第十三回 地底にて吠ゆる音あり 影、地表を穿つこと
建設現場の南側、岩盤を切り崩していたゴーレムたちの足元で、異様な振動が続いていた。
「……最近、地面の下から音がする。しかも、何か動いてる感じがある」
現場監督のリザードマンが報告に来た。俺は図面を広げ、近くに水脈や空洞がないかを確認する。
「このあたりの地層は安定してるはずなんだけどな。念のため調査しよう」
地底を通じて敵が攻めてくる――という可能性があるなら、それは深刻な脅威だ。
俺は再びモグラ族のラダックたちとともに、地底調査を敢行した。
翌朝、ゴーレムを足場代わりに坑道を下ると、そこにはぽっかりと広がる異様な空洞があった。
湿った石壁に、四方から彫り込まれた魔法陣の痕跡。さらに、最近通った痕跡のある掘り道が北西へと続いていた。
「これ……人間の手によるものじゃないな」
「……でも、外から掘ってきてるのは確かです」
地底から敵が侵入する計画が進んでいる。だが問題は、どうやってそれを防ぐかだった。
「……地上と違って、地底には“土圧”ってやつがある。だから構造物で塞ぐには、逆に崩落の危険がある」
ラダックたちの協力で、俺はひとつの工法を思いついた。
「“逆ダム構造”を作ろう。中空に梁を渡して、押し寄せる土圧を上から受け止めるんだ」
支柱を斜めに組み合わせる三角構造のアーチ式補強を、地底通路の弱点部分に施工する。
建材には雷晶石の残材を用い、ゴーレムの力で正確に組み上げる。
数日後、俺たちの“地底防衛施設”が完成した。
そこへ――
「敵、出ました! 地下から三体、魔法剣士らしき人間のパーティーです!」
報告が届くや否や、通路の先から轟音とともに崩落の音が鳴り響いた。
だが設計通り、アーチ状の梁は土砂を受け止め、敵の進行を止めた。
モグラ族の土塊弾と毒煙、そこへリザードマンの槍が加わる。
短い戦闘の末、敵は撤退した。
「ユースケ。あれは……勇者の側の先遣隊だと思います」
ラダックの言葉に、俺はうなずく。
「やっぱり来たか……でも、迎え撃てた。今はそれで十分だ」
深き土の底に刻まれた防壁。それは俺たちの手で築かれた、最初の勝利だった。