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学園ユートピア  作者: リヴァイアサン
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第二十四話 黒竜の主

お久しぶりです。ごちゃごちゃしてついぞ更新されることのなくなったリレー小説、願わくば私の我侭に少々お付き合いお願いします。

主催もろもろ、godaccel、よろしくお願いします。

「大聖堂で将来を誓いキスをすると二人は永遠に結ばれる、って噂があるのを知ってるか?」

「口説き文句にしてはいまいちね。俺がキスしたらお前は俺のものになるんだぜ、くらいは言えないのかしら?」

 そうやって軽口を叩いたのもずっと昔の事だ。今ではもうどんな顔でどんな声だったかは覚えていない、完全に記憶に焼き付けるには彼女との別れは余りにも早すぎたのだ。

 あの日、教えて貰った二つの呪文と一つの命。彼女は自らを含むソレらを彼に託して逝った。いや、逝ったというのは正確ではなく、彼女は彼の中で生き続けている。今までも、今も、そしてこれからもそうあり続ける。

 教えて貰った呪文は、一日の始まりと終わりに使う言葉。そして彼をこれから先ずっと生徒最強にし続ける魔法の引き金。――そう、“生徒最強”に、だ。

 彼女の名前は記憶にない。彼女が彼になった時、彼女はハニーとなった。もしかしたら最初からハニーだったのかもしれないが、彼には些細なことだった。彼女であれハニーであれ、近くにいてくれるなら同一だったから。

 彼女は最初の“欠席番号”。学園創始から居続ける落第生ゆうとうせい。真実の魔法ではなく、MIDを通した魔法を極めし者。彼女の魔法は召喚だ、この世にないものを呼び寄せる。白く白く、まるで穢れを知らないほどの純白な竜。

 どこまでも気高く高貴であり続ける彼女でも人並みに恋をした。初代の学園長との禁断の恋。しかし当時はまだ魔法の欠陥が強くありすぎた、さらに彼女は情報を処理する脳を酷使し続けていた為に、かなり早い死期を迎える。

