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鏡の迷宮  作者: 憂月
第1部 始まりの影
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第9話 創設者の意志

1.

暗闇が悠真の視界を覆い、冷たい風が肌を刺す。無数の鏡が並ぶ迷宮の廊下は、果てしなく続く。

壁は光を吸い込み、足元は氷のように冷たい。美咲の震える手が悠真の腕を握り、佐藤は血に濡れた銀のナイフを握りしめる。


「また…ここ…?」 美咲の声は恐怖で震え、涙が頬を伝う。


佐藤が低く呟く。「7日目の儀式は失敗した。瑠璃の魂は弱ったが、創設者の意志が迷宮を支えている。俺たちは…まだ牢獄の中にいる」


悠真は周囲を見回した。鏡には、姉・彩花の姿が映る。血だまりの中で彼を見つめる。

「ゆうま…なぜ助けなかった…?」


「やめろ! お前じゃない!」 悠真が叫ぶと、鏡が揺れ、彩花の姿が白石瑠璃に変わる。

白い服、長い黒髪、瞳のない白い目。

「ゆうま…みさき…恭司…私の楽園…永遠に…」


だが、瑠璃の声に、もう一つの声が重なる。低く、響く男の声。

「私の門…開く…あなたたちの魂…私のもの…」


黒いローブの男――創設者の影が、鏡の奥に現れる。顔は見えないが、目だけが赤く光る。悠真の背筋が凍る。「お前…創設者か!?」


男の笑い声が、廊下を満たす。

「私は…迷宮そのもの…私の意志…永遠…」


美咲が悲鳴を上げ、佐藤がナイフを構える。「創設者の魂が、迷宮を支配している! 瑠璃はただの道具だ!」


悠真は叫ぶ。

「なら、創設者を止めればいい! どうやって!?」


鏡が一斉に揺れ、破片が浮かび上がる。鋭い刃のように3人を囲み、瑠璃と創設者の声が重なる。

「7日目は…始まりに過ぎない…私の楽園…完成する…」


2.

突然、鏡の一つが光を放ち、瑠璃の記憶が流れ込む。1950年代、洋館の屋根裏。教団「光の集団」の信者たちが、祭壇を囲む。瑠璃は中央に立ち、血を捧げるが、背後には黒いローブの男――創設者。彼の声が、瑠璃を操る。

「瑠璃、迷宮を完成させろ。魂を捧げ、永遠の門を開け」。


瑠璃の目には恐怖と狂気が混じる。彼女は信者たちを導く指導者だが、創設者の意志に縛られている。

「私は…永遠を…求めただけ…なのに…」


儀式が失敗し、信者たちが鏡に吸い込まれる。瑠璃の血が祭壇に流れ、彼女の魂が迷宮に閉じ込められる。創設者の笑い声が響く。「瑠璃、お前は私の道具だ。迷宮は私の意志そのもの…」


記憶が途切れ、悠真は現実に引き戻される。美咲が泣き、佐藤がナイフを握りしめる。

「創設者は…迷宮そのもの? どういうこと?」


佐藤が答える。「彼の魂が、迷宮を動かしている。瑠璃は操られた犠牲者だが、創設者の意志が迷宮を永遠に保つ。俺たちは…彼の魂を断ち切らないと脱出できない」


悠真は日記を手に、ページをめくった。瑠璃の筆跡の後、別の手によるメモ。「創設者の名は禁忌。彼の魂は鏡に宿る。迷宮を閉じるには、彼の真の名を知り、血で封じる」。


「真の名?」 美咲が震えながら問う。「どうやって知るの? こんなところで…!」


佐藤が廊下の奥を指差す。

「あの先に、答えがあるはずだ。教団の儀式の中心が、迷宮の奥にある」


鏡が揺れ、破片が3人を攻撃する。悠真の腕をかすめ、血が滴る。瑠璃の声が響く。「血…魂…私のもの…」


「走れ!」 佐藤が叫び、3人は廊下を駆けた。


3.

