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第四十二回 伏火を潜ませて道を焼き 陽動に備えて偽路を敷くこと

地下の罠を仕掛けて数日。敵はそれ以上踏み込んでくる様子はなく、代わりに、別の場所で細かな攪乱が続いた。


「西の斜面に足跡があったそうです。大きさからして、人間のものに間違いないと」

そう報告してきたのは、リリナだった。


「東に釘を刺しておいて、西を突く。……分かりやすいが、厄介だな」

俺は地図を広げて、通路網と地形を確認する。

「となると、そろそろ“伏火”の出番か」


俺たちは以前から、攻め込まれたときに備えて、通路の一部に“焼き払い用”の装置を仕込んでいた。

魔界特有の火石と呼ばれる鉱物を砕き、乾いた蔓草と混ぜて道沿いに埋め込んでおく。

敵が踏み込めば、点火によって一帯が焼き払われる。範囲は狭いが、奇襲にはもってこいの仕掛けだった。


「問題は、その位置を悟らせないことだな」

グリムリッチがぼそりと呟いた。


そこで俺は、新たな“偽の通路”を敷くことにした。本命の通路とは別の経路をあえて整備し、敵がそちらへ誘導されるように見せかける。しかも、その道には伏火の起爆装置を隠しておく。


「道をつくって、そこを潰す。地形を使って騙すってのも、築城術のうちだな」


施工には手間がかかった。通れるように見せるには、最低限の舗装が必要だ。

ゴーレムに手伝わせて土を均し、小鬼たちが側溝を仕上げる。

ハーピーたちが上空から「偽路」に目印をつけて飛び、敵を引き寄せるための仕掛けも整える。


「この通路、遠回りに見えて、実際は袋小路です。敵が深入りすればするほど、戻れなくなる構造にしてあります」

グリムリッチが満足げに頷いた。


「陽動を、陽動で受ける。だったら、こっちも仕掛けで応えるまでだ」

俺は工具を置き、完成した偽路を見渡した。遠目には、本物の軍道と見分けがつかない仕上がりになっていた。


戦はまだ始まっていない。だが、静かに、ひとつずつ石が積み上がっていく。


そしてそれは、いずれ剣よりも重く、鋭い力になる。

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