第十六回 灯影の塔に踊り集い 魔界祭を興せしこと
「お祭りの準備? 俺が……?」
ある日、俺の元に少し変わった依頼が舞い込んだ。
今年の“魔界祭”の設営責任者をやってほしいというのだ。
「築城とは違うが、式典もまた“城の顔”だ。心得ておけ、ユースケ」
陛下にそう言われれば、断るわけにはいかない。
魔界祭は、魔族たちが日頃の労をねぎらい、先祖や精霊に感謝する年中行事だという。
主戦力となるモンスターたちの士気を保つためにも、盛大に行いたいと家臣たちも口を揃えていた。
問題は、その“盛大さ”の具体的なイメージがまるでバラバラなことだった。
「踊る場所が欲しい!」「高いところから光を放つ塔が要る!」「回れるステージが欲しい!」「うまい焼き魚屋台も!」
要望は尽きず、収拾がつかない。
「……だったら、全部まとめてやっちまおう」
俺が提案したのは、“盆踊りの櫓”だった。かつて地上で見た、四方から回れる高床の塔──舞台であり、目印であり、祭りの中心となる建造物。
「その櫓とやら、面白そうじゃないか!」「組み上げに手間がかかるなら、我らゴブリン隊も手伝おうぞ!」
設計は急ピッチだった。中央に魔力拡散柱を据え、照明と音響を一体にした多用途ステージとする。木材は森のエント族から譲り受け、骨組みはゴーレムが運んで設置。飾り付けは妖精たち、光の演出はミラの光魔法が担うことになった。
ところが、祭り三日前。外部から運び込まれる予定だった燈籠の材料が、崖崩れで供給停止となる。
「嘘だろ……祭りの灯りがないなんて……!」
暗雲が漂う中、ミラがそっと寄ってくる。
「ねえユースケ。あたし、光る魔法の花を作れるよ。浮かせることもできる」
それは地上では絶対に見られない、幻想的な演出だった。俺は即座に櫓の設計を変更し、魔法花飾りと合わせた“動く灯りの塔”に仕立てた。
祭り当日。魔界の夜空に光る花が舞い、中央櫓ではミラが宙に浮きながら光を繰り出し、魔物たちが周囲で手を取り踊った。
「ユースケ!これが“地上の祭り”ってやつか!」「踊るの、楽しいな!」
「櫓の上で踊りたいぞー!」とドワーフが叫び、「ダメです!順番守ってください!」とリリナが列整理に追われていた。
その喧騒のなかで、俺はふと陛下の姿を探す。櫓の影で、陛下が微笑みながら魔物たちを見つめていた。
「民が笑う姿。……よいな」
そのひと言が、何よりもうれしかった。
祭りの灯りが消えるころには、俺の背中にも静かに、ほんの少しだけ誇らしさが灯っていた。