第二十三話 決戦の幕開け
二週目柚乃詩音です。駄文ですがよろしくお願いします。
ここ数日シュバルトは数多くの信じられないほどに強いものたちに出会った。これほど強い人間がいてもいいのかと思うような人物が現れては、さらに上の力を持つ者の出現によって倒されていく。そして最終的にはこれだ。
今までの敵は間違いなく、揺るぐことなく『人間』だった。いくら狂っていても、いくら規格外の強さを持ち合わせていても同じ人間だった。なのに今度はいわば世界を敵に回すということだ。同じ空間に存在してるというだけで圧倒的な力を感じざる終えない。
今世界が終焉を迎えるか、始まりを告げるか、それほどに強大なものがモーリスの体を器として目の前に存在している。そしてどちらを迎えるかはシュバルト達しだいなのだ。
恐怖と称するには大きすぎる感情がその場にいる全員の中で生まれていた。それでもシュバルトは恐れるそぶりは見せない。
「なんでだろうな。世界と戦うなんて絶望的な状況なのに、どうにかしてやろうって気になる。くさすぎる台詞だけどさ、何とかなりそうな気がするんだよ。お前らと一緒にいればきっと大丈夫だ」
リヒャルトとフリードを順に見やってニコリと笑う余裕まである。
「そうだな。何とかなるんじゃないのか」
「でも90分は世界と戦うのには短い気もする。少し、急ごう」
二人もシュバルト同様に特に怯える様子もなく飄々としている。
「こんな事態は誰も経験したことも、想定したこともないだろうよ。だからどうすればいいかなんてものは誰も知らない。俺達で見出さなければいけない」
「とりあえずは何かしてみるほかないだろ?」
シュバルトがそういうのとほぼ同時に他二人も同じことを考えたのだろう。対ロイ戦と同じ連携攻撃を繰り出す。しかしプリマテリアライズを起動させてしまったモーリスの肉体にはまったく影響を与えない。
「まったく効かねえじゃねえか」
「さすがは世界って事か? 倒しても次の器を見つけられる可能性だってあるんろ?」
「モーリスを倒すんじゃなくてプリマテリアライズ・オーバードライブを消滅させる必要があるってことか?」
『タイガー・クロー』
シュバルトがアカシック・リロードを作動させる。光に包まれたシュバルトの篭手がモーリスの身体へと襲う。見た目での変化は何もないもののモーリスの中にあるプリマテリアライズが苦しそうに呻く声が大聖堂に響く。その嘶きともいえるもはや人の発するものではない音は様子を見る三人の視線が注がれる中、大して経たないうちに止む。
そして今度は異常に長い獣というにも異様過ぎる様になってしまっているモーリスの手がシュバルトを襲った。避ける暇も与えない突然の反撃にシュバルトは諸にダメージを受け後方に飛ばされる。
「シュバルト!!」
「だ……いじょうぶ、だ」
その声を聞いてひとまず胸をなでおろすフリードに今度はモーリスの爪が降りかかる。シュバルトのほうを見ていたフリードは自分の背中めがけて振り下ろされる。それに気付くも防御するには間に合わない。そのことに気付いたリヒャルトがフリードの背後にほぼ反射的に立つ。
「ぐっ、うあああああ」
「!?」
「なにやって……」
「平気だから……それよりも、さっきの。アカシック・リロード。一瞬効いていた、よね」
平気といいながらもリヒャルトの胸からはどくどくと鮮血が流れ落ちる。なんともないというには無理がる姿だがそれでも彼は言葉を紡ぐのをやめない。
「モーリスの肉体を、介してじゃなくって……ハァ……プリマテリアライズ本体に、もう少し強力なのを……当てられれば……いけるかも」
「本体に……?」
リヒャルトは既に気力のみで立っているような状態だ。このまま経っていれば血が止まることもない。その上体力ばかりを使ってしまう。そっとフリードが肩を貸して横たわらせる。こうしておけばしばらくは意識ぐらいは保てるはずだ。
シュバルトは背中を強く打ち付けられた痛みを感じながらもよろ着きながらリヒャルト達の方に戻ってきた。
「でも、プリマテリアライズはモーリスの中なわけじゃないのか?」
「一瞬だけ……あれが起動した瞬間、光が……あれは収まりきれなかった力が……一度外に出て、彼の肉体に納まれるように。調整してたんじゃないかなぁ」
「そんなの! 過ぎちゃった話だろう!! どうしろって……」
そこでフリードははっとしたようにシュバルトの方を見る。
「そう……シュバルトは、リアルタイム・チルドレン……だろ? その力を使うのは……嫌だろうけど……」
「これから使わずにすむんなら、世界を救うために一度だけ駆使するって言うのも悪くないだろ?」
それに、と一度言葉を区切り笑う。
「ここで世界が終わったら、俺がこの力で世界を巻き戻すことを拒んだことが無意味になるだろう? 誰も後悔することなんてできない。誰もより良い未来を生み出せない」
「どうすればいいのか分かるのか?」
「いや……正直前使ったときは無意識だったし。まぁ、やってみるしかないだろ?」
フリードは呆れたように肩をすくめて苦笑する。
「しかたねーな。お前がどうにかしている間の時間稼ぎは俺がしといてやるよ」
「ありがとな」
「こんぐらいは当然だろ」
そう言いながら照れたように笑う友人をシュバルトは今までになく心強く思った。
次は妄音ルゥさんです。私などのあとで書きずらいでしょうが、お願いいたしします。