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鏡の迷宮  作者: 憂月
第1部 始まりの影
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第10話 永遠の終幕

1.

洋館のリビングに響く創設者アキラの声が、悠真の心を締め付ける。


「ゆうま…みさき…恭司…私の門…永遠に…開く…」


寝室の入り口に立つ鏡は、暗い光を放ち、迷宮の廊下が映る。黒いローブの男――アキラの影が、ゆっくりと近づく。


悠真は銀のナイフを握り、腕の傷から滴る血を押さえる。美咲はソファの隅で震え、佐藤は教団の日記を握りしめる。7日目の期限は過ぎたが、迷宮は閉じていない。白石瑠璃の魂とアキラの意志が、3人を追い詰める。


「まだ…終わらないの?」 美咲の声は涙で震え、悠真の手を強く握る。


佐藤が低く呟く。「創設者アキラの魂が、迷宮を支配している。瑠璃は彼の道具だ。俺たちがアキラの意志を断ち切らない限り、脱出はできない」


悠真は鏡を見た。そこに映るのは、姉・彩花の姿。


「ゆうま…なぜ助けなかった…?」


「やめろ! お前じゃない!」


悠真が叫ぶと、鏡が揺れ、彩花の姿が瑠璃に変わる。白い服、長い黒髪、瞳のない白い目。


「ゆうま…みさき…恭司…私の楽園…私のもの…」


アキラの声が重なる。


「私の意志…永遠…あなたたちの魂…私のもの…」


突然、洋館が揺れ、鏡の表面が波打つ。部屋の空気が冷え、床が傾く。光が爆発し、3人の視界が暗くなる。目を開けると、彼らは再び迷宮の廊下に立っていた。無数の鏡が並び、黒い壁が光を吸い込む。


「また…ここ…?」 美咲が泣き崩れる。


佐藤がナイフを構え、叫ぶ。「迷宮の最奥だ! アキラの魂がここにいる! 準備しろ!」



2.

廊下の奥に、光が見える。3人は走り続け、広大な部屋にたどり着く。中央に、巨大な鏡。祭壇のような台があり、血の染みが脈打つ。周囲には、教団「光の集団」の遺品。古いローブ、血に染まった手紙、壊れた鏡の破片。


祭壇の前に、アキラの影が立つ。黒いローブ、顔の見えない男。だが、目だけが赤く光る。


「ゆうま…みさき…恭司…ようこそ…私の楽園…」


悠真はナイフを握り、叫んだ。「アキラ! お前の呪いは終わる! 瑠璃を解放しろ!」


アキラの笑い声が響く。「瑠璃? 彼女は私の道具…私の意志…迷宮そのもの…」


突然、鏡が光を放ち、瑠璃の記憶が流れ込む。1950年代、洋館の屋根裏。瑠璃は教団の指導者として、信者たちを導く。だが、背後にはアキラ。彼の声が、瑠璃を操る。


「瑠璃、迷宮を完成させろ。魂を捧げ、永遠の門を開け」。


瑠璃の目には恐怖と狂気が混じる。彼女はアキラに支配され、儀式を強行。だが、失敗し、信者たちが鏡に吸い込まれる。瑠璃の血が祭壇に流れ、彼女の魂が迷宮に閉じ込められる。アキラの笑い声。


「瑠璃、お前は私の道具だ。迷宮は私の意志そのもの…」


記憶が途切れ、悠真は現実に引き戻される。


「アキラ…お前は瑠璃を騙した! 迷宮は楽園じゃない! 魂を閉じ込める牢獄だ!」


アキラの目が光る。


「楽園? 牢獄? どちらでもよい…私の意志は…永遠…」


美咲が泣きながら叫ぶ。


「瑠璃は犠牲者だ! 私たちも…お前の犠牲にはならない!」


佐藤がナイフを振り上げ、祭壇に突き刺す。


「アキラ! お前の意志を断ち切る!」


鏡が揺れ、破片が浮かび上がる。瑠璃の姿が現れ、叫ぶ。「やめなさい…私の楽園…!」


3.