 そして二人は大聖堂で一人となった。

 そして呟く、始まりの魔法。


「おはようマイハニー」


 静謐な大聖堂に染み込むように響くたった二つきりの魔法の一つ。顕現したのは大きな白銀の竜だった。

 それから幾年も過ぎて、思い出の場所は無残な姿になり果て、“世界”を据えている。

「なぁハニー? よく分からねぇが、世界の終焉だってよ。だから久々に使ってもいいよな、もう一つの魔法」

 彼が呟くと、白銀の竜は小さく鳴いた。まるでしばしの別れを惜しむように。

 その返事だけで彼は満足だった。だから、彼は話しかける。

「いや、俺が行く」

 目の前にいる後輩達や学園長が驚いた顔で彼を見た。“生徒最強”、“生徒会長”、“白竜の主”、ギオ=ガルシアを。




「いや、俺が行く」

 そう言って話に割り込んできたのは、今まで傍観か牽制でしか戦闘に参加していなかったギオだ。

 シュバルト達や学園長は驚きつつ、言葉を失った。

「時間が惜しい。リヒャルトとそっちの馬鹿っぽいのはシュバルトの親友だろ?だったら一緒に願っとけ。奇跡ってのは願った分だけ強くなる」

「あれを……一人で止めれるのですか?」

「さぁな、まぁ出来るだろ」

「馬鹿っぽいってなんだよ!?」

「俺と似たもんだ、誇れ!」

 不満はいくつもある、だが今はそれを全て言うにはあまりに時間が惜しい。

 しかし、シュバルトはどうしても一つだけ確認しなければならなかった。

「あんた……時を戻すことに反対だろ?」

「あぁ、それが最後の手段だとしても反対だ」

「じゃあ」

 何で、と問うよりも、白竜がギオの腕のMIDを破壊する方が先だった。しかし、白竜が消える気配はない。

「俺が助けるのは時間を戻そうとしてる奴じゃねぇ、今を精一杯生きようてしてる奴だ」

 そして、不敵な笑いを浮かべる。

「だからちょっとそこをのけ」

 どっと言う音が聞こえたかと思うと、ギオ以外は大聖堂の入り口に吹き飛ばされていた。

 それを成したのは白竜。それは大聖堂の扉をゆっくりと閉める。最後の僅かな隙間から、ギオは声をかけた。

「頼んだぞ、ホンモノ」

 扉が閉まる。中と外が完全に隔離された。

 目の前にいる異形となり果てたモーリスをギオは不敵な笑みを浮かべながら視界に納めた。

「なぁ、MIDを介する魔法の発動条件を知ってるか?」

 返ってきたのは呻き声に似た咆哮と莫大な力の波。白竜が盾になるが、翼を軽々と奪われてしまった。それでもなお凛然と、ギオは立っている。

「勉強が足りねぇな。“音”だ。故に授業では発声を発動条件と教えてる。それが安全で、イメージするには確実な方法だし、俺も賛成だ」

 白竜はそれでも消えない。有り得ないほどの存在を前にしてもひくことなく、堂々とした風情でギオとモーリスの間に在り続けている。

「だが発動条件はあくまで“音”なんだよ、声なんてちっぽけな飾りじゃねぇ。今から見せてやるよ、“音”で発動する最強の魔法をな。その体に教えてやるよ! “生徒会長”の力をな!」

 白竜が咆哮する。その姿はボロボロではあったが、圧倒的な存在感を見せつけて。その姿にはさすがに“世界”でさえ怯み、完全にその場に縫いつけられた。

 その後ろでギオは自分を抱くような格好ではっきりと確かに“発声”した。


「おやすみマイダーリン」


 周りが轟々音が飽和しているにも関わらず呟かれた呪文は鮮烈に響く。異形となり果てたモーリスで動くことなく、目の前に広がる異常を見つめるだけになった。

 燃えている。朱くではない、黒く。燃え盛る黒色の炎は大きく、その中に丸々一体の竜を内包していた。“世界”を前にしてもなお遅れを取ることのないその存在、許容量を超える過多な情報はそれだけで周りを圧迫していた。

「サヲングォンのも興味深いものだったけど、私もまだまだね。世界にはこんなにも素晴らしいロマンが溢れているのだから」

 続いて響いたのは女の声。ギオが立っていた場所と同じ場所に、入れ替わるようにその声の主は立っていた。ただ、時折ノイズが奔り輪郭を失ったりしている。

「プリマテリアライズ・オーバードライブかしら? 実物をみたのは初めてね。といっても発動されたら最後世界は滅んでいるのだけど」

 まるで品定めするようにモーリスを眺めながら、余裕の笑みを崩さない。

 モーリスは動かない。まだ目の前で起こっている不確定な現象についていけないようだ。

 それをどう感じたのか、彼女は優しく告げる。

「私が何かって? 私はギオ=ガルシアであり、彼がハニーと呼ぶ者であり、幻想の存在よ。生前の名前はわすれたけど、その後はずっと“欠席番号”零番が私の符号となった」

 それはサヲングォンが唯一対等と認め、友達とさえ形容した“欠席番号”の生徒。余談を含むと彼女こそ暴虐の限りを尽くしていたサヲングォンを宥め、学園を救った張本人だ。

「私はずっとギオの中から見ていた。そこにあなた以上に面白い存在を見つけたわ。あなたのプリマテリアライズ・オーバードライブは世界を滅ぼすけど、それは現象の短縮でしかない、いつか起こることを今起こしているだけ。そんなのビッグバンをMIDで起こせば、実現不可能ではないわ。でも“リルタイム・チルドレン”時を巻き戻す真実の魔法は違う。私はこれをMIDで実現できなかった。だから時が巻き戻る瞬間を見てみたいの。その為にあなたと戦うわ。名前を無くしたもの同士仲良くいきましょう」

