果てしない旅 11
さらに長い時間が過ぎた。
森は密度を増し、かつて湿地だった場所には高木が根を張り、海岸線はゆっくりと形を変えていく。
この星は、急がない。
だが確実に進む。
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最初にそれを見たのは、川辺だった。
水を飲みに来た、小さな影。
二足で立つが、まだ背は低い。
身体は細く、皮膚は薄い毛で覆われている。
そして、頭の両側に長い耳。
獣のようでもあり、そうでもない。
彼らは私を見ると、すぐに逃げた。
足は速く、森の奥へ消える。
私は追わない。
ただ、見送る。
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何十年。
その姿を、何度も遠くで見かける。
群れで行動し、木の実を集め、簡単な石を使うようになる。
耳はよく動き、わずかな音にも反応する。
彼らは穏やかだ。
争いはある。
だが短く、深追いしない。
怪我をした仲間を囲み、長く寄り添う姿を見る。
寿命は、この星の他の生き物より長い。
老いた個体が、若い者に囲まれて座っている。
言葉のような音がある。
繰り返し、抑揚があり、意味を持ちはじめている。
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ある日、私はあえて姿を見せた。
川のそばに立つ。
群れが気づく。
逃げない。
距離を保ったまま、耳を揺らし、こちらを見る。
私は何もしない。
武器も持たず、ただ立つ。
やがて、一体が前に出る。
まだ若い。
耳の先が少し欠けている。
彼は短い音を発する。
問いかけのようでもあり、警告のようでもある。
私は同じ音を返す。
完全ではない。
だが、似せる。
群れがざわめく。
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それが最初の接触だった。
私は彼らの中に入らない。
森の縁に座る。
彼らは近づき、また離れる。
私の身体が老いないことに、やがて気づく。
耳の欠けた若者が、やがて壮年になり、さらに老いる。
私は変わらない。
彼は私を見て、低く笑うような音を出す。
恐れではない。
理解でもない。
ただ、受け入れている。
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世代が変わる。
耳は少し短くなり、代わりに指が器用になる。
石器は形を整えられ、火を扱う。
夜、焚き火を囲む姿を遠くから見る。
歌がある。
単調だが、繰り返しが美しい。
私は時折、言葉を交わす。
彼らの語彙は増え、抽象が生まれる。
空。
水。
死。
生。
そして、私を指す言葉もできる。
それは名前ではなく、「変わらぬ者」に近い意味を持つ音だった。
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私は距離を保つ。
深く関わらない。
だが完全に離れもしない。
子どもが好奇心で近づけば、石を削る方法を見せることもある。
老いた者が星を指差せば、星座の位置を教えることもある。
それ以上はしない。
導かない。
支配しない。
ただ、隣にいる。
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さらに長い年月。
集落ができる。
木を組み、皮を張り、形ある住処が生まれる。
耳はやや小さくなり、顔つきは穏やかさを残しながらも理知的になる。
争いはまだ少ない。
狩りも、分け合う。
死は静かに迎えられる。
彼らは長く生きる。
一世代が、他の種の何世代分にも相当する。
だから変化はゆっくりだ。
だが確実だ。
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ある夜、焚き火のそばで、ひとりの老女が私に問う。
「あなたは、いつからいるのか」
私は少し考える。
答えは持っていない。
「覚えていない」
そう言うと、老女は耳を揺らし、微笑む。
「それなら、これからもいるのだろう」
私は肯定も否定もしない。
火の音が、間を埋めていた




