→13_step!_Re:Re:Re:「キミは何度でも三度目の正直と言う」
三度目の正直……いや、10188回目の正直。
シドはまたもや、転生で復活した。
「ッアアア!! ……あれ、なんで生きてるの?」
そして、思い出す。
「セイバーロード……?!」
死んではあの世へ行き、そして死に戻り、記憶喪失をして、また殺される。シドはコレを10188回繰り返しているのだから、神々からすればなんとも滑稽な光景だろう。
しかし、シャルドから見れば違う。
目の前で悲劇の少年が、自分のせいでセイバーロードに巻き込まれ、そして訳も分からず殺され続け、死のループを繰り返す。
彼女からすれば、それは地獄と言うに変わりはなかった。
「ッッ、あああああッ!!戻って、きましたッ!! ッ……けれどッ、でもッ、また!……またっ、救えなかった!!」
そして、シドも同じ事を思っていた。
目の前で謎の少女が、自分を護ろうと文字通り『必死』になっているというのに、自分の無力さが原因で殺される。
シドの精神はNOAHでの事も相まって既に限界を迎えている。だが、それでも『大切な人にもう一度逢いたい』という一つの強い思いが、シドを錯覚させていた。
「マスター、此処は危険です!!このままでは二人共々殺されてしまう!!」
ルートは先程とは変わらない。シャルドは燃える小屋からシドを背負い、前回のループと同じ様に窓から2人で脱出した。
幸い奇跡的に、シスターと遭遇せず、奇襲に遭う事はなかった。恐らくシスターの位置は前回と同じ。
ループモノというのに、ループの度に状況が同じと限らない『ランダム』というのは、あまりにクソゲー度が高い。
「──マスター! 質問があります!」
「質問……!?」
「マスターが目覚めて、その時に思い出した事を3つ! 教えて下さい!!」
恒例の『死罰』のチェック。コレがなければ、策なども立てれず、連携も取れずただ死ぬだけとなってしまう。
「3つ……あ!もしかして『シスターに奇襲で殺される』……えっと『無駄な事はせず、影でサポートに徹しろ』?……えーとあとは、────『戦え』……?」
前回のループで聞いたその言葉、それはシャルドの心を一瞬、激しく揺さぶった。
それはセイバーロードからのシドのメッセージだと言う事はすぐに分かった。
「っ……素敵です、マスター。…………ッ、あっあぁ、あぁっ、ますたぁの意思は、変わらなかった!! シャルドを救う為に、ここまで……ッ」
「どうしたの!?……もしかして、僕のせい?」
「……いえ、違いますよ……貴方のおかげです……!!」
「僕の、おかげ?」
シャルドは泣いた。一万回に及ぶ死の中で初めて泣いた。『自分だけが死のループを自覚している』という地獄で、今まで耐えて来た感情が爆発した。
「ええ!!そうですよ、貴方のおかげです…………そうですね、これが終わったら、一緒に旅をしましょう……!! 世界中を冒険して、色んな景色を見るんです。山でも、海でも、空でも、宇宙でも、もしくは世界の果てでも……!!『綺麗ですね』って言い合いながら色んな所で永遠に愛し合いましょう。そこで一緒に暮らして、シャルドがマスターに永遠の愛を誓うんです。『マスターの騎士に、お望みならばメイドにだって!私は……シャルドはマスターだけの何かになりたいんです!!……だから……マスターの騎士になっても……良いですか?』って……そしたらマスターが少し恥ずかしがりながら可愛くカッコよく元気に健気に光の様に希望の様にこう言うんです。『……うん!……大好きだよ、シャルド……!!』と。その瞬間に、曇っていた空は突然晴れて光が刺し、そして雨は止み、いつしかそこに虹が掛かるんです! 純白の鳩たちはシャルドたちを祝福する様に自由に平和に飛び、幸せの鐘の音が何処からか鳴り響いて聞こえてくるんです。シャルドはそんなロマンチックに感動して泣いていて、マスターが黄色いハンカチでシャルドの涙を拭って、そしてそのまま2人は永遠の口づけを交わして……ああっ、なんて私はっ!……シャルドは非常に『強欲』ですっ……///// ──そんな最高で最強で素敵な夢……これが、シャルドの夢なんです……!!」
