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第三十五回 砂塵に埋もれし井戸の縁 新たな水脈を探り当てしこと

荒地の東縁、旧時代の井戸が砂に埋もれていた。

その存在を知ったのは、リリナが古文書の片隅に見つけた「清涼泉」の記述による。


「ここに、かつて“神水”と呼ばれた井戸があったはずです」

「干上がったって話もあるが……調べてみる価値はあるな」


俺は現地へ赴き、地質調査を試みた。周囲には微かな湿気の層。地下に水脈が生きている可能性はある。

だが、問題はその上に積もった数メートルの魔砂だった。


「風のせいでしょうか」

「いや、これは……浸食ではなく、意図的な埋没の気配がある」

グリムリッチが唸る。


俺たちはゴーレムを使い、慎重に掘削を進めた。

だが、掘れば掘るほど細かな粒子が流れ込み、作業は困難を極めた。


「このままじゃキリがねえな……囲いを作るしかない」


俺は、現代の井戸掘削で使われる「セクションパイプ方式」を思い出した。

円筒状の筒を地中に差し込みながら掘り進むことで、壁の崩落を防ぐ工法だ。


「鋼輪を嵌めて、順に沈めていく……筒の鎧を着せて、井戸を地中へと導くんだ」


ゴーレムたちには特注の耐圧リングを持たせ、魔鋼で作った筒を地中へ押し込ませる。

それはまるで、地の底へと鉄の蛇を伸ばしていくような光景だった。


一方、魔物たちの間では「神水復活」の噂が立ち始め、供え物を持ち込む者まで現れた。

中でも、以前登場した陽気な川の魔物ウモーが「なら水神祭やらねば!」と騒ぎ始め、勝手に祭壇を築き始める始末。


「まだ水は出てねぇってのに……」


そして六日目。

ついに、井戸の底から冷たい水が噴き出した。


「やった……!」

「神水だー!」

「おおおっ!」


水は澄み、冷たく、試飲したウモーが目を見開いた。


「これは……昔の味だ!懐かしき……山の奥の、雪解け水の味がするっ!」


封じられていた地下の水脈は、こうして再び目を覚ました。


リリナが感慨深くつぶやく。

「これで、東区の水供給が安定しますね……それに、何か……心が洗われるような」


井戸は修復された。だが、それだけではない。

人々の間には「この水には清めの力がある」という新たな信仰も芽生え始めていた。


かつて忘れられた井戸は、いま――

魔界における“祈り”の場所となったのだった。

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