第二十五話 白竜の主
前話に続いてないけど続いてる後編です。
godaccelがお送りします。
大聖堂の外でシュバルト達はただ見つめることしかできずにいた。
追い出されてからすぐ、彼らは戻るために大聖堂に入ろうとしたのだが、それは叶わなかった。恐ろしいまでの情報の圧力が直後に大聖堂の中から襲い掛かってきたからである。マテリアライズ・オーバードライブの圧力はそのままに、他の何かが彼らにそれ以上進むことを、大聖堂の中に戻ること決意を揺るがせた。そしてその原因を作っているのは間違いなく最後に登場した"生徒会長"ギオ=ガルシアだ。
"世界"という存在の圧力に対等どころかそれ以上の圧力を以て対峙しているという異常。いわばこれは二つの"世界"が競合していることを意味していた。
ただ、大聖堂の扉の前で呆然としている四人。その中で一人だけ、状況を理解できているものがいた。
学園長その人だ。
「ギオ……使ったのか、あの魔法……」
ただ一人、皆とは違う感情を持って扉を、その奥を見据えている学園長。シュバルト達は自分達とは違う意味で傍線としている学園長に驚きの目を向けていた。
「一体どういうことだよ!」
フリードが学園長の前で怒鳴る。それ以外にできないということがもどかしいとでも言いたげに。シャバルト達もそれには同意で、同じように学園長に詰め寄った。
「簡単なことだ。お前達はあの小僧に攻撃が当てられない故にプリマテリアライズ・オーバードライブそのものに攻撃することにしたのと同様のことをしたまでだ。目標はまるっきり逆になるが」
「不可能だ! あいつの本体に直接攻撃することはできない!」
否定。自分達が身を削って全力を尽くしてさえ届かなかったことをできるはずがない、できていてほしくないという気持ちからくる言葉だった。その全力の否定を、学園長は首を振るだけで返した。
「あれがどういうものかは文献にさえ記述されている。その効力の膨大さから誰も使わなかっただけで、魔法自体はMIDで実現が可能なものだ」
「それはどういうことでしょうか?」
「実現できるということは対処の方法があるということだ」
大聖堂の内側から轟々と風が吹き荒れている。中で一体どのような戦いが繰り広げられているのか、想像することもできない。
「一つは魔法そのものに攻撃を与えて効力そのものを打ち消すこと。これは君達がやろうとしていたことだね。そしてもう一つ」
大聖堂の中から一際大きな音が響いた。呼応して大聖堂の窓はすべて弾け、土煙が噴出した。
「プリマテリアライズ・オーバードライブという魔法を打ち抜き使用者そのものを倒すこと。これがこの魔法を破る方法だ」
学園長は大聖堂に目を向ける。他の三人も同様に見た。
音が聞こえなくなっている。"世界"とやらの圧力も、正体不明の圧力もどちらもなくなっている。残っているのは異様な静けさと、立ち上った土煙だけ。ぱらぱらと割れたガラスから破片も落ちている。
中に入れない。一体どのような状況になっているのかを理解したくないという気持ちが三人の中にはあった。その感情を唯一持ち合わせていない学園長が大聖堂に向かおうとしたところで、それはおきた。
今までどのような衝撃にも耐えてきた扉が動き出したのだ。本来の扉の役目として。
中からでてきたのは一組の男女だった。片一方、短く散らした黒髪に挑発的に強気な目をした男、"生徒会長"ギオ=ガルシアである。もう一方、長いストレートで整えられた銀髪におっとりとした目をする女、シュバルト達三人が始めて出会う女性である。二人は手をつなぎあっていた。
だが、そんなことよりも彼らの異常は別にあった。あれだけの戦闘、あれだけ土煙が立ち上っていたにもかかわらず、二人はまるでそんなこと始めからなかったかのように真っ白の服、手袋を身につけていたのだ。
三人が三者三様に恐怖を覚えたのと同時、目の前にいた学園長は彼らを見とめ難しい表情をした。
「悲しまないで、ヴァレリア。私が望み、彼が受け入れたことよ。それに、永遠ではないわ」
「あなたがそういうならきっとそうなんだろうな」
学園長は自分よりはるかに年下の外見の少女に頭を下げる。彼女もそれに恭しく少し首を動かすだけで受け入れた。それから、今度はシュバルト、フリード、リフィアンを流し見る。
