第十一話 一夜が終わり
Mathematicsです。
遅れてしまい申し訳ありません。
では、第十一話、どうぞ。
シュバルトは、男子寮への道をゆっくりと歩いていっていた。
先ほどまでとはうって変わって、辺りは静寂に包まれている。
MIDを用いない魔法?真実の魔法?にロマンを感じていたシュバルトであったが、今はどちらかといえば畏怖の念を覚えていた。
「力…か。」
真実の魔法は、彼にとっては「力」が全てのように感じられた。
この学園内で最強だろうと彼が思っていたキラとアヤナはイティアによって簡単に倒され、彼女もジンによって2、3撃で倒された。彼女の攻撃をもろともせずに。
彼らには「忘れろ」と言われているシュバルトであったが、気になって仕方がない。
彼が思ってきたことがこんなにも近くにあるのだから。
キラにさえ実力が及ばないシュバルトにとっては、消そうと思われれば造作もなくやられてしまうことは分かっている。
それでも、彼は知りたい、と思っていた。無論、他人には言えないであろうから、自分で調べていかなくてはならないことは流石に分かっていたようだが。
しかし、その頃の彼がこの事を後になって後悔しなければならないということを、彼は微塵も思っていなかった。
彼が男子寮の自分の部屋に戻って来たとき、フリードは相変わらずいびきをかいて眠っていた。
それを見ていると、シュバルトにはフリードが少し滑稽に思えた。
「知らぬが仏……か。」
本当の事を知らないというのは、残念な事なのであろうが、それが幸せなのかもしれない、とシュバルトは思っていた。
部屋の時計を見てみると、時計の針はもう2時をまわっていた。
彼はもう寝ようとベッドに横になる。横になる前は意識が覚醒していたので、すぐには眠れないと思っていたが、いざ横になってみるとすぐに意識が混濁してきたので、彼はそのまま意識を手放した。
シュバルトが起きた時は、もう6時10分だった。
普段彼は目覚まし時計無しでも6時に普段は起きているシュバルトは、今日、彼自身が普段通り起きることが出来なかったことに少し毒づく。
「今日は6時10分か…。」
しかし、それは他の日であれば彼がもう少しの間気にもしていたのだろうが、今日は昨日のことの衝撃が大きかった為にすぐに忘れられる。
「昨日の…本当の事なんだよな?」
機転がよくきくシュバルトであっても、昨日の出来事は信じられない、と思う部分があったのだろうが、流石はシュバルトだった。とりあえずはまず一つの結論に達する。
「新聞になら書かれている筈…あんなに大きなことだったのだから…」
そういって彼は動き始める。
勿論この学生寮にはこの国内の新聞が全て入ってきている。地方に実家がある生徒が、地元の情報を知りたいと思うことがあるのは当然であるからだ。
しかし、全国紙はおろか、この地区の地方紙にさえ、昨晩の事件について触れられていた新聞は一紙もなかった。
「それもそのはずか…。あの時間だと朝刊になんか載るはずないよな。」
きっと夕刊では載るはずだ…とシュバルトは思っていた。しかし、それは現実逃避でもある事は彼自身も分かっていた。
その後、フリードを起こしに一旦自分の部屋に戻った。
まだフリードは眠っている。一体起こさなければ何時まで寝ているのだとシュバルトは思っているのだが、それはまた今度の機会にしよう、ということにした。
「おい、フリード、起きろよ。遅刻するぞ口。」
寝ている人を起こす常套句にさえなってしまっているのだが、まぁ致し方ない。「ン……。あと30分」
「そんなことしてたら絶対遅れるぞ。」
「わ…分かったよ。」
そういうことを言いながらフリードがゆっくり起き上がってきた。
それから暫くしてから、2人は学生寮を出て学園へむかっていた。
2人が出て暫くすると、前の方にリヒャルトが見えた。
その後は3人で学園へ登校した。
教室へ到着すると、既に3分の1程の生徒は登校していた。まだ入学してから日は浅いものの、幾つかのグループは出来ていて、楽しげに話している。
「あれ、イティアがまだ来てないなぁ。今まで早く来ていたよな?」
「ああ、もう化けの皮が剥がれてしまったのかもしれないな。」
シュバルトは冷静に受け答えしたつもりだったが、内心はかなり動揺していた。
やはり昨晩の事は現実だ、という事を改めて認識しなければならなかったからだ。
その後も、やはりイティアは来なかった。
その日の授業は主に座学で、実技は無かった。MIDの基礎工学の授業では、興味があるからかフリードもしっかりと起きていたのだが、歴史の時間になると、半分以上寝ていた。シュバルトとリヒャルトは、そのフリードの様子を見て、
「…これは後々大変になりそうだな」
「そうですね…」
と言いながらフリードを起こすのだった。
取り敢えず授業も終わり、放課後。3人は、図書室へ初めて足を運んだ。
図書室の前の扉は、見た目は強度が相当高いらしく、校長クラスでも多少はかかってしまう程らしい。
そこは、セキュリティーの為か、入学前に登録された静脈によって扉を開けなければならない。
そして3人は入学してから初めて図書室の中に入った。
「…凄いな」
図書室の中には、相当数の本があった。
入口の近くには検索機が十数台置かれていて、それも半分程度は使われている。
3人は一旦別れて、シュバルトは真実の魔法についての本を、リヒャルトとフリードはMIDの基礎が書かれた本を探しに行った。
シュバルトは真実の魔法について書かれた本がある本棚に到着して、読んでみたのだが、元々本が少ないのと、まだ分かっていない事というのもあり、まだ彼には理解が難しいようだった。
取り敢えず今回はまだ理解が難しい事が分かっただけ良しとするか、と思い、そこを後にしようとすると、
「シュバルト、そんな所にいたのか」
キラがいた。傷の方はもう治っているようで、少なくとも見た目には分からなくなっていた。
「またそんな所で調べていたのか、そんな本読んでいても意味ないぞ。」
「余計なお世話だよ、キラ。君こそここにどうしたんだい?」
「…話がある。今日の午後9時に…分かりやすいように学校の裏に来い。来るかどうかはお前の自由だが、話はそれからだ。」
それだけ言ってキラは去っていった。
次は社 九生先生です。よろしくお願いします。