→12_step!_Re:Re:「足枷よ、戦え」
「……っ、!? 確かに、僕は死んだは、ず……ぅおぇっ……!!」
シドの意識が覚醒した。転生によって死に戻りしたのだ。
しかし、『死罰』がある。
あの空間で黒シャルド達と話した事はシドは一切覚えていない。
──だが、3つだけ覚えている事がある。それがシドの脳内に流れる。
「な、に?これ…… 僕は『シスターに、奇襲で殺された』?……そして『僕にPSYがある』……は、?『戦え』?」
シドにとっては、これらが一体なんの事なのか分からない。目の前で倒れている、手の甲に特徴的な痣がある少女も、一体誰なのか覚えていなかった。
しかし何故か、この身がデジャブの様に『経験した事がある』と必死に主張している。
なんとも不思議な感覚だった。
そして、ふと呟く。
それはゲームで謂う所の『ふっかつのじゅもん』。
「セイバー、ロード……?」
「っ、アアアッ!!……戻って、きましたッ!!」
シドが『セイバーロード』と呟くことによって、シャルドの意識が突如戻る。無限に経験した痛みや、死の感覚も、自分に課した使命も、全てを背負って挫けることなく、生き返る。
「今度こそは、絶対ッ、死なせないですッ!!」
そうしてシャルドは勢いよく立ち上がっては、シドの手を取り、身体を持ち上げて背負った。
そして小屋を扉からではなく窓から抜け、現在進行形で炎に焼かれている村の中を駆ける。
「え!? な、なな何!?」
「今すぐ逃げないと、2人共々死にます!! だから逃げるんです!!」
突然すぎる。だが、彼女の言うことには謎の説得力があった。
それは、これから何が起こるかを知っている様な口ぶりで。
「死ぬ!?逃げる!? 確かに、炎が、ゴホッゴホッ、ヤバいけどっ……、一体どこに!?」
「……マスターと、この世の果てまで! 一緒に、永遠に暮らしましょう!!……いずれは……、結婚も視野に……」
あまりにも突然の告白。『2人だけで燃え盛る村を駆けている』という現在の状況も相まって、よりロマンチックでインパクトのあるプロポーズとなる。
「え、初めて女の子に、ラト姉と会長以外に……まともな告白、されちゃった……」
だが、意味不明な告白でも、シドは腐っても中学生だった。こういったものにかなり弱い。
しかしそれでも、やはり状況が状況だった。その突然のプロポーズを演出してくれたはずの『状況』が、シドを現実へと引き戻した。
「いや冷静に、なんだ、この状況……??」
「──マスター! 質問があります!」
「な、なに……!?」
「マスターが目覚めて、その時に思い出した事を3つ! 教えて下さい!!」
シャルドからの『死罰』の確認。彼女は1万回を超えるループで、何故かどうやっても運命的に遭遇してしまうシスターと神父からは、どんなに逃げても逃げられないという事が分かった。
その為、このループでもいずれシスターと遭遇してしまうだろう。
そしてシスターと交戦し勝利し、1万回のループから逃れるには、シドが選んだ『死罰』がシャルドにとって必要不可欠な情報であった。
「3つ……? もしかして、『シスターに奇襲で殺された』『僕に謎のPSYがある』あとは……『戦え』……の事?」
「『戦え』……ですか。 あぁ……覚悟を、決めたのですね……。マスターの意思、しかと受け取りました!! ……シャルドは今、感激しています……っ!!」
彼女の顔からキラリと、風に乗って流れた。シドは彼女が泣いている事を察し、困惑した。いや、困惑するしか無かった。
「なんのこと!?」とシドは当然の答え。
『前回までの死に戻りの記憶』を忘れてしまったシドの困惑は余計深まるばかり……。だがしかし、1万回にわたる前回までのループを経て、達したシドの覚悟は、現在のシドに分からずとも、全てのループを記憶しているシャルドにはかなりの影響を与えた。
二人はそんな会話を経て、走る。
──しかしまた突然、声がした。
「──『オーダー』だ……オイ、動くな」
「ッ、!?」
前方から声がした途端、走るシャルドの足が止まる。
