第一話 入学式
一番手、godaccelいきます!
樹齢数千年の大樹を中心に設立された学校、ブロッドサム学園。
世界の科学の最先端を行くここでは、小さな端末に情報として色んなもの、例えば既存の物質や生物や事象、果ては幻想の物質や生物や事象などを情報として保存し、各々が設定した音によるキーによって取り出し現実のものとする技術が開発されていた。
何もないところから一時的とはいえ現実のものを作り出すこの技術は『魔法』と呼ばれている。
在校生は全員端末を保有しており、中には自分用に改造されたものを持つ者もいる。
ブロッドサム学園は極めて高い科学を外部に漏らすのを防ぐために、優秀な学生からなる生徒会を組織し治安を維持しているため、現状漏れることは無いに等しい。
しかしブロッドサム学園を狙う外の国は多く、一般生徒として潜り込んでいるスパイまでいるほどである。
彼らの目的はただ一つ。
一般生徒を、生徒会を、いや、ブロッドサム学園そのものを出し抜き、本国へ科学情報を伝えることだ。そのためには何でも使う。仮初めとして言い聞かせないと使えないような、永遠を誓った恋人でさえ、使ってみせるのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今日はブロッドサム学園の入学式が行われる日だ。
生徒達は皆大樹の下に建てられている大聖堂に集合している。
大聖堂はかなり大きく作られており、必然的に中もかなり広く、生徒が全員入れるほど。上からはシャンデリアがぶら下がっており、壁には神話の英雄が描かれた絵画が数多く備え付けられている。
カラフルなステンドグラスが作り出す神々しい雰囲気は人を拒絶する。入学式のような祭典以外では生徒はあまり寄りつこうとはせず、いつもは静寂に包まれた空間になっている。
同時に神々しさは人を引きつける魔力も備わっている。
大聖堂で将来を誓いキスをすると二人は永遠に結ばれる。
いつ頃からか囁かれている伝説。しかもこれには大聖堂が二人だけの時、というよく分からないオプションまで付属しているのだ。
いくら大聖堂が人を寄せ付けないからといって、大聖堂が扉を閉めるまでは神父かシスターが一人は必ずいる。なので実現は難しく、過去挑戦した強者は悉く返り討ちにあったのだった。
しかし入学式に参加するような生徒は、そんな夢か現かも分からない伝説を試すよりも、まずは入学式と同時に配布されるある物を早く使いたいと思っているのが大半だ。
魔法情報用端末、MagicalInformationDevice、通称MID。ブロッドサム学園の生徒にはその一般的な物を一つ配布される。そこから改造するか否かは本人達に委ねられる。ただ一般的ということもあり使い勝手は悪くないが良くもないのが難点だ。
貰ってすぐ使えるようにはなれないのだが、少しの練習をするだけで簡単な魔法を、例えば火をだしたり水をだしたり、行使出来るようになる。
そしてゆくゆくはオリハルコンや竜、舞空術などの幻想を実現できるようにまで成長して、生徒会に入るのが生徒達の夢だ。
ただ、幻想を実現するための情報操作は全六学年ある内の第五学年で履修するものであり、第五学年になった者でも全員が情報操作を出来るようにはなれない。
壇上にがっちりとした筋肉を持つおっさんが上がってきて、アナウンスがおっさんが学園理事長であることを知らせる。するとそれまで喋っていた生徒達は喉に何かを詰めたかのように静かになった。
「諸君、まずは入学おめでとう。この日より晴れて君達は我が学園の一員となり、同時にブロッドサム学園という一つの鳥籠に入れられたと言ってもいい。自由の代償に拘束を、魔法の代償に監視を、受けねばならないのだ。それを嫌悪する者は今からでも遅くない、早々にこの場より立ち去るが良い。だがそれでも残るという者は、改めて、入学おめでとう。私から諸君に言えることはただ一つ、何のために魔法を使うか、それを考えなさい。私からは以上だ」