溢れ出る乙女の妄想が、シドに前回のループの八つ当たりとして理不尽に襲いかかる。
それは世界で一番幸せな理不尽。
「え、ええ……? 君と僕って、さっき会ったばっかだよね!?……初対面のハズ、だよね……?」
困惑しながらも、ドン引きしながらも、シドは内心、この謎の少女と出会った事のある様な感覚に襲われていた。それはこの少女の夢を自分がどこかで叶えた様な、そんなデジャブの様な不思議な感覚だった。
「──はァ、やっと見つけたぜー……。ていうかなんで小屋に居なかったのかが気になるが……まーァいい!!」
シドがシャルドに困惑している刹那、炎しかない前方から狂人の声が聞こえた。
炎の中、人影がだんだんと此方に近づいて来る。先程までの絶妙にほのぼのとした雰囲気は一気に緊張し、空気が張り詰めた。
「んで、その最高で最強で愉快で素っ敵な結婚式をよー……」
「マスター、下がって下さい!」
二人は構え、息を飲んで炎を見つめる。
「オレがァッ!! ソレを取り仕切ってもいーかァッ?!」
人影の正体。炎の中から現れたのは、シスターと神父だった。
『殺される』。
突如、シドの脳裏に響いたその4文字。
その意味がこの状況を示している事に気づいた。
「──シスターに、殺される……!?」
そして同時に、セイバーロード内で考えたシドの策、及び目論みは成功した。
「『戦え』……──もしかして、それって!!?」
──『死罰』はしっかりと機能した。
「シャルド!!……だっけ? ──とにかく僕はどうすればいい!?」
「マスターはPSYで影が出せるハズです!!その影でシャルドのサポートを!!」
二つ目の『死罰』。
『無駄な事はせず、影でサポートに徹しろ』。
それがシドの脳裏に再度、響いた。
「了解!! ……だけど、それを出すにはどうしたら……!!?」
「必死に念じて下さい!!そうすれば必ず出るハズです!!」
そうしてシャルドの掌から顕現させたのは、光と闇の二本の大剣。華奢な身体でシャルドはそれを軽々と扱う。
「『聖剣』か……んで、二本なんだ? もしかして『勇者』のクセに、素行がわりーから分離したのかーァ!?」
「黙れ……!!!!」
一歩を踏み出すタイミングは、シスターのPSYを解除した瞬間だ。
「……準備はいーか?天国に送ってやるよォ…………制約と天罰だ!!──『動け』」
解除ではなかった。シスターが言ったのは『動け』という制約。
そしてそれにシャルドが即反応する。
「マスター!!今すぐ動いて下さい!!」
「分かった!!」
緊急性の高いシャルドの本能からの叫びに、シドは察した。
『それを守らなければ死ぬ』シドの本能もそう叫んでいた。
「ヒヒッ、いーねェ!!引っ掛からねーェじゃん!!」
「殺します……!!」
高速でシスターとシャルドの剣と剣がぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
「ッ、硬い……!!」
「は?ナニ言ってンだテメー……『硬い』って、完全じゃねーテメーの力が弱ェーだけだろ?レイピアも折れねえーんじゃーなァ……」
シスターの正論。……なのだが、大剣二本を軽々と扱うシャルドの力が弱いはずは無く、ただ単純に、シスターの力が異常なまでに強いだけ。
「お前はいつもそうやって!!シャルドの神経を苛立たせる……!!」
「は?ナニ言ってンだテメー……オレとテメーは初対面のハズだろ?…………あ、ああ、ああッ成程な!やっぱウワサ通りオマエ、──転生してンのかァ……!!」
「なッ!?」
その言葉はあまりにも衝撃だった。このシスターはシャルドの転生を知っていた。
あまりの衝撃の大きさに、後ろに大きく緊急回避する。
「おー、図星かァ?」
「黙れ!!」
そう叫んだ後、シャルドの脳内で疑問が錯綜した。
(何故、コイツがシャルドとマスターだけの秘密の転生の事を知っている……?)