シドは「なんだろう?」と前方の炎を見た。揺らめく空気と炎の中に、2人の人影が見えた。
「シスター……!? 『シスターに、殺される』って……もしかして!?」
シドは理解した。そして同時にそれが現実になるのではないか、というさっきまでの不安が、最高値を記録する。
だが無慈悲にも、だんだんと人影は濃くなっていき、炎はより明瞭にそれを照らした。
「いーじゃねーか、テメーは偉い。制約を『守った』──けどなぁ、ンでテメェらは小屋ン中に居なかったンだ?……そのせいでよォ!手間かかったンだよォッ!!」
炎を掻き分け現れたのは、レイピアを持ったシスターと背の高い黒人の神父だった。
「さあどーすんだ?……殺るか? ゆーしゃサマよぉ……、待ってたんだぜ、運命を、テメーを天国に導く日をぉ……!?」
「……『勇者』、ですか…… その意味の無い称号の為に、沢山のシャルドが犠牲になった……ッ!!」
両者は対面する。しかしシドはどこか置いていかれている様で、またもや不安が最高値を更新した。
しかし不安が最高値を更新した要因はそれだけでは無かった。
「なんだ、アイツ……?」
「…………ュぅ」
それはシスターの背後で微動だにしない無言の神父。呼吸音以外に何も言葉を発さず、黒いサングラスには炎の赤が映り、特徴的なモノクロのドレッドは熱風で靡いていた。
──まるで、死体の様だ。
しかし、シドの不安を慰める様に、断ち切る様に、シャルドは鋭くも優しい声で、シドに話しかけた。
「早速ですがマスター、戦闘です。……申し訳ありませんが『影』を出す準備をして下さい。先制します」
「『影』……?」
「マスターのPSYです。強く念じれば出せるはずです……!!」
シャルドは何かを狙っている様だった。
この状況を打開、または戦闘を有利にする『策』を持っているかの様に。
そして両者、動かず沈黙の時間が暫く続いた。
「──……このまま炎で、どっちが早く死ぬか競ってもいいが……、でもつまんねーよな?……だから『解除』だ」
「マスター!!今です!!」
シスターは指を鳴らし何かを解除した。シャルドが叫んだという事は恐らくタイミングはココしかない。
しかし本当に出来るか分からない。それは正に賭けだった。シャルドの急な掛け声にシドは焦り、強く脳内でイメージをした。
「ッッ、やるしかないッ!!来いっ『影』ェェッ!!」
シドがそう叫んだ瞬間、何かが出た。それは黒く、磁性流体の様に粘性的な見た目の何かだった。
それは弾丸並の速度で、シスターに向かって飛んでいく。
「出た……、これが僕の……」
「──掴まってて下さい、マスター!!」
シドを背負いながらシャルドは突如、二つの大剣をそれぞれの手から顕現させて、影で死角を作り真っ直ぐシスターへ追撃に向かう。
「いーね!!……ンでも、ガキが邪魔なんだよ!!──オーダー!!『降りろ』」
「すみませんマスター!!今すぐ降りて下さい!!」
「ええッッ!? ちょっ、」
シャルドにそう言われ、シドは背中から『降りる』。──と言うよりはシャルドに『捨てられる』に近かった。
そうしてシドは思いっきり転ぶ。
「痛ったい……うぅ、ひ、酷い……」
仕方がないとは言え、少しシャルドに不満を漏らす。そしてシドは大剣と細剣が交わり、鉄の音が響く中で考えた。
「このPSYで何をどうする……!? どうしたらあの子──、シャルドをサポート出来る……!? 考えろ……!!」
安易に影をシスターに出してしまえば、シャルドの邪魔になりかねない。かと言ってこのサポートに適したPSYで何もしなければ、ただの無能になってしまう。
「──マスター!!シャルドは構いません!!思うがままに!!」
シドの思いを尊重する様に、シスターと激しく交戦しているシャルドがそう叫んだ。しかしそれにしても激しい闘いで、シドがギリギリ目で追える程度。
そんな闘いに素人が茶々を入れる隙など当然ゼロに等しかった。
それでもシャルドは「撃って下さい!!」と叫ぶ。
「……『シスターに殺される』『2人共々殺される』……つまり『打たないと死ぬ』……ラト姉ならどうする……? ラト姉なら──『助ける為には、迷わず打つ』!!」
