第二十七回 厨房に滑りの難ありて 火硅石を敷きしこと
竜王城の厨房で滑って転んだ、という苦情が相次いだ。原因は、熱と油で床がツルツルになっていたことだ。
「おいユースケ、このままじゃ食事より先に骨が折れそうだぜ!」
厨房を仕切るグルメットの怒号が飛ぶ。俺はさっそく床材の見直しに取りかかった。
だが、この耐熱セラミックプレートという素材、現代では当然のように使われているが、この魔界には存在しない。
そこで俺は、魔界の火山地帯に分布する鉱石の中から、似たような特性を持つものを探すことにした。
協力してくれたのは、グリムリッチの命を受けた小鬼族の鉱物調査団だ。数日かけて見つかったのが「火硅石」という硬質鉱石。熱に強く、滑りにくく、加工すればちょうどいいプレート状になる。
ゴーレムたちが採掘と整形を担い、俺の設計通り、滑り止めの溝を刻みながら一枚ずつ敷き詰めていった。
だが、工事終盤、グルメットが自ら新しい動線に従って鍋を振っているのを見て、俺はひと安心した。
「……悪かねぇな。この排気口、前よりずっと熱こもらねぇし。滑らねぇってのも、案外悪くねぇ」
魔界の厨房に、ようやく“衛生”と“安全”という概念が根付き始めた気がした。