「もしかして、オレが何なのか『転生』し過ぎて忘れちまったのかァ!?」
「!! 『異端審問官』か……ッ!!」
「正解だ。思い出したか?……テメーが教会から脱走なんかすっからァ、こうやってオレらが『勇者』を天国送りにすンだよォッ!!」
シャルドがシドに夢中になり過ぎて忘れていた当初の目的。
そしてシスターのオレらという発言で思い出した。
「『神父』がいない!?」
辺りを見渡すも見当たらない。
そして──刹那。
「…………ぉぅ」
「──シャルド!!後ろ!!」
「後ろ──ッ!?」
神父の黒いオーラの様なモノで出来た巨大な刀を、シャルドは寸前で避けた。
刀は地面に叩き付けられ、土や砂利と共に音を立てて飛び散る。
「──制約と天罰!!『動くンじゃねーッ』!!」
「またッ!? マスター!!止まって!!」
再度、シャルドの緊急性の高い叫び。
動いていたシドはそれを聞いてすぐに止まる。
「──『解除』ォッ、どこ見てンだァッ!?」
『解除』。その声と同時に両者が動き、シスターのレイピアでの突きがシャルドの服を掠めた。
シャルドがギリギリで避けようとしなければ、完全にアウトだった一撃。
「僕のPSYで、シャルドのサポートをしないと本当にヤバい……!!」
そんな光景を目の当たりにしたシドの脳内に何故か自然に浮かぶ、鮮明な死のイメージ。
それに加えて、シャルドとシスターの剣戟によって生み出される金属音はシドを少しずつ焦らせる。
シャルドが死ねば自分も死ぬ。自分が死ねばシャルドも死ぬ。
恐らく勇気を出して言ったであろう、あの『プロポーズ』も死んでしまえば意味が無い。その気持ちに全力で応えなくてはならない。
死んでしまったらラトにも逢えず、ベルにも逢えない。
──大切な人には、もう逢えない。
(ahoy!_☻)
──その時、感情は達した。
「はあッ、はあッ、──ッ、『虚影操作』ァァァァッッ!!!!」
「は?なんだアレ……──ッ!!?」
『感情の伝播』。シドの影から虚影が出た。
そして『虚影操作』と、ただ無意識に思い出した名前を叫ぶ。
その虚影はシスターに向かって伸び、一瞬でシスターの腹部を貫いた。
「グハッ……!! ヒヒッ、なんてなァッ!!効かね──」
「効かねーよ」と言おうとした瞬間、隙を与えずシスターの顔面は虚影で抉られた。
そして、シドの影から未だ無数に伸びる虚影を追うように一拍空いてシャルドの追撃が走る。2本の大剣の重量と、シャルドのスピードによって繰り広げられるその鮮やかな連撃は、シドの虚影と相まって一種の芸術となる。
しかし、シスターからは血は出ていない。
「…………ぅ。」
それは圧倒的存在感を放ちながら、顔色を全く変えず仁王立ちしている。シスターが斬られている箇所が、そのまま神父にダメージが行き、遠隔で大量の血飛沫を撒き散らす。
それは最早、人間では無い異常な反応のモノで、不気味という域を既に通り越して奇妙だ。
だが二人は気にせず、連撃を止めない。
「オーダ────」
ダメージを神父に肩代わりされているシスターは隙を見て叫ぼうとするが、シスターが能力を発動する隙なんて微塵も無い。
2人の思考には『隙を与えない』ただそれしかなかった。
「コレでシャルドはァッ!!マスターと『幸せ』を掴むッッ!!!!」
「僕は死ぬ訳にはいかないッ!!『大切な人』に逢わなきゃいけないんだあァァァッッ!!!!」
「は?何言ってン────」
願いを叫び、連鎖を断ち切る連撃。
この2人の脳内に『敗北』や『死』の文字なんて1つもない。思うはずが無い。何故ならこのまま押し切れば勝てるから。つまりは確実な勝利。
──『希望』しかない。
……シドは思わず、気が緩む。
と、──神の奇跡、隙が出来た。
シスターの確実な勝利は──『一瞬の隙を見逃さず、懐から銃を出し、銃口を向けて、引き金を引く』この簡単な一連の行為を一瞬でしてしまえば、実現できる。
そしてシスターは無慈悲にも銃口を向けた。たった5回、バァンという乾いた音は全ての希望を打ち破るようで、あまりに一瞬だった。
『希望』は一瞬にして『絶望』へと反転した。
そして立ち止まっているシドが簡単に撃ち抜かれる。銃弾は主に左肩付近へ被弾した。
「マスターァッ!?!?」
