第3話 永遠の迷宮
1.
潮見町の地下下水道、結晶の炉の残骸が散らばる中、葵、拓海、凛は隠された扉の前に立つ。青い光が漏れ、ささやきが響く。
「あおい…たくみ…りん…永遠の迷宮…ようこそ…」
葵は肩の傷を押さえ、ナイフを握る。
「この先…何があるの?」
拓海が懐中電灯で扉を照らしながら言う。
「教団の最終計画…『永遠の迷宮』だ。翔の魂を封じただけじゃ終わらない」
凛が祈祷の札を手に、目を閉じる。
「この扉…町の心と繋がってる。教団の呪いが、迷宮を通じて町全体を支配しようとしてる」
地上では、霧が渦を巻き、住民の一部がまだ結晶の破片を手にささやく。
「楽園…楽園…」
町の建物がさらに歪み、道が無限に続く迷路と化す。潮見町は、教団の意志に飲み込まれつつあった。
葵が震える声で言う。
「みんな…まだ操られてる。私たちが…止めなきゃ」
扉が軋み、青い光が強まる。翔の幻影が現れる。
黒いローブ、青い目
「私の楽園…永遠に続く…お前たちの魂…迷宮に…」
凛「翔! あなたの計画はここで終わる!」
3人は扉を押し開け、永遠の迷宮へ踏み込む。
2.
扉の向こうは、青い光に包まれた無限の空間。壁は鏡のように輝き、無数の結晶の破片が浮遊する。道は分岐し、果てが見えない。
ささやきが響く。
「新たな宿主…見つけた…」
葵「ここ…どこ!? 迷路みたい!」
拓海が地図を握るが、紙が青い光に溶ける。
「地図が…使えない。この迷宮、普通じゃない」
凛が祈祷の札を掲げ、言う。
「これは…教団の心の具現化。住民の恐怖と欲望が、迷宮を形作ってる」
迷宮の壁に、住民の幻影が映る。市場の老人、学校の生徒、神社の参拝者。
「楽園…私たちの…楽園…」
翔の声が響く。「永遠の迷宮…町の心を閉じ込める…お前たちの魂も…私のもの…」
結晶の破片が刃のように襲い、拓海の腕をかすめる。
「くそっ! こいつ、どこからでも来る!」
葵がナイフを振り回す。
「翔! 出てきなさい!」。
3.
迷宮の奥で、拓海が壁に刻まれた教団の紋章を見つける。
「また…記録だ」
彼は懐中電灯で照らし、過去のビジョンを見る。
1945年、教団「光の集団」の初代指導者・宗一郎が、戦後の混乱の中で教団を設立。
「現世は苦しみ…楽園を創る…」
彼は鏡と結晶を使い、人々の心を操る儀式を開発。
潮見町は、教団の実験場だった。
1970年代、由紀子と翔は宗一郎の遺志を継ぎ、「永遠の迷宮」を完成させる計画を立てた。
迷宮は、町全体を仮想の楽園に変え、住民の魂を永遠に閉じ込める装置。
「この町…私の迷宮…」
宗一郎の魂は、迷宮の中心に封じられ、教団の意志を導いていた。
ビジョンが終わり、拓海が呟く。
「宗一郎…初代指導者。彼の魂が、迷宮の鍵か」
凛がビジョンを見る。宗一郎の姿:白いローブ、冷たい目。
「私の楽園…永遠に…」
彼女は言う。「翔は…宗一郎の道具だった。迷宮は、初代指導者の意志そのもの」
4.
迷宮の分岐で、葵の前に彩花の幻影が現れる。
「あおい…なぜ…私を…」
葵「姉貴! 教団のせいで死んだんだよね!? 助けて!」
翔の声が響く。
「彩花…私の楽園の礎…お前も…同じ道を…」
凛が葵の手を握り、ビジョンを見せる。
1975年、彩花は教団の儀式で結晶に魂を封じられた。彼女は葵を守るため、最後まで抵抗した。
「あおい…生きて…」
葵が涙を流す。
「姞貴…私、強くなる! あなたの分まで戦う!」
彩花の幻影が微笑み、光に変わる。
「あおい…ありがとう…」
葵のナイフが輝き、迷宮の壁を切り裂く。
5.