「これからあなたたちがどのような選択をするのか、それを私は知りません。でもこれだけは覚えておいて。あなたたちが学園の生徒である限り、私も彼もあなたたちの味方であるということを。だから、思う存分やりなさい!」
「「「はい!!」」」
風貌からは考えられないほどの威厳を見せ付けられ、三人は咄嗟に返事をした。そんな三人を一人ずつ見つめた後、彼女は花の水遣りでも頼むような気軽さで言った。
「"世界"の運命、頼むわよ」
その人はギオの手を引き、三人の間を通り抜ける。
わずかな交錯。三人の頭が一様に三つたたかれた。ギオだった。
「それじゃ、後は頼んだぜ。俺から言えることは一つだけだ。時間は惜しむもんだ、取り返すもんじゃねぇ」
そして通りすぎる。後ろからの視線を感じながら、歩き続ける。
たどり着いた先は、大聖堂の近く、一箇所だけ中心の大樹の根が一箇所だけ飛び出た場所。
「時間は惜しむものかぁ、良いこと言うようになったね"生徒会長"」
「うるせぇ! 積もる話はあるが、時間は大丈夫か?」
静かに横に振られる首。わかっていたことだ。この魔法には終わりがあるということを。
「まったくお前を呼ぶほどのときはいつも時間がいくらあっても足りやしねぇ」
「ははっ、ごめんよ」
風が二人の間を吹き抜ける。
「……そろそろお別れだね。魔法の効力切れだ」
「そうだな、時間を巻き戻してでもお前といたいが、それをお前は望まないだろうから」
「うん。私はもう人じゃなくて竜だから。人の望みを抱くわけにはいかないよ」
結んだ手に力がはいる。離したくないというように。
でもそれも次第に弱まっていく。
「俺の方が後なのに先に効力切れっていうのも変だな」
「それはそうだよ、"本来使うべき人が使っていない呪文"だもん」
「……やっぱりお前といるとらしくないな」
ギオは、ははっと無理やりにでも元気よく笑う。それに連れるように女も。
二人の笑い声だけが、その場所に響いている。
ひとしきり笑った後、すっきりした顔になった二人はお互い向かい合うように体をむけ、そして別れを惜しむように抱き合った。
「なぁ、一つお願いしてもいいか」
「私もお願いしていい? 人のようなお願いだけど」
そして言う。
「「俺/私の最後の呪文が聞きたい/わ」」
声が重なる。お互い抱き合ったまま笑った。
同じことを考えているとは思ったが、重なるとは思わなかったからだ。
ゆっくりと体を離し、女はそのままどんどん後退していく。
その距離十メートルちかく。
「じゃあレディファーストだな、先に言ってくれ!」
距離が少し開いているからか、それとも照れ隠しなのか、すこし声を大きくしてギオは言った。
「おはよう! マイダーリン!」
それは本来黒竜となったギオを起こすための"彼女の魔法"。
顔を赤らめながら、それでもギオに聞こえるように声を張り上げてくれたのだ。
だからギオはそれに答えるようにして、たった二つきりの魔法の"もう一方"を叫ぶ。
「おやすみ! マイハニー!」
彼女の体が光に包まれる。その光の強さにギオは目を閉じる。
次に目を開けたときにはそこに彼女の姿はなかった。
その代わり、
「いくら馬鹿みたいだからって本当に馬鹿じゃないんだよ、お前の呪文は恥ずかしすぎる」
白い巨大な竜がいた。それに向かって呟いたギオの声に、白竜は全身を喜ばせるようにふるわせた。
そして長い首を下げ、ギオに頭を下げた。
「さて、もう一仕事だ。うちの生徒に手を出されるわけにはいかないからな」
その頭に飛び乗り、不敵に笑う。
周りはいつの間にか黒装束の集団に包囲されている。
構うもんかよ、とギオは心の中ではき捨て、現実に牙を剝いて笑った。
「知ってるかよお前ら! 頑張ってるやつの足は引っ張るもんじゃねぇってな! 頑張るやつには背中でも手でも足でもいいから押してやるもんなんだよ!」
白竜が羽ばたく。その際に起きた風が突風となって黒装束を靡かせた。
「いくぞハニー、お前が認めた"生徒最強"の力を教えてやれ」
烈風があたりを襲い、一人の人間と一つの集団がぶつかり始めた。
更新に大変長いことかかりました。
その間にいろいろあったということを差し引いても待っていた皆様には申し訳ありませんでした。
今回より再開させていただくことになりました。
メンバー全員というわけではありませんが、戻ってきてくれるのも他のしみにしています、いつでもウェルカムです!(笑)
それでは、次の作者は、虹鮫連牙さんです!
よろしくお願いします!