鏡の破片が3人を攻撃する。悠真の腕をかすめ、血が滴る。美咲が悲鳴を上げ、佐藤が破片をナイフで弾く。「心を一つにしろ! アキラの意志に負けるな!」


悠真は目を閉じ、姉・彩花の声を振り切る。

「姉貴…俺は…お前を忘れない。でも、俺は生きる!」


美咲も叫ぶ。


「ごめん…過去は変えられない! でも、私は…今を生きる!」


佐藤が亮太の幻影に叫ぶ。


「亮太…俺は…お前を救えなかった。でも、俺は進む!」


3人の声が重なり、鏡が揺れる。アキラの叫び声が響く。「やめなさい…私の意志…!」


悠真はナイフを握り、祭壇に突き立てた。


「アキラ! 瑠璃! お前の楽園は終わりだ!」


美咲が瑠璃の血の瓶を手に、祭壇に注ぐ。


「瑠璃! 自由になっていいよ!」


佐藤がナイフを振り上げ、巨大な鏡に突き刺す。

「アキラ! お前の呪いは終わる!」


血が祭壇に吸い込まれ、符咒が光る。瑠璃の姿が揺れ、涙が落ちる。「私は…ただ…永遠を…求めただけ…」

アキラの影が叫ぶ。「私の意志…永遠…!」

突然、部屋が崩れ、光が溢れる。鏡が砕け、祭壇の染みが蒸発する。3人の視界が白く染まる。


4.

光が収まり、3人は洋館のリビングに倒れていた。時計は止まり、窓から朝日が差し込む。寝室の入り口に立つ鏡は、ひび割れている。瑠璃の声も、アキラの声も聞こえない。


「終わった…?」 美咲が震えながら呟く。

佐藤が腕の傷を押さえ、呟く。


「アキラの意志は断ち切った。瑠璃の魂も…解放されたはずだ」


悠真はひび割れた鏡を見た。ガラスは静かだが、微かに波打つ。「迷宮は…本当に閉じたのか?」


佐藤が日記を手に、ページをめくる。「創設者の魂は、鏡に宿っていた。アキラの名を呼び、血で封じた。儀式は…完成したはずだ」


だが、美咲が震えながら呟く。


「でも…何か…まだ感じる。気配が…」


悠真も頷く。

「そうだ。瑠璃の声は消えたけど…何か…まだここにいる」


突然、洋館の床が軋み、鏡のひびが広がる。微かなささやきが響く。「ゆうま…みさき…恭司…」


3人が凍りつく。声は瑠璃でもアキラでもない。無数の魂。迷宮に閉じ込められた、教団の信者たちの声。「私たち…まだ…ここに…」


鏡が光を放ち、暗い廊下が映る。無数の影が、ゆっくりと近づく。「あなたたち…私たちと…一緒に…」


5.

悠真はナイフを握り、叫んだ。「もう終わりだ! 迷宮は閉じた!」


佐藤が叫ぶ。「下がれ! まだ何か残っている!」

美咲が泣きながら叫ぶ。「もうやめて! 私たち、自由になりたい!」


突然、鏡が砕け、破片が床に散らばる。ささやきが止み、洋館が静まる。朝日が部屋を照らし、鏡のひびが消える。


「今度こそ…?」 美咲が震えながら呟く。

佐藤が呟く。「迷宮は閉じた。だが…代償は大きかった」


悠真は腕の傷を見た。血が止まり、傷は浅い。だが、心の傷は深い。彩花の記憶、瑠璃の涙、アキラの意志。全てが、胸に残る。


「俺たちは…生き延びた」 悠真が呟く。


美咲が頷き、涙を拭う。


「でも…瑠璃は…可哀想だった。彼女も、被害者だったんだ」


佐藤が日記を閉じ、呟く。


「教団の信者たちもだ。迷宮は、誰も救わなかった」


3人はリビングを後にし、洋館の玄関へ向かった。朝日が、ひび割れた窓を照らす。鏡は静かに立ち、ただのガラスに戻っていた。


だが、悠真が振り返ると、鏡の奥に一瞬、影が揺れた。無数の魂。教団の信者たち。瑠璃。そして、アキラ。


「ゆうま…ありがとう…」


微かなささやきが、風に消えた。

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