拓海の前に、悠斗の幻影。「たくみ…お前が…俺を…」
拓海が叫ぶ。「悠斗、ごめん! 俺は…逃げたんだ!」
ビジョン:3年前、悠斗は教団の隠れ家で結晶の呪いに飲み込まれた。拓海の裏切りが、彼の死を招いた。
「たくみ…なぜ…」
拓海が拳を握る。「悠斗…俺はもう逃げない! お前の意志、引き継ぐ!」
悠斗の幻影が消え、拓海が叫ぶ。「翔! 俺の魂は渡さない!」。
彼は結晶の破片を蹴散らし、迷宮の奥へ進む。
6.
凛の前に、美津子の幻影。「りん…呪いを…断ち切って…」
凛が叫ぶ。「おばあちゃん! 私、やってみる!」
ビジョン:1975年、美津子は翔の儀式を阻止し、結晶の炉を封じた。彼女の祈祷は教団の計画を遅らせたが、宗一郎の魂には届かなかった。
「りん…私の力…信じて…」
凛が祈祷の札を握り、言う。「おばあちゃん…私、負けない!」
翔が嘲笑う。「霊能者…お前の力も…私の迷宮に…」
凛が叫ぶ。「宗一郎の意志、断ち切る!」
7.
地上の広場では、住民たちが結晶の破片を手に集まる。
「楽園…楽園…」
葵の声が迷宮から響く。「みんな、目を覚まして! 教団の嘘に騙されないで!」
拓海が拡声器で叫ぶ。「潮見町は俺たちの町だ! 自由を取り戻せ!」
凛が祈祷を広場に伝える。「心を一つに! 呪いを打ち破る!」
住民が破片を捨て、声を上げる。「楽園なんかいらない! 帰りたい!」
子供が泣き、老人が祈る。
翔の魂が咆哮する。「私の楽園…お前たちの心…!」
だが、住民の意志が一つになり、迷宮の壁が揺らぐ。
8.
迷宮の中心で、翔の魂が巨大な結晶の影となる。
「私の楽園…永遠に…!」
葵がナイフを振り上げる。「彩花の仇、討つ!」
拓海が叫ぶ。「悠斗の分も、俺が戦う!」
凛が祈祷の札を掲げる。「美津子の力で、封じる!」
結晶の破片が嵐のように襲う。葵が胸をかすめられ、拓海が肩を切り裂かれ、凛が札を握り潰される。
「くっ…!」
翔が笑う。「無駄だ…迷宮は…私のもの…」
葵が叫ぶ。「私たち…負けない! みんなの意志、感じる!」
住民の声が迷宮に響く。「自由だ! 自由だ!」
凛が最後の祈祷を唱える。
「光の集団よ、闇に還れ!」
葵と拓海が同時に炉の中心にナイフを突き刺す。
「翔! 終わりだ!」
翔の魂が悲鳴を上げ、結晶が砕ける。
迷宮が光に包まれ、崩れ始める。
9.
光が収まり、3人は迷宮の中心に立つ。結晶は灰と化し、ささやきは消える。だが、地面が揺れ、中央に青い光の柱が現れる。柱の奥に、白いローブの男の幻影。宗一郎、教団の初代指導者。
「私の楽園は…永遠に…続く…」
凛が震える。「宗一郎…彼の魂が、迷宮の真の起源…」
拓海が拳を握る。「まだ…終わってないのか!?」
葵がナイフを握り直す。「なら、次は宗一郎だ。絶対に終わらせる!」
光の柱が強まり、ささやきが響く。
「新たな宿主…見つけた…」
町の霧が深まり、住民の声が遠くで響く。
「楽園…楽園…」