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第二十九回 知室に虫湧きしは設計の誤り 旧文に救いを見出せしこと

魔界の学び舎は、竜王城の城下に建てられた教育の場だ。竜王が「知こそが力なり」と自ら語ったこともあり、幼き魔物たちの親世代が進んで通わせるようになった。加えて、近年の普請により城下の治安と生活水準も安定し、子育てと教育の環境が整ってきたことが背景にある。


そうして学び舎は、日に日に賑わいを増していた。魔童たちは文字に、数に、知の喜びに目を輝かせていた――だが、ある日。


「ユースケ殿! 机の引き出しから虫が!」


老教師ソバットの悲鳴に俺が駆けつけると、机下にびっしりと銀色の甲虫がうごめいていた。どうやら先日導入した“新素材の書板”が原因のようだ。


「これ、俺が提案した高湿度対応の再生紙だよな……」


現代で使われる環境紙を模した素材を、こちらの素材で再現したつもりだった。だが、成分の一部が魔虫の孵化誘因になるとは。


「俺のせいだ……」


一時閉鎖となった教室を前に、俺は悔しさに歯を食いしばった。


その夜、慰めに来たのはルルナだった。手にしていたのは、かつて封印されていた旧魔王時代の文献。


「この“知壙篇”には、防虫と蔵書保存の古い技法が記されてるの。ユースケ、あなた一人で全部抱え込まないで」


古文で記された呪文と設計図には、香草を使った虫除け結界と、書板に施す“炙化封”という刻印法があった。


「なるほど……素材そのものに対して“結界の素地”として加工してあるのか」


俺はルルナやザイゴルフの手を借り、従来の再生紙に古代の封刻を加える方法を採用した。


数日後。


魔虫の姿は消え、学び舎は平穏を取り戻す。


だがその過程で、俺はひとつの教訓を得た。

最新技術をただ押しつけるのではなく、この地に根ざした過去の知恵と折り合いをつけていくこと。

それこそが、魔界の普請奉行として本当に求められる態度なのだろう。


「過去の知恵に助けられたな……」


俺はふと、竜王城の書庫に積もる古文書を思い出していた。

知の積層は、時に最新の知識よりも雄弁なのかもしれない――そんなことを思いながら、灯の落ちた学び舎の廊下を歩いた。

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