第三十回 楼閣に緑芽吹きて 営みの地を整えしこと
数多の依頼を受け、築かれてきた竜王城の土木整備も、ようやく形を成し始めていた。そんな折、リリナから一通の依頼状が届く。「城内に、日々の営みの象徴となる広場がほしい」と。
魔物たちが集い、子らが走り、歌や踊りが生まれる場所。それは、戦や封印とは違う「日常」の始まりを告げる場所でもある。
俺はすぐに、城の西側の空き地を整備対象に選んだ。そこは以前から陽当たりもよく、各施設との接続も良好だった。
「ここなら、噴水も置ける。樹木を植えても倒壊の心配は少ない」
かくして始まった広場造成計画。工事に先立ち、ガーゴイルたちは地面の不陸をならし、スライム族は排水路の整備を請け負った。
設計図の清書はルルナが手伝ってくれ、細部の意匠には魔界祭を成功に導いたミラのアイデアも加わった。
また、広場の中心には、俺の発案で魔界でも育つ緑の若木を植えることにした。種は、以前リリナが育てていたトマトの親株から取れたものだ。
「この木が大きくなったら、いつか子どもたちが木陰で昼寝できる」
施工中には突然の落雷や、地中から湧き出る瘴気による一時中断もあったが、ザイゴルフの防呪結界と、ルルナの制風術で乗り越えた。
重機代わりのゴーレムたちも、吊り上げ作業や噴水の据え付けで大活躍だった。言葉こそ少ないが、その慎重な動きは信頼に足るものだった。
完成間近には、かつて地図作りに挑んだ少女ミラが、敷石の配置に星座を模すアイデアを出し、夜にも輝く魔灯の装飾が加えられた。
数日後、広場が完成。若木の苗床には、腐植魔土と耐熱セラミックを用い、悪天候にも負けぬ造りとした。
開場の初日には、リリナ主導のささやかな祝祭が行われた。魔界祭の舞台で鍛えた歌姫たちが唄い、訓練場で育った若き戦士たちが舞を披露する。
「ありがとう、ユースケ。この場所は、みんなの未来につながっていくよ」
戦支度の中にも、息をつける居場所が必要だ。
「……こういうのも、建築の力ってやつか」
緑が芽吹き、魔物たちの笑い声が響く広場。その光景は、朽ちた竜王城から始まった再建の旅が、確かに何かを変えつつある証だった。




