第0話 始動
1.
2025年、潮見町。海沿いの小さな港町は、霧と潮の匂いに包まれている。大学生の葵(あおい、20歳)は、古びたアパートに引っ越してきたばかりだ。家賃の安さに惹かれたが、部屋の洗面所の古い鏡に違和感を覚える。夜、鏡に映る自分の顔が、微かに歪む。
「何…これ…?」
葵は鏡に触れると、冷たい感触と共にささやきが響く。
「あおい…新たな宿主…見つけた…」
彼女は手を引っ込め、心臓が早鐘を打つ。
「気のせい…だよね?」
だが、鏡の端に、青い光が揺れる。
同じ頃、町の地方新聞の記者、拓海(たくみ、28歳)は、潮見町で続く怪奇事件を追っていた。
住民が夜中に鏡を見つめ、行方不明になる事件が多発。拓海のデスクには、読者からの手紙。
「鏡に…影が動く…」
彼は呟く。「また…あの噂か?」
霊能者の凛(りん、24歳)は、町の神社で祈祷中、異様な気配を感じる。境内の古い鏡に触れると、青い結晶の破片が落ちる。
「これは…呪いだ…」彼女の背筋に冷たいものが走る。
潮見町の夜、霧が濃くなる。住民のささやきが響く。
「新たな宿主…見つけた…」
2.
葵は大学で、怪奇現象研究サークルの先輩、拓海と出会う。
拓海は葵のアパートの鏡の話を聞き、調査を提案。
「潮見町の怪奇事件、5年前の霧谷町の事件と似てる。教団『光の集団』の噂を知ってるか?」
葵は首を振る。「霧谷町? 教団? 何それ…」
拓海がノートを見せる。「5年前、霧谷町で呪いの鏡を巡る事件があった。7つの鏡、教団の儀式…全部終わったはずなのに、潮見町で似た現象が…」
二人は町の神社へ向かい、凛と出会う。凛は結晶の破片を手に言う。
「この結晶…教団の呪いが形を変えたもの。鏡の破片から生まれた『影の結晶』だ」
葵が震える。「私の部屋の鏡…それと関係あるの?」
凛が頷く。「あなた、宿主に選ばれたのかもしれない」
拓海が拳を握る。
「なら、調べる。教団の残党がこの町にいるはずだ」
3.
潮見町の図書館で、拓海は古い新聞と町の歴史書を漁る。
1950年代、教団「光の集団」は霧谷町で活動していたが、一部の信者が潮見町に移り、密かに儀式を続けていた。
1970年代の記録に、「影の結晶」の記述。
「鏡が砕け、結晶が生まれた。教団の魂は新たな器を求める」
1975年、潮見町の港で、教団の残党リーダー、由紀子が儀式を行っていた。彼女は霧谷町の失敗(7つの鏡の暴走)を知り、鏡の破片を結晶に変える新たな儀式を開発。
「これで…楽園は私の手で…」だが、儀式は失敗。由紀子の魂が結晶に封じられ、潮見町に呪いが根付いた。
拓海が呟く。「由紀子…彼女の魂が、潮見町の呪いの起源か」
凛が結晶の破片を握り、言う。
「由紀子の魂が、町を支配してる。結晶は…住民の心を操る」
4.
葵のアパートに戻ると、鏡が青い光を放つ。影の結晶が鏡から溢れ、部屋を包む。
「あおい…私のもの…」
葵が叫ぶ。「やめて! 出てって!」
拓海がドアを蹴破り、葵を助ける。凛が結晶に触れ、ビジョンを見る。
由紀子の記憶:教団の信者たちが港で血を捧げ、結晶を生み出す。由紀子の笑い声。
「楽園は…永遠…」
町の住民が集まり、鏡や結晶を手にささやく。
「新たな宿主…見つけた…」
拓海「町全体が…呪いに侵されてる!」
凛「結晶は、住民の心を繋ぐ。教団の魂が、町を迷宮に変えようとしてる」
5.
葵の脳裏に、亡魂の声。彼女の姉、彩花が現れる。
「あおい…なぜ…私を置いて…?」
葵は姉を事故で亡くし、罪悪感を抱えていた。
「彩花…ごめん…」
拓海の前に、かつて取材で裏切った同僚の幻影。
「たくみ…お前が…俺を死なせた…」
凛の前に、幼少期に死んだ祖母。
「りん…お前も…呪いに…」
凛が叫ぶ
「幻だ! 結晶が私たちの心を操ってる! 負けないで!」
葵が涙を拭う。「姉貴…私は…生きるよ!」
拓海が拳を握る。「俺は…過去を乗り越える!」
凛が結晶を握り、言う。「由紀子の魂を…止める」
6.
3人は町の港へ向かう。
港の倉庫に、教団の残党が隠した「結晶の祭壇」由紀子の魂が現れる。
「私の楽園…完成する…お前たちの心…私のもの…」
凛「住民の心を目覚めさせるんだ。結晶の力を断つ!」
葵が住民に叫ぶ。
「みんな、目を覚まして! 呪いに負けないで!」
拓海が倉庫のスピーカーで叫ぶ。
「潮見町は自由だ! 教団の嘘を信じるな!」
住民が鏡を捨て、声を上げる。
「楽園なんていらない!」
凛が結晶に祈祷を施す。「由紀子よ、闇に還れ!」
結晶が光り、由紀子の咆哮が響く。「私の楽園…!」
葵がナイフで結晶を叩き、拓海が住民の手を取り、凛が最後の祈祷を唱える。結晶が砕け、光が爆発。
7.
光が収まり、3人は港に倒れていた。結晶は灰と化し、ささやきは消える。住民が目を覚ます。
「終わった…?」 葵が呟く。
凛が首を振る。
「由紀子の魂は消えたけど…結晶の破片がまだ町に残ってる」
拓海が拳を握る。
「なら、全部見つける。教団の呪いを終わらせる」
夜、潮見町の霧が薄れる。
だが、港の奥で、別の結晶が青い光を放つ。
「新たな宿主…見つけた…」
葵、拓海、凛は顔を見合わせ、決意する。
「次は…私たちが終わらせる」
第2部 スタート