表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てしない旅   作者: San


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

果てしない旅 15 完結 

卒業して数年が過ぎた。


 学校を出て、都市の雑踏に溶け込んだ。


 ぼくは就職した。


 毎日の通勤、事務作業、昼休みの軽い雑談。


 時計の針は、以前の教室の時間のように淡々と進む。


 あの先生のことを思い出すのは、時折、授業中の静かな瞬間だけだった。



 4、5年が過ぎたある日。


 ふと、同僚から聞いた。


「先生、もうこの学校辞めたんだって」


 都市伝説のような存在が、現実からまた一歩遠ざかるようで、心が少し空いた。


 先生は変わらずそこに立っていると思っていたのに。


 人は去り、街は動き続ける。


 風景も、人の流れも、何も止まらない。



 それからさらに年月が過ぎ、ぼくは恋をし、結婚し、子どももできた。


 家族と過ごす時間は、穏やかで、忙しく、淡々としている。


 休日には街へ出かけ、子どもたちの手を引いて買い物をする。


 色とりどりの看板。

 雑踏の声。

 冷たいアイスの香り。

 通りを揺れる広告の旗。


 そんな中で、ふと、目が止まった。



 人混みの間をすり抜けるように、あの人が歩いていた。


 変わらない姿。


 耳も角もなく、背筋は真っ直ぐで、年齢も、季節も何も変わらない。


 目線が、どこか遠くを見ているのも同じ。


 記憶の中の先生と、完全に重なる。


 心臓が少し跳ねる。


 声をかけよう。


 名前を呼ぼう。


 でも、子どもたちの手を握っている。


 かばんが重く、肩も少し痛い。


 迷いが生まれる。


 どのタイミングで呼ぶか。


 ほんのわずか、ほんの一瞬、ためらう。



 その間に、人波が押し寄せた。


 手を引かれ、視線が逸れ、声を出す前に、先生は通り過ぎていった。


 振り返ることもなく。


 人混みの影に吸い込まれるように。


 ぼくは立ち止まり、子どもたちを見下ろす。


 小さな手。


 まだ歩き続ける道。


 視界の端に、わずかに残る背中。


 確かに、そこにいた。


 でも、声は届かず、目も合わなかった。



 街は淡々と動き続ける。


 人々は買い物をし、笑い、スマートデバイスを覗く。


 帰り道、子どもたちの声を聞きながら、ぼくは何度も振り返った。


 でも、もう、そこにはいなかった。


 都市の雑踏に消え、光の向こうへ溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