廊下の奥に、光が見える。3人は走り続け、広大な部屋にたどり着く。中央に、巨大な鏡。祭壇のような台があり、血の染みが脈打つ。周囲には、教団の信者たちの遺品。古いローブ、血に染まった手紙、壊れた鏡の破片。


「ここ…迷宮の中心だ」 佐藤が呟く。


悠真は祭壇に近づき、手紙を拾った。

「創設者の名は禁忌。彼の魂は鏡に宿る。真の名を知る者は、迷宮の支配を破る」。


美咲が震える。「真の名…どうやって見つけるの? こんなの…無理だよ!」


突然、巨大な鏡が揺れ、創設者の影が現れる。「私の名を知る者はいない…私の意志…永遠…」


瑠璃の姿が、創設者の隣に現れる。

「ゆうま…みさき…恭司…私の楽園…私のもの…」


鏡の破片が浮かび上がり、3人を囲む。悠真はナイフを握り、叫んだ。

「創設者! お前の名を知る! 瑠璃を解放しろ!」


創設者の笑い声が響く。

「私の名? 愚かな…誰も知らぬ…私の楽園…永遠に…」 


だが、悠真の脳裏に、瑠璃の記憶が閃く。儀式の瞬間、彼女が呟いた名。

「アキラ…あなたは…私を裏切った…」


「アキラ…?」 悠真が呟くと、鏡が震える。創設者の影が揺れ、叫び声が響く。「その名…言うな…!」


佐藤が叫ぶ。「それだ! 創設者の真の名! アキラ!」

美咲が泣きながら叫ぶ。

「アキラ! お前の呪いは終わる!」


3人の声が重なり、鏡が砕ける音が響く。創設者の影が揺れ、瑠璃の姿が薄れる。

「やめなさい…私の楽園…!」


4.

悠真はナイフを握り、祭壇に突き立てた。「アキラ! お前の意志は終わる! 瑠璃、俺たちはお前を解放する!」


美咲が血の瓶を手に、祭壇に注ぐ。

「瑠璃! もう自由になっていいよ!」

佐藤がナイフを振り上げ、鏡に突き刺す。

「アキラ! 迷宮は閉じる!」


血が祭壇に吸い込まれ、符咒が光る。創設者の叫び声が響く。「やめなさい…私の意志…永遠…!」


瑠璃の姿が揺れ、彼女の目から涙が落ちる。

「私は…ただ…永遠を…求めただけ…」


突然、部屋が崩れ、光が溢れる。3人の視界が白く染まる。目を開けると、洋館の隠し部屋。祭壇の染みが消え、鏡の破片が床に散らばる。

「終わった…?」 美咲が震えながら呟く。


佐藤が首を振る。

「まだだ。創設者の意志は弱ったが、迷宮は完全には閉じていない。瑠璃の魂が…まだここにいる」


悠真は腕の傷を押さえ、呟く。

「アキラ…彼の魂を完全に封じないと…」


その時、部屋の隅でガラスが割れる音。鏡の破片が浮かび上がり、3人を囲む。瑠璃の声が響く。

「ゆうま…みさき…恭司…私の楽園…まだ…終わらない…」


5.

隠し部屋の扉が開き、暗い廊下が現れる。迷宮だ。創設者の声が響く。

「アキラ…私の名を知ったな…だが…私の意志…永遠…」


悠真はナイフを握り、叫んだ。

「アキラ! お前の楽園は終わりだ!」


だが、鏡が一斉に現れ、瑠璃と創設者の姿が映る。

「7日目は…始まり…私の門…開く…」


美咲が泣きながら叫ぶ。

「もうやめて! 私たち、自由になりたい!」


佐藤がナイフを振り上げ、鏡に突き刺す。

「アキラ! 瑠璃! 俺たちはお前たちに負けない!」


鏡が砕け、光が爆発する。3人の視界が暗くなり、洋館のリビングに倒れていた。鏡は寝室の入り口に立つ。だが、表面は静かだ。


「終わった…?」 美咲が震える。


佐藤が呟く。

「いや…まだだ。創設者の意志は、迷宮の奥に潜んでいる。俺たちは…まだ牢獄の中にいる」


突然、洋館が揺れ、鏡の表面が波打つ。

創設者の声が響く。

「ゆうま…みさき…恭司…私の門…永遠に…開く…」


鏡が光を放ち、暗い廊下が映る。創設者の影が、ゆっくりと近づく。

「私の楽園…あなたたちの魂…私のもの…」


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