第四十六回 崖を穿ちて道を繕い 風穴を通して機を伺うこと
北東の監視塔より報せあり。
「崖下の旧道、先日より岩崩れにて通行困難なまま。敵が偵察を試みた痕跡もあるため、再整備の必要あり」と。
あの崖道は、地形の妙で風の通りが読めず、音も届きにくい。
だからこそ、俺は手を入れるのを後回しにしていたが、ここに来て“放置”が危険と化した。
「崖に張りつくように道を穿つのは、そう簡単ではないが……」
「むしろそれが利点になるやもしれぬ」
グリムリッチが地形図を指でなぞる。
「敵が通るには厳しく、味方が通れば速やか。一方通行の細道こそ、備えとなる」
俺は崖面に沿うかたちで、魔石ブロックを段状に組む「蛇腹道」の構想を立てた。
足場を狭くし、万一の際には橋脚ごと崩せるようにする。
通路の裏には風穴を通し、風の流れで敵の接近を“風音”として察知できるよう仕組んだ。
「風が変われば、敵が近い。それを感じられるよう、通路に“耳”をつけようぜ」
小鬼たちが、通路の途中にくぼみを彫り、“風鳴り窓”と呼ばれる魔道板を設置する。
ここを風が通ると、鳴管が低く唸る仕組みだ。
それは音ではなく“兆し”だった。
「耳で聞くのではなく、肌で読む。魔界の戦術は、五感すべてで成り立つのですな」
グリムリッチが感心して呟く。
崖道の修復には、岩族の魔物たちも協力した。
地脈を読み、落石の危険を避けながら施工は数日で完了。
出来上がった道は、見る者に「ここは通りたくない」と思わせるほどの切り立った構造だった。
だがそれこそが、防衛線の真価だった。
「ここを敵が越えるときは──戦の口火が切られる時だ」
俺は風穴から抜ける冷気を手のひらで感じながら、そう呟いた。
崖は静かだ。
だが、吹き抜ける風の中に、微かな戦の気配が混じりはじめていた。




