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果てしない旅   作者: San


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12/15

果てしない旅 12

石に刻まれた線は、もうほとんど読めない。


 それでも学校では、毎年その石板の写しが配られる。


 課題だからだ。


 ぼくはそれを机の上に広げて、耳をかいた。


 古い記号。

 今の文字とは少し違う。

 先生は言った。


「これは最古期の記録の一つ。“変わらぬ者”について書かれている」


 教室がざわつく。


 都市伝説だ、と誰かが笑う。



 “変わらぬ者”。


 昔から伝わる話。


 何世代も前から森に立ち、

 老いず、

 死なず、

 ただ見ている存在。


 祖母は信じている。

 父は笑う。

 母は話題にしない。


 ぼくは、分からない。



 石板の内容は断片的だ。


 ——姿は変わらず

 ——時を越えて立つ

 ——火を教えた

 ——星の名を知る


 本当に同じ存在なのか。

 複数の人物が混ざっているのではないか。


 それを考察して提出する。


 それが宿題。



 今の都市では、森は遠い。


 石造りの建物。

 整えられた道。

 高い塔。

 耳の形も昔より小さくなり、角度も違う。


 文明は進んだ。


 “変わらぬ者”は、ここ何百年も姿を見せていない。


 だから都市伝説だ。


「いたら面白いよな」

「写真とか残ってないの?」

「そんな便利な存在いたら戦争なくならない?」


 みんな好き勝手に言う。


 戦争は、もうある。


 小規模だが、外縁部では衝突が続いている。


 歴史は穏やかなだけではなかった。



 放課後、ぼくは石板の写しを持って外へ出た。


 街の外れ。

 古い森の残る場所。


 課題には“現地観察も可”とある。


 誰も本気で行かない。


 だが、ぼくは少し気になっていた。



 森は静かだった。


 風が葉を揺らし、

 遠くで水が流れる。


 石板の最後の行を思い出す。


 ——森の縁に立つ


 ぼくは立ち止まる。


 そこには、誰もいない。


 当たり前だ。


 都市伝説なのだから。



 だが、視線を感じた。


 振り返る。


 木々の奥。


 影。


 人影に似ている。


 耳は見えない。

 角もない。


 背は高く、

 ただ、立っている。


 ぼくと同じように。


 動かない。


 目が合った気がした。



 怖くはなかった。


 不思議と。


 その存在は、こちらへ来ない。


 ただ、そこにいる。


 ぼくは一歩近づく。


 影は、ゆっくりと木の奥へ下がる。


 消える。


 追えば追えたかもしれない。


 だが、足は止まった。



 家に戻り、課題を書く。


 ぼくはこう書いた。


 “変わらぬ者は神話ではなく、象徴だ。

 世代を超えて見守る存在を、私たちは必要とした。

 だから記録に残したのだ。”


 本当のことは、書かなかった。


 森で見た影のことは。



 数日後、先生は言う。


「この記録は、毎年消えずに残される。

 なぜなら、忘れたくないからだ」


 ぼくは窓の外を見る。


 森の方向。


 都市伝説。


 けれど、もし本当にいるのなら。


 なぜ、姿を見せないのだろう。


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