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学園ユートピア  作者: リヴァイアサン
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第一五話 すれ違いと動き出す白

えーと、雨音ヨル逝きます!←え

「最近さぁ、シュバルトが何か隠してるみたいなんだよなー」

 学園の食堂で、目の前に置かれたジュースを飲みながらフリードはぼやいた。

 ときは放課後。しかも、授業が終わってそれなりの時間が経っているためか、自由解放されている広い食堂には、フリードとリヒャルトの姿と点々とごく数人の姿が見えるだけだ。そして、そのほとんどが上級生。フリードとリヒャルトは意味深な視線を浴びながらも堂々と席に座っている。

 それぞれが今日の出来事だの愚痴だのホットなニュースだので騒いでいる。少ない人数なのに、食堂はそれなりに賑やかだった。

「そうなんですか? 僕にはよくわかりませんでしたが……」

「いーや。あれは絶対何か隠してる! あいつ、表情や普段の行動にはあまり変わりないけど、ふとしたことがおかしかったりするんだ。昨日も遅くに帰ってきたみたいでさ」

 膨れっ面のまま、くわえたストローに向かって息を吹き、ジュースの表面が弾ける様子を見つめる。

 行儀が悪いと、それを制してからリヒャルトは質問をぶつけた。

「それをフリードさんが知っているという自覚は?」

「ない……と思う。あいつ、昔っから鈍いからな。色々なものに」

 ストローに息を吹き込むのをやめ、こんどはテーブルの真ん中に置かれたポテトを頬張りながら、フリードは話を続ける。

「なんかさ、最近生傷増えてるし、理由聞こうとしたら転んだとか言うし、明らかにおかしいのに、隠せてるって思ってるし。一体何年一緒にいたって思ってるんだよ、たくっ」

 ブツブツと独り言のように呟くフリードを見ながら、リヒャルトは思わず吹き出した。いきなり吹き出す友人を見て、フリードは頬を赤くしながら怒鳴った。

「な、なんだよ! 何かおかしいか!?」

 口の周りにポテトの塩を残したまま、勢いよく立ち上がるフリード。

 リヒャルトはそれでも笑うのを止めなかった。

 ようやく少し落ち着いてから、リヒャルトはフリードの顔を見上げる。

「いえ。本当に仲がいいんだな、と思いまして」

 その言葉にさらに顔を赤面させ、フリードは力無く席に着いた。

「うるせーよ」

 ぼそりと呟き、フリードは今だくすくす笑いが止まらないリヒャルトを見て、微笑んだ。

「さて、僕も落ち着いたところですし、本題に入りましょうか」

 急に笑いを止め、真剣な眼差しでリヒャルトはそこにいた。

 今までの笑いが何事もなかったかのような真剣さに、フリードは逆に震え上がってしまう。

「そんな自慢話をするために、僕を呼んだわけではないんでしょう?」

 にこり、といつもの笑顔を浮かべるが、その声には先程までとは違う、何かが込められていた。

 唾を飲み、フリードは目の前に対峙するいつもと雰囲気が違う友人を睨んだ。怯むことのない相手を確認してから、一口だけ水分を補給し、塩辛い口の中を清掃する。

「なんだ、わかってるんじゃないかよ」

 先程よりもさらに人数が減った食堂に、負けじとフリードの力のこもった声が響く。

 リヒャルトは空になった自分の紙コップを地面に落とし、フリードに分からないよう、にやりと微笑んだ。

「リヒャルト」

 視線を落としたままのリヒャルトはいつもの笑顔で自分の名を呼んだ彼を見つめる。

「お前に、俺達の友人であるお前に、一つ頼み事をしてもいいか?」

 静寂が支配する食堂。

 そこには、紙コップが一つだけ落ちているだけだ。




 深夜。

 寮内は静寂に包まれ、一つ物音でもしようものなら、すぐにわかるほどの静けさの中、こつこつと床を叩く音が響き渡る。

 時折、何かの電子音が交ざり、それがMIDのものだとわかった。

 未だ鞄が代理として寝かされている隣のベッドを見つめながら、フリードはそれがこの鞄の持ち主だと確信するには時間が掛からなかった。

 やや控えめにドアが開き、ほんのりとオレンジ色の光りの筋が部屋を照らす。その光りを逆光に浴びながら入ってくるのは、見覚えのあるルームメイト。

 どこかが痛いらしい彼は、苦痛に顔を歪めながらも、なんとか全身を部屋におさめ、入ってくる時同様、ゆっくりとドアを閉めた。

 起きていることを悟られないように、寝ているフリをしながら薄目を開き、シュバルトの行動を確認する。

 脱ぎ捨てられた制服には、闇に紛れ黒く染み付いているおそらく血だと思われるものが見てとれた。着替えようとしているシュバルト自身の身体には綺麗に包帯が巻かれている。まさかフリードが起きているとは思っていない本人は、隠すこともせずに何食わぬ顔で着替えを済ます。

 痛々しいその姿を見ながら、何も相談してくれない幼なじみに、フリードは自己嫌悪を覚えた。長年一緒にいながらも、親友の痛みを共有してあげれない。そんな自分が嫌で嫌で、今にも泣き出しそうになってしまった。その衝動を必死に抑え、ようやくシュバルトがベッドに身を預けた。

「おやすみ」

 シュバルトは寝ているはずの自分に声を掛け、よっぽど疲れていたのだろう。静かに寝息をたて始めた。

「おやすみ」

 その言葉に静かに答え、フリードも眠りに落ちた。

 そんな二人を見張る、窓からの視線。それはどこかで見たことのある、視線だった。

「二人とも眠ったようですね」

 不敵に吊り上がる口元。

 その人物は、MIDを片手に誰かと喋っているようだった。そして、そのMIDを弄ぶ手には、学園でとあるものを象徴する、白い手袋。

「ま、ここまでは俺の予想通りだろ?」

 もう一人、その部屋にいた人物は、チェスをしながら返答する。白の騎士(ナイト)を摘むと、黒の魔法使い(ビショップ)に突撃させ、倒してしまう。そして、そのビショップがあった場所に自分のナイトを設置した。

「さ、次はどんな手でくるかな?」

 その人物は、さっきの人物と同様、白い手袋をはめた手で、傍らにいる白竜を撫でながら、楽しそうに呟いた。

次は虹鮫連牙さん…ですよ、ね?

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