第二十話 黒き竜と自由の鉄
コノハです。よろしくお願いします。
漆黒の竜と溶けた竜。二つの竜が対峙していた。
「ロマンはあるのか、か。……なら聞くが、お前たち、勝算はあるのか?」
黒いローブをまとったロイが、鼻で笑いながら言った。
「さあ、それは」
「わかんねえな」
フリードとリヒャルトはお互いを見ながら言った。
「そうか。行け。奴らを殺せ」
軽く馬鹿にするように笑うと、ロイは魔法でできた黒龍に命令した。漆黒の質量が、二人に襲いかかる。
「フリード、火力を上げてください!」
「おおよ!」
溶けた竜の体が赤くなり、形を崩す。リヒャルトは手をかざし、竜を別の姿に変える。それは、大きな盾だった。二人の前に出来上がった盾は黒龍の突撃を受け止めた。
「っ……今です!」
「おお!『ファイア』!」
フリードの魔法で、鉄の盾はまた不定形になる。高熱を持った鉄の液体は黒龍を包みこんだ。黒龍は苦しそうに悲鳴を上げる。
「……ふん。なかなか」
ロイは不敵に笑った。鉄に包みこまれた黒龍は彼の指の一振りで力を増幅し、鉄の覆いを難なく破った。
「があああああああああああああああ!」
その叫び声にフリードとリヒャルトは思わず耳をふさぐ。
「ほら、チェック」
ひるんだ二人に向って、ロイは手をかざした。
「『フレア』」
大きな火の玉が、二人に向かって飛んでくる。フリードは死を覚悟したが、リヒャルトは焦りながらもMIDの魔法を起動した。
「『アイアン』!」
二人と火の玉の間に、巨大な鉄柱が現れ、火の玉を代わりに受けた。それはどろりと融解し、液体となって地面を流れる。
「フリード、今から言うとおりに魔法を使ってください」
「おう。……それから、もう丁寧語使うな」
フリードの言葉に、リヒャルトは怪訝な顔をする。
「丁寧語にする時間ありゃ、考えろ。ここまで来たら、きっと一瞬が生死を分ける。『です』『ます』言ってる暇があったら指示を出してくれ。……それに、仲間だしな」
最後のほうは、照れくさそうに言った。
「……わかりました、いや、わかったよ」
リヒャルトは微笑むと、ロイのほうに向きなおる。鉄の液体は固まっていたが、まだリヒャルトの支配下にあった。
「フリード、鉄を溶かして」
「おう、『ファイア』!」
ゴウ、と音がして鉄全体が液状化する。リヒャルトはそれが固まらないうちに別の物に形作る。
「……お前ら、面白い戦い方すんな」
終始を見ていたロイは、楽しそうに笑った。
「一人が製鉄と操作。もう一人が溶融を操る。ふはは、こんな方法があったとはな」
「何がです?」
リヒャルトはロイに聞いた。無論、鉄の操作は怠らない。巨大な鉄塊は二人の後方で球体を象っていた。まるで、何かの卵のように。
「いや、お前らみたいにしようとした奴は何人もいたんだよ。鉄の魔法が使えるなら、これを操れば、ってな。だが、操作性の特性と威力の特性は反比例の関係にある。威力が高けりゃ操作できないし、操作しやすければ威力が足りない。さっきの俺の魔法、見たろ? 威力は高いがただ前に飛ばすことしかできねえ。二人でそれを分担するとはな。面白いやつらだ」
そうにやりと笑うと、ロイは黒龍に命じる。
「お前の炎を見せてやれ」
「そうはさせません。フリード、炎を!」
「おお! 俺らの力、見せてやろうぜ! 『ファイア』!」
フリードがそういうと、二人の後ろにあった球体が、急激に姿を変える。それは足があり、手があり、頭があり、胴体があった。鎧を着ているようにも見えた。右手には大きな剣を、左手には盾をつけていた。
「……ほう」
「竜を倒すのはいつだって『勇者』。だろ? ロマンだって溢れてる」
フリードはにやりとしてロイに言った。
「行きなさい、『アイゼンリッター』!」
鉄の騎士、と名付けられたそれは、リヒャルトの意思に従い前へ出た。
「ドラゴンハントだ、行くぜ!」
フリードはロイに向かって高らかに宣言した。
次は暇零さん、お願いいたします。