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第四十四回 火口を封じて煙を隠し 魔煙を放ちて道を惑わすこと

地下の“響き探り”と“風道”により、敵がどこかで掘削を進めているのは間違いないと判明した。

だが、どのルートを狙っているのか、までは掴めない。


「こちらが道を拓けば、あちらもまた穴を穿つ……建築と謀略の綱引きだな」

グリムリッチが火石の粉を混ぜた羊皮紙を焼きながら呟く。


「先に読まれるとまずい。こっちから“煙幕”張っとこう」


俺は魔煙石と呼ばれる鉱石に注目した。

火にくべると濃い黒煙を生むが、特定の香草と混ぜることで“魔力反応を惑わせる”効果を得られるという。

これを通路の数か所で焚き、敵の索敵魔法を混乱させる狙いだ。


「煙を上げるのに、目立たないようにするのが妙ですな」

「逆だよ。いっそ、わざと目立たせたほうがいい」

俺は笑った。


「煙の出る通路を“囮”にすれば、奴らはそこに誘導される。問題は、その煙が“どこから出てるか”を分からなくすることだ」


それには、火口を地中に封じ、煙だけを小孔から通す構造にした。

魔界の建築資材の中でも熱伝導の低い“黒泥石”を煙道に使い、通気だけを確保。

炎の気配も、熱も、伝わらない。


小鬼たちはこの作業が得意で、複雑な煙道をまるで蟻の巣のように組み上げた。


「敵が煙を嗅ぎ、魔力を探れば……迷う。こっちの目論見どおりに、な」


さらに、ハーピー族には煙の流れを空から観察させ、予測不能な揺らぎを演出した。

あたかも“動いている”かのように見せるため、風魔族の少年に魔風を吹かせるという仕掛けも施した。


「煙は幻を生む。匂いもまた、策のひとつ」

グリムリッチが目を細めた。


火を使わず、音も立てず、ただ煙だけが地中を這う。

それはまるで、魔界そのものの呼吸のようだった。


静かな地の下で、俺たちはもうひとつの戦場を築いていた。

まだ敵は姿を見せていない。だがこの煙が、やがてその足を鈍らせることを、俺たちは確信していた。



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