言いたいことだけ言った理事長はさっさと壇上から降りて脇に据えられた席に座った。誰も何にも言えないくらいあっさりとした行動だった。
そんな空気の中、壇上に一人の男子生徒が上ってきた。左手にはめられた純白の手袋が、その男子生徒が生徒会役員であることを示している。
「新入生入学おめでとう! あのおっさん自由気ままだからあんまり気にすんなよ。俺の名前はギオ、ギオ=ガルシア、この学園の生徒会長を務めてる、いわゆる生徒最強ってやつだ! 自慢じゃねぇけどな!」
ふんぞり返って笑う生徒会長、ギオに新入生達はこんなのが生徒会長でいいのかよ、と心の声を漏らした。
まるでそれが分かっているかのように、ギオは大笑いを止めて不敵な笑みに変える。
「こんなのが生徒会長かよとかそんなこと考えただろ? いいぜ、なら見せてやる。俺を生徒会長にまで押し上げた魔法をな!」
ギオは右手を前に突き出した。そこには手首から肘までにかけて大きな、改造されたMIDが取り付けられていた。
そして、静まっている大聖堂にギオの音が融け渡った。
「おはよう、マイハニー」
ギオのMIDから光が漏れでて大聖堂を光で飽和させた。
その光が薄れていくのと同時にそれが現れた。
純白の鱗と足だけで人を超える巨躯を器用に曲げて、その巨躯を覆い隠せる程の翼を持った四足の生物。実在はせず伝説でしか語られない最強の生物、竜がそこにいた。ルビーのような紅い眼が新入生達を見据えている。
それだけなのに新入生達は息を呑み、まざまざと決定的なまでの力の差を感じさせられた。
「いいか、これがこの学校最強だ。これくらい飛び越えろよ? それくらいの勢いで励め!」
竜は炎を吐き出し自らとギオを包み込んだ。
炎が消えるころには壇上には誰もおらず、大聖堂は再び静寂に包まれてしまった。
それからはアナウンスが淡々と流れていき、最終プログラム、MIDの配布が行われ入学式は終わりを告げ、新入生の物語は始まるのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
入学式が終わると歓迎セレモニーが行われている。大聖堂から校門までの一キロはあろう大通りには在校生が自慢のMIDを使って屋台をだしている。空には竜や鳥、果ては単身で飛んでいる強者までいる始末で、もちろんその中には白い竜に跨ったギオの姿もある。
新入生達は雰囲気に流されるままに歓迎セレモニーを楽しみながら、学園の立地を把握していく。
大聖堂から校門を向いて左手にある建物は大聖堂に近い方からパーツショップ、文房具屋、雑貨屋、食料品店で、右手にある建物は本校舎で全学年をまるまる収めても余裕がある作りになっている。
また、大聖堂と大樹をおいて反対側には巨大なグラウンドが用意されており、どんなに巨大な魔法を使ったとしても大丈夫な作りになっている。ちなみに今はグラウンドでは作り出した仮想生物を戦わせたりしている。
校舎の裏、大通りとは逆には寮が備え付けられており、寮には食堂までついていて、ここで食事をとる生徒も多い。今は祭りということもあり、バイキング形式になっているが、普段は注文形式だ。
パーツショップなどが並ぶ裏には巨大なアミューズメントパークがあり、デートなどにはお手頃コースになっている。
そして学園一押しのスポットは、樹齢数千年の大樹の脇に付けられたエレベーターより大樹を昇り、幹の半分くらいの場所に備え付けられている展望台だ。そこからは学園が一望でき、また上級生が作ったであろう竜や鳥をすぐ近くで見ることができるのだ。
セレモニーの目的はそれだけではない。新入生が各々気が合う友達を見つける場としての役割もあり、最初に出来た友達は生涯の友と言っても過言ではない。
とある新入生もまた友達を作ろうとしているところだった。どんな友達ができるかは、まだ誰も知ることはない。
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