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果てしない旅   作者: San


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果てしない旅 2

海は、私を拒まなかった。


沈みもせず、完全に浮きもしない。

身体はゆっくりと波に持ち上げられ、また落とされる。その繰り返しの中で、私は長い時間、仰向けに空を見ていた。


青い。


やはり青い。


この色を、私は知っている気がする。

けれど、思い出そうとすると、指の隙間から砂がこぼれるように消えていく。


昼が過ぎ、夜が来る。


星が見えた。


宇宙から何度も見てきた星々を、今度は下から見上げている。

それだけのことなのに、奇妙な違和感があった。


私はどちら側の存在なのだろう。


上から見る者か。

下から見る者か。


波が身体を揺らす。

塩が唇に触れる。

遠くで、何かの鳴き声がする。生物だ。


この星には、音がある。


風の音。

水の音。

小さな命の動く音。


私は長いあいだ、音のない宇宙を漂ってきた。

星が砕ける瞬間でさえ、真空の中では静寂だった。


ここは、うるさい。


それが、心地よかった。


やがて、潮の流れが変わった。


私の身体は、ゆっくりと岸へ押しやられていく。

波が背を持ち上げ、砂の感触が足先に触れた。


陸だ。


何度も降り立ってきたはずの「地面」というものが、妙に重く感じられる。

私は腹ばいのまま、しばらく動かなかった。波が引き、また寄せる。そのたびに身体が少しずつ砂へ埋まっていく。


やがて潮が遠のき、完全に取り残された。


風が吹く。


乾いた匂い。

塩と、草と、土の混ざった匂い。


私はゆっくりと起き上がった。



最初に見たのは、足跡だった。


砂浜に並ぶ、規則的な凹み。


二足歩行。


だが、人間とは少し違う。

踵の跡の後ろに、細く長い線が続いている。


尻尾。


私はその線を目で追った。足跡は草地へ続いている。


丘を越えると、集落が見えた。


石と木で組まれた簡素な住居。

煙がゆるやかに立ち上り、畑のような場所で何かを育てている姿がある。


彼らは――


人に似ている。


直立し、二本の腕を持ち、顔は前を向いている。

だが、腰の後ろから長い尻尾が伸び、頭部には小さな角が二本、静かに生えている。


角は鋭くはない。丸みを帯び、装飾のようにも見える。


肌の色はさまざまだが、どれもこの星の光をやわらかく反射している。

目は大きく、瞳孔はわずかに縦に伸びている。


彼らは私に気づいた。


数人が立ち止まり、じっと見る。

驚きはある。だが、恐怖は薄い。


一人が近づいてきた。

背は私より少し低い。角は短く、尻尾がゆっくり左右に揺れている。


その揺れは、敵意ではなさそうだった。


言葉を発する。


音は柔らかく、波のように上下する。


意味は分からない。

だが、声色は穏やかだ。


私は何も答えられない。

長い時間、他者と会話をしていない。


それでも、視線を逸らさず、立っている。


しばらくして、彼らは道を空けた。


受け入れるでもなく、拒むでもなく。


ただ、「ここにいてもいい」と示すように。



私は集落の端に身を置いた。


簡素な小屋を与えられた。

木と泥でできた、風を防ぐだけの場所。


彼らは多くを求めない。


朝になれば畑へ向かい、昼は水辺で網を使い、夜は火を囲む。

火の周りでは、低い声で歌う。


争う姿を、私は見なかった。


食料は分け合われ、道具は使い回され、角や尻尾を誇示する者もいない。


文明は発展していない。

空を飛ぶ装置も、巨大な塔も、観測装置もない。


だが、焦りもない。


私は彼らと共に畑へ出た。

土を掘り、種を埋める。


手の中の土は温かい。

湿り気を帯び、命の匂いがする。


成長には時間がかかる。

芽が出るまで、何日も待つ。


私は待つことに慣れているはずなのに、この「数日」という単位が妙に新鮮だった。


星が滅びるまでの時間ではない。

文明が崩壊するまでの時間でもない。


ただ、芽が出るまでの時間。


それは短く、しかし確かだった。



私はときどき、集落を離れた。


丘を越え、森を抜け、川沿いを歩く。


この星の空は、時間によって色を変える。

朝は薄い銀色、昼は深い青、夕方は紫に近い橙。


夜には星が瞬く。


私はその星々を見上げる。


かつて通り過ぎた星々。

砕け、燃え、消えた星々。


その光が、今も届いている。


ここも、いずれ終わる。


この穏やかな集落も、角を持つ彼らも、土の匂いも。


すべて、時間の中で失われる。


私はそれを知っている。


だが、不思議と胸は静かだった。


なぜだろう。


彼らは私に、過去を問わない。

どこから来たのかも、なぜ死なないのかも。


私が老いないことに、薄々気づいているはずだ。


それでも、何も言わない。


ただ、今日の作業を共にする。



ある夕暮れ。


子どもが、私の尻尾のない背を不思議そうに見ていた。


小さな角がまだ短い個体だ。

尻尾が落ち着きなく揺れている。


私は自分の背に手をやる。


何もない。


角も、尻尾も。


私は、彼らとは違う。


人間とも違う。


では、何だ。


答えはない。


だが、その子どもは笑った。


私が何者であろうと、関係ないというように。


その笑顔を見たとき、胸の奥で、かすかな痛みが走った。


懐かしさ。


青い星を探していた理由に、少しだけ近づいた気がした。


それが地球かどうかは、もう重要ではないのかもしれない。


私は今、この星で歩いている。


土を踏み、風を感じ、穏やかな存在たちと火を囲む。

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