果てしない旅 14
日々は繰り返される。
朝のチャイム。
教室に差し込む光。
先生はいつも同じ姿で立っている。
授業中、チョークを持つ手の角度。
文字を書くときの呼吸。
黒板から一歩後ろに下がるときの背筋の伸び。
ぼくはそれを見続けた。
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昼休み。
教室の窓際に座っていた先生は、外の樹を眺めている。
時折、手を頬に当て、指を組む。
声は柔らかく、遠くの子どもたちの話し声を拾うように耳を傾ける。
でも、笑うことはほとんどない。
それが自然で、違和感はない。
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放課後。
廊下を歩くと、先生の足音が後ろから聞こえる。
ゆっくり。
重くもなく、軽くもない。
誰も見ていないのに、存在だけが確かにある。
ぼくは、廊下の角を曲がるとき、少し立ち止まって呼吸を整えた。
先生が気づくわけではない。
ただ、見える。
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授業中、質問するときもあった。
手を挙げる。
先生は目を上げて、ゆっくりと視線をぼくに向ける。
名前を呼ぶ。
答える。
時折、少し考え込む。
考える時間は、他の先生より長く感じる。
でも、焦らない。
焦る必要がないからだろう。
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季節は変わった。
窓の外の葉は緑から黄へ、そして落ちていく。
雪が降る日もあった。
教室の暖房に手をかざす仕草。
ノートを閉じるときの指の動き。
いつも同じ。
動きに慌ただしさはなく、時間は淡々と流れている。
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運動会、文化祭、遠足。
先生はあまり表立って動かない。
でも、目はよく見ている。
誰が転んだか。
誰が迷子になったか。
誰が楽しんでいるか。
ぼくには、すべてが見えているように感じる。
他の子は気づかない。
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休み時間に廊下で立ち話をすることもある。
先生の手は、胸の前で軽く組まれる。
視線は遠く。
でも、ぼくだけには、少しだけ笑ったように見える瞬間があった。
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月日は積み重なった。
提出物。
テスト。
遠足の記録。
先生の服装はほとんど変わらない。
髪型も、立ち姿も、何もかも変わらない。
でも、古さは感じない。
ただ、長くここにいる。
そのことだけが、ぼくの胸に静かに刻まれていく。
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卒業の数週間前。
教室は少し慌ただしい。
プリント、書類、荷物。
先生はいつも通り立っている。
机の間を歩くとき、肩にかかる光の加減。
ぼくは覚えている。
何百回、いや千回以上、同じ姿を見てきたのに、新しい角度から光を浴びると少し違って見える。
それでも、先生は変わらない。
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卒業式当日。
教室は静か。
机に置かれたランドセル。
手紙。
写真。
先生は立ったまま、全員を見ている。
名前を呼ぶわけでも、拍手を促すわけでもない。
ただ、目を合わせる。
ぼくの番になったとき、少しだけ、微かに笑った。
その瞬間、胸に何かが落ちた。
言葉はない。
だが、心に残る。
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式が終わり、校庭に出る。
みんなが先生に手を振る。
先生は手を上げるだけ。
動きは淡々としている。
誰も追いかけない。
でも、ぼくは知っている。
あの人は、ずっと変わらない。
変わらぬ者。
都市伝説ではない。
教室の中で、廊下で、窓の外で。
ぼくはそっと振り返る。
先生の姿は、もう少し遠くの木の影に溶けているようにも見えた。
でも、確かにいた。
立ったまま。
何も言わず。
ただ、そこにいた。




