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鏡の迷宮  作者: 憂月
第1部 始まりの影
8/28

第8話 魂の牢獄

1.

悠真の意識は暗闇に沈み、冷たい風が肌を刺す。目を開けると、無数の鏡が並ぶ迷宮の廊下。壁は黒く、光を吸い込み、足元は氷のように冷たい。美咲の震える手が、悠真の腕を握り、佐藤は銀のナイフを握りしめ、息を切らす。


「また…ここに戻された…」 美咲の声は掠れ、恐怖で震えている。


佐藤が周囲を警戒し、低く呟く。


「7日目の儀式は失敗した。瑠璃の魂はまだ迷宮にいる。俺たちを完全に引き込むつもりだ」


悠真は時計を見た。7日目の夜、午後11時。期限は過ぎたはずなのに、迷宮は閉じていない。瑠璃の声が、頭の奥で響く。


「ゆうま…みさき…恭司…私の楽園…永遠に…」


鏡の一つに、姉・彩花の姿が映る。血だまりの中で彼を見つめる。


「ゆうま…なぜ助けなかった…?」


「やめろ! お前じゃない!」 悠真が叫ぶと、鏡が揺れ、彩花の姿が白石瑠璃に変わる。

白い服、長い黒髪、瞳のない白い目。


「逃げられない…あなたたちの魂…私のもの…」


美咲の鏡には、裏切った友人の顔。

「みさき…嘘つき…」


佐藤の鏡には、親友・亮太。血まみれで彼を睨む。

「恭司…お前が…殺した…」


3人の心が、鏡に抉られる。瑠璃の笑い声が、廊下を満たす。「あなたの弱さ…私の力…楽園へ…おいで…」

悠真は目を閉じ、叫んだ。

「もううんざりだ! 瑠璃! お前のゲームは終わりだ!」


だが、廊下の奥から足音。重く、不規則。瑠璃が、ゆっくりと近づいてくる。彼女の手が、ガラス越しに伸びる。冷たい。骨まで凍る冷たさ。


2.

突然、鏡の一つが光を放ち、瑠璃の記憶が流れ込む。1950年代、洋館の屋根裏。教団「光の集団」の信者たちが、祭壇を囲む。瑠璃は中央に立ち、鏡に血を捧げる。「迷宮へ! 永遠の楽園へ!」


だが、儀式は失敗。鏡が揺れ、信者たちが次々に吸い込まれる。瑠璃の叫び声。「間違えた! 門は閉じない!」


彼女の血が祭壇に流れ、鏡に吸い込まれる。瑠璃の魂が迷宮に閉じ込められる瞬間。だが、新たな記憶が現れる。瑠璃の過去。彼女は教団の指導者として、信者たちを導いたが、裏では恐怖に支配されていた。教団の創設者、名前のない男が、彼女を操っていた。


「瑠璃、迷宮を完成させろ。さもなくば、お前の魂は永遠に彷徨う」。


記憶が途切れ、悠真は現実に引き戻される。美咲が泣き、佐藤がナイフを握りしめる。


「瑠璃は…操られていた? 教団の創設者が…本当の黒幕?」


佐藤が頷く。「そうだ。瑠璃は犠牲者だ。だが、彼女の魂は迷宮に縛られ、俺たちを巻き込もうとしている」


悠真は叫ぶ。


「なら、創設者を止めればいい! どうやって!?」


佐藤が日記を手に、答える。「創設者の名前は書かれていない。だが、迷宮の奥に、彼の手がかりがあるはずだ。瑠璃の魂を解放するには、創設者の呪いを断ち切る必要がある」


美咲が震えながら問う。


「でも…迷宮の奥って…どこ? この廊下、果てしないよ…」


その時、廊下が揺れ、鏡が一斉に現れる。瑠璃の姿が、すべての鏡に映る。

「ゆうま…みさき…恭司…私の楽園…完成する…」


3.

