果てしない旅 10
海から離れ、内陸へ向かって歩き続けた。
森は深くなり、やがて岩山が現れる。
その山肌に、裂け目のような影があった。
洞窟。
口を開けたまま、何も語らない黒。
私は立ち止まる。
この星の内部を、まだほとんど知らない。
ただ、それだけの理由で中へ入った。
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最初は、光が背中にあった。
足元は湿っている。
水が滴り、一定の間隔で音を刻む。
奥へ進むほど、外の音は消える。
風も、葉の擦れる音もない。
あるのは、自分の足音だけ。
やがて分岐が現れる。
右。
左。
下へ続く傾斜。
私は迷わず左へ進む。
理由はない。
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どれほど歩いただろう。
時間は測れない。
洞窟は広がり、天井は高くなり、巨大な空間へと変わる。
地面には白い石柱が林立し、天井からは無数の鍾乳石が垂れている。
地下の大聖堂のようだ。
私は中央まで歩く。
音が反響する。
わずかな動きが、何倍にもなって返る。
孤独が、増幅される。
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戻ろうと振り返る。
来た道が、分からない。
同じような岩壁。
同じような影。
同じ湿り気。
目印はない。
私は別の通路へ進む。
また分岐。
また広間。
似たような景色が続く。
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やがて、完全な闇に包まれる。
外の光は届かない。
私は立ち止まる。
暗闇は、宇宙とは違う。
宇宙は広い。
だがここは、狭い。
圧迫する闇。
空気はある。
重力もある。
だが出口がない。
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私は歩き続ける。
疲れは意味を持たない。
飢えも、渇きも、時間と共に再生する。
だが、方向感覚は再生しない。
同じ場所を回っている気がする。
足元に、自分の足跡を見つける。
乾いた泥に刻まれた、同じ形。
私は円を描いていた。
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座る。
闇の中で。
目を閉じても、開けても同じだ。
音だけがある。
滴る水。
遠くで崩れる石。
この星の内部は、静かに動いている。
私は動かない。
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どれほどの時間が過ぎたか分からない。
洞窟の中で、季節は感じられない。
外の進化も、海の変化も、ここからは見えない。
私は、初めて「見守れない」場所にいる。
それが、奇妙だった。
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あるとき、足元に微かな光を見つける。
苔のようなものが、淡く発光している。
私はその光を辿る。
壁にも、天井にも、点々と灯りがある。
地下の星空。
それを目印に、進む。
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通路は狭くなり、やがて水の流れる音が強くなる。
地下河川。
黒い水が、一定の方向へ流れている。
私は流れに沿って歩く。
水は外へ向かうはずだ。
そうであってほしい、というだけだ。
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何度も転び、
何度も壁にぶつかり、
それでも歩く。
やがて、空気が変わる。
わずかに、風。
冷たい外気。
前方に、薄い灰色。
光。
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洞窟を抜けたとき、私は眩しさに目を細める。
空がある。
雲が流れている。
風が、頬を撫でる。
私は振り返る。
山は何も語らない。
中で迷っていた時間が、どれほどだったのか分からない。
だが森は少し変わっている。
木々は高くなり、見慣れない植物が増えている。
星は、私がいないあいだも進んでいた。
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閉じ込められても、終わらない。
出られなくても、時間は止まらない。
私はまた歩く。
この星の内部も、外部も、すべてが通過点だ。
迷うことも、この長い旅の一部に過ぎない。




