→11_step!_Re:「セイバークエスト!~勇者と魔王と希望への道~」
暗い闇の中、シドの意識は無かった。だが、強制的に脳内に情報が流し込まれる。未知への恐怖で叫びたいのに何故か無理やり心の平穏を保たれる。
そしてシドの視界に広がったのは教会の中の様な、白すぎる空間だった。
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◇
おお マスターよ!
しんでしまうとは なにごとですか!
しかたのない ひとですね。
マスターに もう いちど
きかいを あたえましょう!
たたかいで キズついたときは
すぐに わたしを たよって
キズをかいふくさせるのです。
ふたたび このようなことが
おこらないことを
シャルドは いのっています!
あいことば セイバーロード
ぼうけんを さいかいする?
YES ←
YES
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◇
──シドの意識が戻った先は、シスターに殺される前の燃え盛る小屋だった。シドは死から覚醒した後、そんなありえない状況に驚く。
「──ぁ、ぇッッ?!……ウグッ、おォえッ!!」
熱さに加え、異常な気持ち悪さ。シドは死を経験した。常人では一度しか経験出来ないはずの『死』を、シドは経験してしまった。
「死んだ……シスターにまた、殺された……はず、なのになんで!?……まだ、生きてる……!? さっきのは夢……? いや違う……確かに経験したはず……!!」
シドは困惑する。確かに死から来る痛みも寒さも、死ぬ間際の意識が遠のく感覚も全て、この身で感じたはずなのだ。
もう『死』を十分に堪能したはずなのだが、目の前のテーブルには先程と同じフルコースが並ばれていた。
「あ、さっきの……この子は、一体……?」
頭痛で頭を抱えた後、目の前の存在に気づいた。
その存在とは倒れている少女。それは先程と全く同じシチュエーションだった。
そして、理由は分からないが、その少女は何かメッセージを示している様だった。
だが、『何故分かったのか?』に対する根拠は何も無い。それは突然、シドの脳内に語りかけたのだ。
それは一つの意味不明な単語。
「……セイバー、ロード」
ふと、その単語が口に出た。シドはそれによって戻って来た事を思い出す。すると目の前に倒れている少女が、その言葉に反応する様にビクッと動いた。
「……──はっ、マスター!?……逃げ、ましょう!」
「え!? 何!? う、動いた!!?」
少女が目覚めて、焦った様に立ち上がる。黒髪はその勢いで揺れ、グレーの瞳からは真剣さが伝わった。
シドは驚いて尻餅をつくが、少女はシドに右手を差し伸べた。その右手の甲には仄かに黄金に光る、タトゥーとはまた違う人工的な痣があった。
「あ、ありがとう……」
「ええ! 構いませんよ!」と少女は優しく微笑んだ。
そうしてシドは立ち上がる過程で、もう一度、グレーの瞳を見た。瞳の奥には真剣ながらも、どこか優しく、何か特別な感情を感じた。
それはまるで、シドと何度も会って、シドと共に苦難や修羅場を何度も潜り抜けた様な表情と、妙な説得力を作り上げていた。
「誰か分かんないけどっ!!……確かに、この状況は……!! でも、どうやって?!」
先程と、ほぼ同じ状況。
本当にこの窮地を脱する事が出来るのか?
またあの狂気のシスターと神父に殺される?
そんな不安が先程の感覚をまた思い出させてしまい、吐き気が再度、シドを襲う。
「マスター!大丈夫ですか?!」
「ぅぅ……あぁ、うん、大丈夫……君は一体……?」
「私の名前はシャルドです!そんな事より早く!!」
シャルドと名乗る少女はどうやら一方的に、シドを知っている様だった。
「……──分かった……!」
先程から「逃げましょう!」と言う為、シドは素直に従い、立ち上がった後に、小屋の外に出る。するとドアの前に立っていたシスターと鉢合わせ、そして刺される。
「あ、!?」
「おいおい何モンだ?このガキ……」
言葉にならない程の痛みがシドを襲う。そして願った。──「これは夢だ」と。
「っ、マスター!!?」
「お前がゆーしゃかァ!!……いーぜ導ーてやるよォ……『オーダー』ァァッ!!!!……動くンじゃねー!!」
失血多量で薄れ行く意識、薄れ行く視界で、『シャルド』の首が吹っ飛ぶのが見えた。狂人はただ突っ立っているだけ。
しかし、何も出来ず無力。視界はそのまま、黒く落ちる。
──シドはまた殺されてしまった!
