第七回 初戦にて敵知を試し 魔兵働き砦守ること
望楼の完成から三日後、西の監視塔から狼煙が上がった。
「来たか……!」
俺は急ぎ見張り台へ駆け上がると、リリナとグロズ、そして数名の戦闘部隊が集結していた。
「敵は五名。戦士、僧侶、魔法使い、それに……盗賊風の動きが一人、あともう一人は不明だ」
「典型的な冒険者パーティーってわけか……」
こちらから見れば、たった五人。だが、相手は人間世界から送り込まれた“勇者側”の先遣隊だ。
つまり、少数精鋭。
「塔の上からの射撃班、配置につけ。リリナは前衛で抑えろ。俺は後方から構造物の損壊を監視する」
「俺も出るぜ」とグロズが棍棒を振るって立ち上がる。
敵は地形を読んで慎重に進軍していたが、堀を前に立ち止まった。
「おい、見ろ。水が張られてやがる」
「迂回も難しい……ってか、この土地の地形が昔と違う。地図が使えねえ」
奴らの会話が、塔の上のガーゴイルから報告されてきた。
「やっぱり効いてるな。城の普請は、情報戦でもある」
やがて、魔法使いらしき敵が火球を塔に向かって放った。
「防壁、耐えられるか――」
石が焦げ、塔の一部が崩れかけたが、構造計算どおり、土台は踏ん張った。
「ユースケ、壁が生きてる! 魔法でも抜けねぇぞ!」
「当たり前だ。軽量化と耐衝撃性を両立させた構造だ」
リリナとグロズが前衛を張り、敵の突入を阻む。だが敵も手練れ、盗賊は壁をよじ登ろうとし、僧侶は回復を入れて長期戦の構えを見せる。
「地形戦に持ち込むぞ。堀に誘い込み、桟橋ごと崩せ」
合図とともにバンデンの魔法で桟橋が落ち、敵の足場が崩れる。
「今だ、リリナ!」
一気に押し切ると、敵は退却を選んだ。
「深追いするな!」
俺は叫ぶ。
塔の上から最後まで状況を見ていた俺の目に、敵の魔法使いが一瞬だけこちらを見上げたのが見えた。
「……まさか」
その表情には、どこか懐かしさがあった。だが、思い出そうとする間もなく、彼らは山道の彼方へと姿を消した。
初めての戦い。
だが、この砦は耐えた。
そして、俺たちもまた、“築いたもの”で戦えた。
竜王城の再建は、いま確かに“防衛の力”として形になりつつあるのだった。