第四十一回 煙霞を裂きて火花散る、龍穴に罠仕掛けること
翌朝、監視塔に詰めていた小鬼たちが騒ぎだした。
「矢が飛んできたぞ! 塔の中腹に突き刺さってます!」
俺とグリムリッチはすぐさま塔へ駆け上がった。
霧の向こうから放たれた一本の矢が、風切り音を残して壁に深々と刺さっている。角度からして、かなり遠くから撃ったようだった。
「警告か、挑発か……」
グリムリッチが眉を寄せた。
「どちらにせよ、向こうはこの位置を把握している。監視塔の機能を確認する試みだろう」
「となると、次は本格的に近づいてくるかもな」
俺は設計図を開き、地下通路の防衛図面を見直した。
先日、崖下の細道に沿うかたちで掘った通路の一角に、落とし穴式の罠を仕掛けたばかりだった。俺たちはそこを「龍穴」と呼んでいた。
「龍穴の仕掛け、ちゃんと起動すりゃいいがな。一応、点検しとくか」
地下へ降り、小鬼の技師たちと一緒に罠の作動確認を行った。魔力板に圧をかければ、床が裂け、下層へと引きずり込む。魔力封じの霧も噴出する仕掛けだ。
「よし、作動確認は済んだ。あとは実地だな……って、試してほしくねえけど」
その日の昼下がり、霧の濃さが一段と増す中で、ハーピーの斥候が戻ってきた。
「一団、姿を見せました。軽装の兵、四名。崖沿いを慎重に移動しています」
「また来やがったか」
俺とグリムリッチは塔の上から様子をうかがった。敵の姿は見えなかったが、気配は確かにそこにあった。
「様子を見に来てるだけじゃねえ。何かを探ってる目つきだったって、斥候が言ってた」
「奴ら、目当ては地下か?」
「逆だろうな。地下を囮にして、別の入り口を突いてくるつもりかもしれん」
だからこそ、俺たちは地下を固める。相手がどう動こうと、まずはこっちの喉元を締められないようにしなくちゃならない。
罠の増設、通路の補強、監視の強化。すべてを同時に進めながら、竜王城は静かに牙を研いでいた。
「戦は、まだ始まってねえ。でも──」
俺は霧の向こうを見つめた。
「風は、確かに動きはじめてる」