──目標はシスターの足元。
そうして撃ったシドの影は狙い通り、シスターの足元を『掴む』。
「は……? ッ──!! ヤベっ、なんだコレッ!?」
「!! マスターの影が、『すり抜けない』!?」
それはシド以外の全ての思惑を凌駕した。
ループを経て、シドの能力を知っていたシャルドも、今まで見たことの無い事象に驚く。
「コレで隙が……!! ありがとうございますマスター!!」
ようやく出来た隙、この隙でシャルドはシスターを2本の大剣で斬った。
──筈だった。
「──バーカ!!痛くねーよ!!」
「なんでッ、手応えは確かにあったハズ……!? やはり、私が感じていた違和感は本当だった……ッ!!」
シスターの身体からは血が一切出ていない。それどころか、斬った痕跡すら見当たらなかった。
その異常事態にシドは辺りを見渡す。
「あれは──ッ!? シャルド!!アイツだ!!」
「──!? まさか、攻撃を代わりに引き受けている!?」
2人が見たのは、『神父』が顔色一つ変えず、腹部から大量の血が出ている姿を──見た。
「おーい! 隙、あり過ぎだろ!?」
「ッ、しまっ──!!」
「させないッ!!」
シドは思わず反射で走り出した。そして影を出す。
「バカかよ。──オーダーだ、『動くな』」
「ぁッ────」
シドの首が吹っ飛び、即死。
首のない死体は直立しながら、噴水の様に血を浴びた。その光景は、悪質なコメディ映画よりも滑稽な光景だ。
「あ、あぁ……また……っ マスターが!!ます──」
この世界は、絶望に打ちひしがれる希望の少女の声で──終わった。
◇
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「はぁ……『戻って来るな』と私はあれ程言ったハズです、是?」
「はい……すいません……」
「否、気にする必要はありません!!マスターは最善を尽くしました!!」
黒シャルドの冷たさと白シャルドの温かさが、同時にシドの心に突き刺さる。
「僕のせいだ……。なんであそこで動いたんだ、僕……シスターのPSYは完全に分かった訳では無かったけど、何となく勘づいていたハズだったのに……」
シドは5歳児の駄々を捏ねる時の様に、「アイツらの初見殺しズルすぎる!!」と言った後、ため息をついた。
しかし初見では無いが……。
「しかもです、是、マスター。貴方が終わらせたループはよりにもよって、シャルドが最高のタイミング、最高のシチュエーション、そしてやっと勇気を振り絞ってマスターに初めて告白したループなんです、是? なのに……貴方という人は……」
「ぐふっ……!」と声がした。
「確かに、あれはないです」と白シャルドが珍しく黒シャルドに同調し、初めてシドを言葉で刺した。
また「ぐふっ……!!?」と声がした。
「う、うわああああああああああごめんなさいいいいいいいいいい!!!!!!」
『ループの記憶が無い』とは言え、あれが素のシドなのだ。
無能で陰キャで厨二病で、そして異性に弱く童帝で頭も回らず、『それじゃあ体力は!?』と言えばそれすらよわよわ。
……何も出来ない。
「いや、ちょっ、でもさぁ!!今までで一番、良かったよね!?」
「まぁ、そうですね。……──否、そうですよ!!言われてみれば……!! あともう少しですよ、マスター!!」と褒める部分を見失っていた白シャルドは褒める部分を見つけて、褒める。
黒シャルドはため息をつきながら「……はぁ、マスターは呑気すぎます、是……」と、いつもの様に呆れた。
そしてシドは次のループに備えて、次の『死罰』の考察をする。
「1万回やってるけど、あのシスターのPSY……あそこまでハッキリとPSYを出したのは2回くらいなんだよね……」
他のループでは、いきなり奇襲してきて殺されたり、シャルドが先に死んでしまって、何も出来ず殺されたりなどで、ありえないと思うが、それで1万回死亡した。
──『シドが弱いから1万回死んだ』……とも言い換える事が出来る。
「でも、ようやく分かった!! あのシスターのPSY!!」
