対象を追ってくれ。監視以外はするな、ただし危害を加えようとするものは排除して構わない」

「了解した」

 逆らうつもりはない。ベリアルは現状を楽しんでいる。

 監視対象と彼が言う生徒を追う際に面白いものと出会うことができたからだ。


 ソレは人型ではあるが人ではない。

 輪郭はあるがパーツはない。

 影はあるが本物ではない。

 そして、ベリアルもよく知る人物でもあった。顔も表情も服もわからないが、知っている。彼は、"その技"を知っている。


「山陰千奥義・閃」


 ベリアルがよく知っている頃と変わらぬ、幼稚さと狂気を滲ませた声。発声される技名。

 影の腕に光の剣が実体化した。それを振り上げてベリアルへと斬りかかってくる。

「まさか貴様と再会できるとは思っていなかった。それだけでも復学してよかったと思えるぞ、サヲングォン」

 剣を避けて屋上の端へ跳ぶ。

 影は距離をとったベリアルに対して光の剣を投げ飛ばして追撃を加える。

「ドレイン」

 飛ぶ斬撃がベリアルの手に直撃した瞬間、光剣は手の中へと吸い込まれるようにして消えた。

 吸収魔法。相手の魔法を解析し情報として貯蔵する魔法。相手の魔法を即座に分析できる観察眼と数限りない魔法を知っていなければできない芸当だ。

 ベリアルはそれを軽々と成功させた。

「貴様の山陰千は魔法ではないから吸収できないはずなんだがな。やはり、真似ただけの紛い物か、再現力が足らん」

 二つの影の距離は五メートルほどだろうか、ベリアルはそれを一歩で詰める。

 影に驚いた様子はない。感情というものがそもそも再現されていない。相手を認識し、サヲングォンという体術の天才の動きを再現し、学園の魔法使いにとって優位にたち捩じ伏せるだけに生み出されたものであるからだ。

 間合いを詰めたベリアルに対してさらに一歩向かって踏み込む。凄まじい速さで出された影の拳はベリアルの胴体を打撃する。

 衝撃。それはベリアルの腹を突き抜けて背中まで届いた。

 だが、ベリアルはまるで打撃など感じていないとでもいうように顔色一つ変えない。

「貴様を倒すのは我でありたかった。だが、貴様はどこかで討ち死に、今は存在を利用されるだけに成り下がってしまった。残念だ」

 心底残念だと声色が語っている。しかしそれで現実が変わるはずもなく、死んだものが蘇るようなことはない。


 蘇生魔法。そんなものは魔法とは呼ばれない。人々は畏敬と念願を込めて、"奇跡"と呼ぶ。


「せめて恥を晒さぬよう、何度でも我が止めてやろう」

 ベリアルは先ほどとは変わり、緩慢な動きで影の腕を掴む。

 影は避けなかった。否、避けられなかったのだ。その行動をベリアルが封じているからだ。

「ストップ。貴様が魔法によって生まれたものである以上、我の魔法から逃れることはできない」

 今度は空いた手で影の頭を掴む。

「ドレイン」

 発声と共に影はベリアルの手へ吸収された。

 残った静寂の中、再び指輪から雇い主につなげる。コールはすぐに繋がった。

「意見を聞こう」

 通信の向こう側からリャフィアンは全て見ていたことを告げる。

「お前が知り我が知る限り、この学園であれほどの再現率ができる者は一人だけだ。そしてその一人はあれほどの再現ができるほどスペックに余裕はない」

「そうだな。どういうことか分かるな?」

「学園外の人間の仕業。お前のその言い方だと、高度な隠蔽魔法も使えるようだな」

「厄介なやつが紛れ込んでいるようだ。だが一人だけとは限らない」

 リャフィアンが言うのであれば本当に一人ではないということだ。ベリアルもそれは感じている。これほどのことしかできない者が単身で乗り込んでくるはずがないと。

「厄介な奴ほど風紀を乱す。見つけたら即座に正せ」

「手段は問わないか?」

「問わない。だがお前は風紀委員だ、風紀は乱すな」

 あくまで風紀委員長の立場を崩さないリャフィアンだが、相手にしているのは元"欠席番号"のベリアルだ、風紀を乱してきた立場の生徒である。そしてその立場に選ばれただけの実力もある。

「乱したという結果も生まないようにしてやろう」

 風紀を乱すなという言葉がベリアルの琴線に触れたのか、不機嫌に彼は言った。

 だが、リャフィアンはそれでも自分の立場を崩すことはない。

「やめろ。今使おうと考えている魔法は禁止だ。風紀から離れすぎている」

「室内に引きこもり、机の向こう側からでしか命令できない貴様に、この我を止められるとでも?」

 語気が荒げ、普段は見せることのないベリアルの一面が現れる。通信越しでも伝わるほどの怒気と殺意が込められている。

 それに対してもリャフィアンは冷静だった。冷静に一瞬だけの間をおいて返事をした。


「まさか、私が貴様ら欠席番号を止める手段もなく迎え入れたとでもおもっているのか?」


 ぞわっとベリアルは久方ぶりに冷や汗をかいていることに気が付いた。

 何故か。――――気圧されたのだ。彼からしてみれば机の向こう側から命令しかできない弱い男に、しかも通信越しの相手に。

 相手は常にベリアルを見ている。できるだけ気付かれないように長く息を吐いて落ち着く。

「……悪かった。そう気をたてるな。ほんの冗談、言われたことは守る」

「知っているよ。お前は僕の味方だ。だからそこにいる」

 逆らうなら、そこから消す。ベリアルは見えない手で心臓を掴まれているような心地を味わいながら、しかし平静を装うのが限界だ。

 口は渇き水分を欲している。

「それでいい。今から監視対象の座標を送る。あくまで監視だ、手は出すなよ?」

「承知した」

「ああ、それともう一つ」

 まだあるのか、とベリアルは思うものの口には出さなかった。

 しかし、リャフィアンが口にしたのは追加の無茶な命令よりもベリアルの心を拘束する言葉であった。

「その校舎の下に、飲み物を販売する売店があるはずだ。喉が渇いたら利用するといい」

 通信が切られて静寂に戻る。送られてきた座標でフリードの場所を確認したベリアルは飲み物を買うために屋上から一度飛び降りていった。

途中からどんどん楽しくなってきてました。


虹鮫連牙さん、よろしくお願いします!

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