 “零番”はモーリスも名前を無くしたものと言った、事実モーリスに自我は出すことは出来ず、刻一刻とプリマテリアライズ・オーバードライブが自我を食いつぶしていることだろう。だからこの場にいる二人に名前はない。“零番”と“世界ぜん”の二つの戦いが、今始まった。

「行って、ダーリン」

 そのかけ声に応じて炎の中にいた竜が飛び出してきた。全身真っ黒で白竜の面影はもう残っていない。黒竜は“世界”に向かって一直線に突撃した。

 二つの強大な力がぶつかり合い、結果黒竜は体の大半を奪いながらも“世界”の体に爪を突き立てることに成功した。

 ――そこまでは誰にでも予測出来る範囲なのだが、問題はその次の瞬間に黒竜が完全な姿に戻ったことだ。復元というレベルを遥かに超えた、まるで“時間を巻き戻した”ような違和感すらある。

 “世界”から腕が伸びた。既に人という形はなく、無数の手が黒竜と“零番”に向かって分裂して襲いかかった。

 しかしまるで後出しじゃんけんのように読まれているのか、黒竜は“零番”を抱くように伏せ、次いで口から火が漏れだす。

 ドラゴンブレス。火炎が黒竜の口から吐き出され、向かってくる手を悉く燃やし尽くし、それでも突破した手は強靭な前足でひねり潰し、長い尾で薙ぎ払ったりする。

「良いことを教えてあげる」

 高速で向かってくる“世界”に黒竜が立ちはだかる。

「私が使うMIDは特別性よ? 常に発動した状態を保っているから。知ってるかしら、人の一生の中で一番聞く“音”は声や外からの雑音じゃないってことを」

 手足だろうがどこだろうが、無くなった瞬間元に戻り反撃する。虚を突いて“零番”に向かおうとも、まるで最初からそこにいたかのように黒竜が現れて進めない。

 一進一退の攻防が続く。

「人が一生で一番聞く“音”。それは、――“心音”よ」

 “零番”は胸に手を当てる。するとそこでは確かに鼓動が行われている。とくんとくんと、普段は周りの音で消えてしまったように感じてしまうが確かにそこで鳴っている。

「心臓の代わりにMIDに据える技術は私がしていたの。それを“リルタイム・チルドレン”を造る為に使われたのは予想外だったけど、結果的にマルチ・タスクみたいなイレギュラーも発見できた。ダーリンは私の“心音”に合わせて召還されているわ。そうすることで莫大な情報を魔法として現実にすることを可能にしているの」

 黒竜に投げ飛ばされ、無残に地面を転がる“世界”だがダメージを受けた様子はなかなか見えない。また黒竜も同様だ。

「どれだけ傷つこうが、私の“心音”が鳴っている限りダーリンは再生し続ける。ダーリンがそこに居続ける限り私は守られ続ける。一蓮托生の関係、“世界”に呑まれ意識のないあなたに遅れを取る道理はないわ」

 黒竜が咆哮し、“零番”は狂おし気な笑みを浮かべる。それから、優しげに恋人に向けるような笑みに変えてから、言い忘れていたことを思い出したように。

「それに、あなたさっきギオに初歩的なこと教えて貰っていたでしょう? その時点で生徒みたいなものよ。なら“生徒最強”が遅れをとる道理はないわ」

 駆ける。縦横無尽の方向に拡散した黒竜が“世界”というただ一点へと。

 反撃は不可視にして不可避の不特定多数の攻撃。それは黒竜に対する怯えからくる防衛的な反応なのかもしれない。

 それさえも突破した黒竜が“世界”に突撃したところで、勝敗は決せられた。

 黒竜が消えて、再び“零番”の近くに現れる。後に残ったのは気を失ったモーリスと行き場を失った“世界”だけだ。

「さて、後は巻き戻されるのを待つだけね。それが終わったら、私はまだいれるのかしらね……」

 とくんと鼓動だけが返事をした。

数日後にもうちょっと続くんじゃよ。

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