第一回 異界より工師召喚 竜王城に築策始まること
俺の名は高山祐介。三十五歳、独身。東京都内の建築事務所に勤める一級建築士だった。いや、ついさっきまでは──というべきか。
目を開けたとき、俺は見知らぬ巨大な石造りの玉座の間にいた。左右には異形の魔物たちが並び、重厚な沈黙の中で、中央の玉座に座る一人の存在──巨大な黒き竜のような気配を纏った人影が、俺を見下ろしていた。
「そなたが、朕の召喚に応じた者か」
低く響く声。威圧感に満ちたその声音に、俺の背筋は自然と伸びた。
「ここは……どこですか」
「ここは朕の城、竜王城──だが、今は見る影もない。荒廃し、朕の復活にふさわしからぬ有様よ」
目をやれば、たしかに玉座の間すら天井に大穴が空いており、壁の一部は崩れ落ち、風が吹き抜けている。
「……それで、俺に何をさせたいんです?」
「築け。朕の威光を示すに足る、堅牢なる城を。迫る勇者の軍勢を退けるため、朕にはそなたの知識が要る」
唖然とした。だが次の瞬間、周囲の魔物たちが一斉に俺を見つめ、ざわめいた。
「これが……人間?」「ひょろひょろじゃねえか」
「陛下、こやつが本当に役に立つのですか?」
一人、獣のような頭を持つ筋骨隆々の魔物が一歩前に出てそう言った。名前はまだ聞いていない。
「そなたの言葉ももっともだ、グリムリッチ。しかし──」竜王は一息置いてから続けた。「この者は、現世にて構造設計と施工技術を極めし職人。朕はそなたたちに、まずこの者の仕事を見せよと命じる」
俺の戦いは、剣でも魔法でもない。図面と現場と、理屈と信頼による築城の戦いだ。
「わかりました。引き受けましょう。全力でやらせてもらいます。ただし……」
「うむ?」
「俺に指示するなら、現場監督らしく頼みます。『陛下』だの『朕』だの堅苦しいのは抜きで」
沈黙が流れた後、竜王は不敵に笑った。
「面白い。ユースケよ、存分に働け。そなたに朕の城を託す」