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第四十回 偵察の影行く霧隠れ、地下に龍蛇蠢くこと

監視塔の霧が濃くなりはじめた頃、東の境界付近で不審な動きが続いているとの報せが入った。どうやら、勇者軍の偵察隊がこのあたりまで足を伸ばしてきているらしい。


「そろそろ来るとは思っていたが……」


グリムリッチが塔の上で霧を見やりながら呟いた。


「今のうちに手を打たねば、備えのない地下から侵入されるやもしれません」


「地下の通路、強化しとくか。あそこは入り組んでる分、罠には向いてる」


俺は設計図を取り出し、既存の通路網に新たな防壁と落とし穴を組み込むルートを描き足した。


地上の見張り塔だけでは限界がある。地下にも目と牙を張らねば、この城は守り切れない。


魔物たちは黙々と作業にあたった。狭く湿った通路を掘り直し、崩落を防ぐために支柱を打ち、毒霧の噴出孔や魔力結界の起動板を埋め込む。


「この辺り、魔力の通りが悪い。少し掘り下げてみるか」


俺も手伝いながら指示を飛ばし、地下の防衛網を一つずつ整えていく。


そんな折、ハーピー族の斥候が塔に戻ってきた。


「霧の中に、人影三つ。軽装。槍と短弓。魔力の反応、ごく微弱」


「まぎれもなく、偵察隊だな」

グリムリッチが言った。


「狙いは地下か?」

「いや、地下を探っている気配はない。……だが、まだ油断はできぬ」


俺は改めて、通路の奥に仕掛けた結界の配置を見直した。


「こっちが誘いに乗ると見せて、逆を突いてくるかもしれねえ。まだ罠のかけ方は甘いな。もう一枚、魔封じの札を重ねておこう」


監視塔の灯りがぼんやりと霧を照らしていた。辺りは静かだが、確実に、魔界と人間界の境目が動きはじめている。


「……これが始まりか」

俺は結界の札を貼りながら、小さく息を吐いた。



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