第二十五回 厠にて異臭立ちこめし折 水の流れを通わせしこと
「ユースケ殿、なんとかしてくれ! 鼻がもげるっス!」
獣人族の近衛兵、ガルロスが厠から飛び出してきた。彼は犬のような嗅覚を持つため、臭気にはとことん敏感だった。
数日前から、竜王城の北棟にある古い厠から異臭が立ち込めていた。最初は誰も気に留めなかったが、日を追うごとに悪臭は強まり、ついには兵の士気にも影響を及ぼすようになった。
「くっそ……魔界で下水の案件とはな」
俺は渋い顔で現場を確認した。老朽化した排水路に、詰まりと逆流。雨水と汚水が混じり、最悪のコンディションだった。
「完全に浄化槽が死んでる。ていうか……そんなもん最初からないのか」
リリナが袖で鼻を押さえながら言った。
「つまり、現代の水洗トイレみたいなシステムが必要ってこと?」
「ああ。ちゃんとした排水経路と、浄化機能と、あと水の流れを操る装置だな」
問題は、自然の勾配が少ない竜王城では、水流をスムーズに確保できないことだった。
「俺が呼んできたわよ」
そう言ってリリナが連れてきたのは、ナマズ型の魔物〈流水妖ゴルム〉だった。水流の加減を自在に操れるという。
「おおっ、これは……こやつ、ただの魔獣ではないぞ」
ゴルムはまるで給水ポンプのように、水を一方向へ送り出す魔法を扱える。これにより、排水の流れを作り、詰まりを解消することが可能になった。
「それに加えて、ここに砂利層と活性炭の層を作れば……」
俺は簡易的な浄化槽を設計し、数日で工事を完了させた。
ゴーレムたちが無言で管を埋め、スライムたちがぬめりを除去。リリナは衛生管理のための魔法障壁を張った。
そして、ついに――
「流れたっス!」
ガルロスが喜びの声を上げた。
こうして、魔界初の“半・水洗式”厠が完成した。
その後もこのシステムは各地に応用され、「ユースケ式」と呼ばれることになるのだが、それはまた別の話である。




