果てしない旅 1
宇宙には、風がない。
それでも、流されている感覚はある。
私は今、星と星のあいだを漂っている。
身体は凍りついているはずなのに、意識だけが沈まない。凍結した皮膚の下で、時間だけがゆっくりと進んでいる。
どれくらい経ったのかは分からない。
千年か、百万年か。あるいは、その何倍か。
私は死なない。
それだけは知っている。
どうして死なないのかは知らない。
なぜ宇宙にいるのかも知らない。
ただ――地球を探している。
なぜ探しているのかは、思い出せない。
◇
最初に辿り着いた惑星は、青くなかった。
灰色の雲に覆われた、分厚い大気の星だった。
私は重力に引かれ、長い漂流の末にその星へ落ちた。
衝突の瞬間、身体は砕け散った。骨も、臓器も、意味をなさないほどに。
けれど、私は目を開けた。
地面は柔らかい泥のような物質で、足を沈めると、ゆっくりと戻ってくる。空は低く、雲は絶えず流れ、雷が静かに光る。音はくぐもり、世界は常に湿っていた。
生物はいた。
透明な膜のようなものが地面を滑り、互いに触れ合い、光を発していた。争いはなく、捕食もない。ただ、増え、重なり、溶け合い、分かれる。
私はその中を歩いた。
彼らは私を避けもしなければ、迎えもしない。ただ存在を許した。
長い時間をそこで過ごした。
この星の時間の単位がどれほどかは分からないが、雲の動きが少しずつ遅くなっていくのを感じた。
やがて、空が薄くなった。
大気が宇宙へと逃げていったのだ。
雷は消え、膜の生物たちは乾き、動きを止めた。
私は最後までそこにいた。
ひび割れた大地の上で、空が完全に黒へ変わる瞬間を見た。
星は冷え、静まり、やがて隕石に削られ、砕け、輪になった。
私はその輪の中を、また流されていった。
悲しかった。
なぜかは分からない。
この星は地球ではなかったのに。
◇
次に辿り着いたのは、光の多い星だった。
巨大な恒星の近くを公転するその惑星は、昼が長く、夜が短い。地面は赤く、空は金色に揺らいでいた。
そこには文明があった。
塔のような構造物が並び、空を滑る乗り物が行き交い、意志を持つ存在たちが声を交わしていた。
彼らは二足で立ち、硬い外殻に包まれた身体を持ち、目は三つあった。
私は彼らに見つかった。
彼らは私を研究した。
刃物で切り、火で焼き、深くまで分解した。
私は死ななかった。
彼らは恐れた。
そして崇めた。
私は彼らの神になった。望んでいないのに。
広場に立たされ、問いを投げられた。
「どこから来たのか」
「何のために存在するのか」
私は答えられなかった。
ただ一つ、口にした言葉があった。
「地球を探している」
それが何なのかも分からないのに。
彼らはその言葉を神託として受け取り、空へ向けて巨大な観測装置を作った。
私と共に、地球を探そうとした。
長い時間が流れた。
文明は発展し、やがて分裂した。
私を神とする派と、危険な異物とする派。
争いが始まった。
塔は崩れ、空は煙で覆われ、赤い地面はさらに濃く染まった。
私は戦場の中心で立ち尽くしていた。
何も止められなかった。
やがて恒星が不安定になった。
巨大なフレアが惑星を焼き払った。
都市も、思想も、三つの目も、すべてが蒸発した。
私は焼ける地表に横たわり、星の表面が溶けていくのを見た。
熱が消え、星がただの黒い岩になった後、私はまた宇宙へ放り出された。
私は神ではなかった。
ただ、残された。
◇
何度も、何度も、繰り返した。
氷に覆われた静かな星。
内部が液体金属で満たされた重い星。
常に嵐が吹き荒れるガスの海の星。
植物だけが支配する緑の星。
私はそこに落ち、歩き、見守り、そして見送った。
星は必ず終わる。
衝突で砕けるもの。
恒星に呑まれるもの。
内部から崩壊するもの。
静かに冷えていくもの。
私はすべてを見た。
時間は積み重なり、感情は薄れていった。
悲しみはやがて鈍くなり、驚きは減り、期待は小さくなった。
それでも――
どこかで、青い星を探している。
なぜ青なのかは分からない。
なぜ懐かしいのかも分からない。
ただ、探している。
◇
あるとき、私は恒星の爆発に巻き込まれた。
超新星の光が、宇宙を白く染めた。
衝撃波に弾き飛ばされ、私は氷塊の中に閉じ込められた。
身体は完全に凍結し、意識もほとんど閉ざされた。
それでも、消えなかった。
氷は彗星となり、何億年もかけて銀河を横切った。
そのあいだ、私はほとんど眠っていた。
夢も見ず、ただ、遠くに微かな青を思い浮かべながら。
なぜ青なのだろう。
それは空の色だろうか。
それとも海だろうか。
海。
その言葉が、かすかに胸に残った。
◇
やがて彗星は、ひとつの恒星系に捕らえられた。
私は再び落ちる。
大気圏に突入する熱。
氷が砕け、私は炎の中を通り抜けた。
下には――
青があった。
広大な水。
白い雲。
緑と茶の大地。
鼓動のような何かが、胸の奥で鳴った。
私は海に落ちた。
塩の味。
波の揺れ。
太陽の反射。
涙のような感覚があった。
それが涙なのかどうかも分からない。
ここが地球なのか。
確信はない。
名前を思い出せない。
ただ、懐かしい。