最愛のマスターが攻撃され、連撃は思わず止んでしまった。シャルドにもまた、隙が出来る。
この時、シャルドは何が起こったのか理解出来ていなかった。そもそもシャルドにとって銃は未知の武器、危険を危険と察知する事が出来なかった。
そして、撃たれたシドは痛みに耐えられず倒れる。
すると混乱しながらも、再度連撃をしようと構えるシャルドの懐へレイピアが潜り込み、シャルドは刺される。
「……ッァアアアッ!!!?」
「ヒヒッ、ヒャハハハ!!」
少女が叫び、狂人が笑う。それは形勢逆転した事による笑いか?それとも自身の尽きぬ加虐心がくすぐられた事による笑いか?とにかく狂人の笑いは尽きない。
歩きながらシスターは至近距離、少し脱力したシャルドの頭部に銃弾を淡々と一発。そうして倒れたシャルドを踏み越えシドの方向へ近づいて来る。
「ヒヒッ、テメーはどんな声で、鳴いてくれンだァー!?」
シドの真上で、レイピアが一色に光る。それは血が焦げ、赤みがかった黒。
その持ち主であるシスターの甲高い声は、シドの恐怖心を煽った。
そのレイピアは左肩へと接近し、ゆっくりとシドの左肩の穴にじっくりと入っていく。ゆっくり、じっくり、ゆっくり、じっくりとそして痛みは段々と鋭く、入っていくにつれて段々と熱く変化していく。
「ほい、グサッとー」
掛け声と共に、レイピアが肩を貫いた。
「いああああああああああッッッッ、あつ、いッッッッッッッッッッッッッ、がああああああああぁぁぁ……!!!!!!」
その拷問は止まらない。
だが拷問の趣旨などはない。
何も尋問などはせず、己の性欲を消化するだけの拷問。
コレにに、大した意味などは無い。
だが、シスターはそれを大義と偽る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ、いっ、だいいい……ッ!!!!」
「安心しろー? その痛さもテメーを天国に送る為だからー。 ほらァッ、だんだん、だんだん、気持ち良くなって来たダロ? ヒヒ、テメーの反応、マジで可愛すぎ……オイ、思わず濡れて来ちまったァ……ィヒヒッ、ヒハハハッ、アヒャヒャヒャッ!!!!」
──その大義とは『人を天国へ送る事』。
人の都合なんて微塵も知らない。人の歩んできたモノなんて微塵も関係ない。人を『天国に送る事』を代償に、人の『人生』そのもの全てを蹂躙する狂人、いや最早それは悪魔だった。
その悪魔の大罪とは『嫉妬』の反対──『人徳』。
天国に執着した挙句に嫉妬し、人を『天国に送る事』という歪みまくってイカれた『人徳』を積み、『人を弔った。だからいい事をした』と自身をも『天国』に至る為に殺人行為自体を正当化し、人を絶望の地獄へと堕とす悪魔だった。
「なァ……、エロガキ。テメーが『天国』に行く前によォ……オレの名前を記憶にィ……魂に焼き付けやがれェェ……!!」
「ああ……、やだ……死にたく、ない」
「ああッ、イイッ!! テメーは何処までもオレを興奮させてくれるゥ……!!」
シドとシャルドを1万回以上殺した悪魔の名。
悪魔はリロードしてからシドの左肩に銃弾を6発全てを発砲し切断して、悦楽とした表情で名前を叫んだ。
「ああああああああがああああ゛ああああああいああああああああああ゛ああああああがああああ゛ああがああああああああああああああああ゛あ゛あ゛ああ、ああっ、ああっ、が──」
「───テメーを天国送りにする『絶望』の名前ェッ!!」
「があああッ、ああああしぬっあが──」
「────オレは『セント・ジョージ十字聖教会』ッ!!」
「死にだく、死にだぐなあ゛あ゛ッ!!────」
「────『7人の異端審問官』の一人ィッ!!」
「あ゛あ゛ッ!!シャルドォッ!!!!────」
「────『人徳』のォッ、アビゲイル!!」
「その魂と身体と記憶にィ、ハッキリと刻みやがったかァ……? 気持ちよくイかせてやる……」
シドに跨り、顔面を殴って少年の耐え難い痛みに悶える反応を楽しむ事にアビゲイルは夢中だった。────しかし夢中が故に気づかない。
────背後に殺した筈の狂おしき天使がいる事に。
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