◇
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「──はぁ、マスター……流石に死に過ぎです、是? まるでシャルドを縛る足枷じゃねーですか……」
「──否、3つしか覚えられない中マスターは『文字通り』必死に頑張っているんです!あなたは黙ってて下さい!!」
シャルドと同じ声が二つ、白すぎる空間で響き渡った。そして脳内に『前回までのループ』に関する全ての情報が流し込まれる。その空間、及び教会でシドは全てを思い出した。
「あっ!……ああそうか、僕はまた……無力、だった」
「おー、マスターが思い出しやがりました!」
その声の主は、選択を迫られた時に脳内に出現する天使と悪魔の様な2人。
少し悪びれながらシドを『マスター』と呼び、『ですます口調』に『是』という絶対に相容れない、違和感まみれで取って付けた様な語尾の《《黒い出で立ちのシャルド》》。普通のシャルドより言動に少しトゲがある為、シドは彼女を『黒シャルド』と呼んでいる。
また、天使と悪魔に当てはめるのなら、間違い無く『悪魔』なのが彼女だ。
「否、マスター!今度の『死罰』はどれにしますか?! 次のループで覚えておきたい事を3つだけ言って下さい!」
そしてシドに明るく優しく話しかけるのは、『否』が口癖の白い出で立ちのシャルド。普通のシャルドよりもシドを全肯定してくれるので、シドは『白シャルド』と呼んでいるのが彼女だ。
また、天使と悪魔に当てはめるのなら、間違い無く『天使』なのが彼女だ。
「んで、どうするんですかマスター!?行くなら早く行ってくださいよ!そしてもう|ココには来ねぇでください《死なねぇでください》!」
まるで『シャルドの心情を表した天使と悪魔』の様な2人はこの白い教会、シャルドのPSYである『転生』の管理者兼、能力を使用する人を案内するアシスタントだ。
「ちょっ、ちょっと待って!一旦整理したい!」
だが思い出したとは言え、まだ心の整理が着いていない。そして一体どうすればこの『死のループ』から抜け出せるのかが分からない。
「セーブポイントは、何故か前回で変更されたから……、クソっ! 僕の記憶が、ラト姉とベルとの大切な記憶が、全部ウソだったなんて、どうして……っ!!」
「可哀想なマスター……、しかもその『事実』を死ぬ度に言い渡されるなんて……シャルド、見てられません……!!」
白シャルドはトラウマを思い出したシドを優しく労る。しかし黒シャルドは不機嫌そうな顔をした。
「まぁ、マスターも可哀想ですが、シャルドも充分可哀想です、是? 無能なマスターのせいで、どんなに助けようとしても殺されるんです、是。 しかもマスターと違って『死罰』のペナルティがねぇです。つまり死んだ時の記憶を失うこと無く共有しています、是」
黒シャルドがシドを『無能』と言った瞬間、白シャルドの表情の雰囲気が変わる。
シドはいつも優しい白シャルドが初めて見せた怒り、威圧的かつ圧倒的に強い魔素を纏ったオーラに驚いた。
「否、今すぐ、撤回して下さい……!! マスターは必死に頑張っているんです!! 『死のループ』を完全に記憶しているシャルド達を救おうとして!!」
白シャルドがシドを擁護した。そしてシドはしばらく俯き、沈黙した。
「……いいんだ白シャルド、僕は確かに『無能』だ……。でも!そうだったとしても!! 理由は分からないけど、自分の命を犠牲にしてでも、僕を必死に助けようとしてくれているシャルドを!! 僕は……助けたいんだ!!」
何度目かのループを重ね、決意した思いはとても強かった。しかし、この『転生』には『死罰』という『《《死亡したら次のループでは3つの事柄しか覚えられない》》』というデメリットがある為、次のループではこの決意すら忘れてしまう。
「マスター、その決意は認めてやります、是。しかし、どうやってループ直後のリスポーンキル。初っ端から窮地ってのにあの状況を打開するんです? もう『策』なんてどうせねぇですよね? だってもう"10186回"も死んでんだ是」
「──え?10186回……って、言った?」
黒シャルドから告げられたのは、シドの『死亡回数』。それはシドが産まれて過ごした唯一の日常の背景で、『自身が見知らぬ死を遂げている』という事実を意味していた。
その事実は『シド』という存在の全てを否定しており、彼の心を二つに折った。
「……ぁあ、僕の記憶は偽りで……! 僕が生きてきた1週間さえも……死ぬ為に生きてきた……!?」