鏡の破片が浮かび上がり、3人を囲む。鋭い刃のように迫り、悠真の腕をかすめる。血が滴り、床に吸い込まれる。瑠璃の声が響く。「血…魂…私のもの…」


悠真はナイフを握り、叫んだ。


「瑠璃! お前の楽園は偽物だ! 俺たちはお前を解放する!」


美咲が泣きながら叫ぶ。

「私…怖いけど…逃げない! 過去に縛られない!」


佐藤がナイフを振り上げ、鏡に突き刺す。「亮太…俺は…お前を忘れない! だが、俺は生きる!」

3人の声が重なり、鏡が揺れる。瑠璃の叫び声が響く。「やめなさい…私の楽園…!」


突然、廊下が崩れ、光が溢れる。3人は新たな空間に立っていた。広大な部屋。中央に、巨大な鏡。祭壇のような台があり、血の染みが広がる。


「ここ…迷宮の中心?」 悠真が呟く。


佐藤が頷く。「そうだ。教団が儀式を行った場所。創設者の痕跡がここにある」


祭壇の周りに、教団の信者たちの遺品。古いローブ、血に染まった手紙、壊れた鏡の破片。手紙には、創設者の言葉。「瑠璃、迷宮を完成させろ。魂を捧げ、永遠の門を開け」。


美咲が手紙を手に、震える。


「創設者…まだ生きてる? それとも…迷宮に?」


佐藤が答える。「分からない。だが、この鏡が鍵だ。瑠璃の魂と、創設者の呪いがここに繋がっている」

巨大な鏡が揺れ、瑠璃の姿が現れる。

「ゆうま…みさき…恭司…私の楽園…私のもの…」

彼女の手が、ガラス越しに伸びる。3人の心が、試される。


4.

悠真はナイフを握り、鏡に近づいた。「瑠璃! お前を操ったのは誰だ!? 創設者はどこにいる!?」

瑠璃の笑い声が響く。


「創設者…彼は…迷宮そのもの…私の楽園…彼の意志…」


突然、鏡の奥に新たな影が現れる。黒いローブの男。顔は見えないが、声が響く。


「瑠璃…お前は失敗した。だが、新たな魂が…私の門を開く…」


悠真の背筋が冷える。「お前…創設者か!?」

男の声が、頭の奥で響く。


「私は…永遠…迷宮は…私の意志…あなたたちの魂…私のもの…」


佐藤が叫ぶ。「創設者の魂が、迷宮を支配している! 瑠璃は彼の道具だ!」


美咲が泣きながら叫ぶ。

「じゃあ、どうすればいいの!? このままじゃ…!」


悠真はナイフを振り上げ、鏡に突き刺した。「瑠璃! 創設者! 俺たちはお前たちに負けない!」

鏡が砕け、光が爆発する。瑠璃の叫び声と、創設者の低いうめき声が重なる。「やめなさい…私の楽園…!」

部屋が揺れ、祭壇の染みが光る。血が蒸発し、鏡の破片が浮かぶ。悠真の腕から血が滴り、祭壇に吸い込まれる。


「悠真!」 美咲が叫ぶ。

佐藤がナイフを握り、祭壇に突き立てる。「今だ! 創設者の呪いを断ち切れ!」

光が溢れ、3人の視界が白く染まる。


5.

光が収まり、3人は洋館のリビングに倒れていた。時計は止まり、鏡は寝室の入り口に静かに立つ。だが、瑠璃の声は聞こえない。


「終わった…?」 美咲が震えながら呟く。

佐藤が首を振る。「まだだ。瑠璃の魂は弱ったが、創設者の意志が迷宮を支えている。俺たちは…まだ牢獄の中にいる」


悠真は腕の傷を押さえ、呟く。

「創設者…彼を止めないと、迷宮は閉じない」


突然、洋館の窓が揺れ、鏡の表面が波打つ。創設者の声が響く。「ゆうま…みさき…恭司…私の門…開く…」


鏡が光を放ち、暗い廊下が映る。瑠璃の姿はないが、黒いローブの男が立つ。彼の目が、3人を貫く。「私の楽園…永遠に…」


部屋が暗くなり、迷宮の廊下が再び現れる。無数の鏡。無数の影。そして、創設者の笑い声。

「7日目は…始まりに過ぎない…」

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