「で、どんなPSYなんですか……?」と黒シャルドが聞いた。
「あのシスターのPSYは多分だけど、『制約』だと思う。『動くな』とか言ってたし、実際それを破ったら死んだ。こっからは予想だけど『制約』が簡単な程、破った時の……えーとシスターだから、かっこいい言い方……そう!『天罰』が大きくなる!!」
「是。そうです、是マスター!!……まぁ、シャルドはもうとっくに気づいてますが……」
「うぅ、なんで言わないの……」
「否、確証が持てなかったからですよマスター!『ハッキリとPSYを出したのは2回くらい』とさっきマスターも言っていたじゃないですか!」
「ま、まあそうだけど……」とシドは呟き、再度考察する。
「……次のループで持っていく『死罰』だけど、今回のおかげで結構絞れた気がする!」
「否、どの記憶を持っていきますか!?」と白シャルドが問う。
「えーとねー、まずは……あ、そういえば僕のPSY……何故かすり抜けなかったんだよな……」
「……マスターのPSYの事ですか?」
「え、うん。何か知ってるの?」
少し沈黙してから白シャルドは答えた。
「……否、……正直に言うと『はい』知っています……。シャルドたちってほぼマスターの出す影と同じなので……」
「え!?!?!?早く言って!?!?!?僕『10187回』死んでるんですけど!?!?!?」
なんでもっと早く言ってくれなかったのか……?と、シドは「それを知ってればこんなに死なないで済んだのにー!!!!」と明らかに不満を漏らす。
「すまねぇです、是マスター。貴方に『死罰』というルールがある様に、セイバーロード支配人にもこっちなりのルールがあるんです、是マスター」
「否、そういう事です。ですが、シャルドはもうマスターには死んで欲しくないので、本当は教えてあげたい所ですが……教えると世界のルールに反して『矛盾』が起こって大変なので……すみません!!」
シドは『パラドックス』という映画やアニメなどで聞いた事のある単語が気になりつつも、「へー、支配人も意外と大変なんだなー……」と受け流した。
そして脱線した話を戻す。
「次の『死罰』だけど、一つ目は『シスターに奇襲で殺される』。これ、意外と役に立ったんだよね。あの状態でもこれから誰と戦うかが分かるから、奇襲も回避出来て、かつシスターに遭遇するまでがスムーズになる上、無駄死にするリスクを減らせる」
これが一つ目、『シスターに奇襲で殺される』。
そして二つ目……。
「是、是非二つ目を教えて下さい。マスター。」
「二つ目は『無駄な事はせず、影でサポートに徹しろ』。前回は僕がシャルドを守ろうとして死んだ。だからコレを次の僕に徹底させる」
これが二つ目、『無駄な事はせず、影でサポートに徹しろ』
そして最後の『死罰』……。
「否、そして最後はなんですか!!」
「最後は『戦え』。シャルドに『僕の戦う意思は変わってない』という事を伝えたいんだ。どうしてもシャルドを死のループから救いたい、あと僕ももう死ぬの嫌だし……!!」
シドの覚悟は1万回死亡しても変わらなかった。シャルドの告白を無為にしてはならないという意思も加わって、正に『最強』だ。
「マスターらしいです!!マスターは最高です!!かっこいいし可愛いです!!」
「分かりました、是。その覚悟が変わらないと言うのなら、何億回でも死んで下さいマスター!!」
「……それ、褒めてるの?」
黒シャルドの褒めてるのか分からない励ましに、シドは苦笑いするが、黒シャルドは「もちろんです、是」と笑った。
そして──。
「死んで来ます!!……死にたくないけど……」
「否、生きて下さい!!」
「是、メメントモリです、是!!」
白シャルドと黒シャルドが微笑みながら、シドは白い光に包まれた。
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あいことば セイバーロード
ぼうけんを さいかいする?
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