辛い。悲しい。絶望に満ちている。だが、この状況に向き合わなければ、希望は見えない。
そして、シャルドを助ける為には、それは必要な事。
「……策はもう尽きてる。逃げようとしても、村に放たれた炎が邪魔をして、どうしてもアイツらに遭遇してしまう。シャルドと一緒に戦おうとしても、勝てなかった……あのシスターが強すぎる」
思い返せば様々な死に方をした。シャルドを守ろうとして刺され、炎に焼かれ、心臓を貫かれ、首は吹っ飛び、逃げても見つかり、炎が逃げ道を阻み、追いつかれ殺される。
「というか、あの状況で『策』なんて思い浮かぶ訳が無い。今『策』を考えたとしても『どうやって死んだか』『殺された相手』『自分に影の様な謎のPSYがある』この3つの重要な死罰にリソースを割いているから、上手くいくか分からない『策』なんていう不確定要素にリソースを今更割けない……!」
そして出た、シドの結論は──
「戦う、しか……ない……っ」
「正気でいやがりますか!?」
「本気ですか!?」
策も何も無い事に、2人のシャルドは「とうとう死に過ぎて私達のマスターがおかしくなった」と言う様に、同時に驚いた。
だが2人のシャルドの驚きは間違ってはいない。シドは既に、度重なる死と出来事によりイカれていた。
「ちょっ、その本心を聞かせてくれないです、是」
「まず……僕は、無力だ」
シドがこの結論に至った要因。1つはシドの頭ではこの空間でどれだけ時間を使っても結局『策』なんて思い付かない。
「……あと、僕の影の能力」
そして2つ目は、シドが忘れていた『謎のPSY』。『謎の影を操る』という能力という事は幾度かのループで判明したが、まだ沢山の性質がありそうだった。なのでこれがどういった能力なのかは、正確には分からない。だが、期待値は高い。
「……僕が弱いなら、シャルドを頼ればいい」
そして3つ目、『シャルドの戦闘力』。シドがループを繰り返していく中で、思い出した事があった。
それは『シャルドはものすごく強い』という事。シドが見た限りでは、本来は1人1個の筈のPSYを、シャルドは複数のPSYで、どのループでもシスターと神父に善戦していた。しかも一人で、だ。
「あとは試行回数を稼ぐ、だけ……その結果が、『10186回』……か、……ッ!!どうすればいい!! シャルドを助けるには!?」
『あとは試行回数を稼ぐだけ』と思ったシドだったが、ここに来て『10186回』という事実が決意の邪魔をする。
「ぁ──ラト姉だったら、どうしているんだろうか?」
ふと、自身が目指す『理想』の姿が頭に浮かぶ。《《偽り》》の記憶だったとしても、その記憶の中で見た憧れの背中、姉に対するシドの思いは真実だった。
「っ……ラト姉っ……!! 会いたいよぉ……!!」
「子供っぽく泣かねぇで下さいマスター、これからマスターは戦うんです、是?」
「否、マスター。シャルド《《達》》が付いてます!どんなに死んでも励ましてあげますよ!」
その白シャルドのシドへの励ましに黒シャルドは「それはねぇ是……」と言った感じで、もうシドには死んで欲しくない様子だった。
「……ラト姉だったら、こんな時は──」
シドの決意は確固たるモノへ──。
「笑って立ち向かってるハズ!!」
「その意気です、是マスター!!」
「否、頑張ってください!」
現在、シドの心情はグチャグチャだった。
自身が『生後1週間のクローン』と告げられ、今までの思い出は全て偽りだった事が分かり、母親代わりや恩師は目の前で殺され、訳の分からない場所に転移して、挙句の果てには、そこで瞬殺される。
「こんな事言ったけどやっぱり辛いよ…………でも、生きてる。まぁいっぱい死んでるんだけどね……。でも『命以外』は大丈夫、精神とかは折れてないし、死んでない。ラト姉のおかげだ!!」
それを中学生が背負っている。何故か、背負い切れている、だが本当はもう限界なのかもしれない。
コレを小説として出版したら、きっとベストセラー間違いなしだろう。
「よし!一か八か!それを『無限』に繰り返せば、どんなに『最弱』でも、『最強』だよね!」
ぼうけんを さいかいする?
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そうして少年は、少女と共に、10186回の『セイバーロード』を再度、歩き出した。
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