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第1話 引きこもり高校生、異世界に悪役転生する

 俺の名前は長嶺(ながみね)(あかつき)

 高校に通ってすらいない、名ばかりの高校2年生だ。

 ひきこもりもだいぶ板についてきた。


 俺はそもそも、小学校高学年の頃から、ろくに学校に通っていなかった。

 筋金入りのひきこもりだ。


 いろいろあって、俺の心はおかしくなってしまったのだ。


 俺がおかしくなった原因。

 それは主に俺の義妹(いもうと)長嶺(ながみね)日音(ひおん)にある。


 正確には俺たち兄妹の父親かもしれないが、今となってはどうでもいい話だ。


 なにせ、あれだけ憎かった父親は、既に天国に勝ち逃げしてしまい――


 たった一人の可愛い義妹(いもうと)は、今、俺を巻き込んで自殺しようとしているのだから――


「――ッ! ――――!!」


 俺と、日音が暮らしている家のリビング。


 そこで今、俺のお腹には、深々と彼女が突き刺した包丁が突き立っていた。

 義妹(いもうと)の自殺を止めようとしたら、うっかり刺さってしまったのだ。

 やってしまった。


「――――ッ!! ――ッ!!」


 義妹(いもうと)は、泣きながら、何かを必死に叫んでいる。


 ああ、なんでこんな事になったんだっけ――


「――――――ッ!!!」


 全力で叫ぶ、血まみれの美少女。


 そこで、俺の記憶は途切れた。

 おそらくは、俺の命も。


 ああ――


 もし来世があるなら――


 これよりはもっとマシな人生を送りたいな――





 *****





 ――夢を見ていた。


 俺の人生を一から振り返るような夢だった。





 俺の人生を語る上で外すことができないのが、あの忌々しき父親である。


 俺の父親は長嶺(ながみね)空征(くうせい)という、世界的画家だ。


 俺もその流れで、自然と絵画という分野に触れ、その無限の可能性に惚れ込む事になった。


 当時、父親は、絵画教室をやっていた。


 本当に才能のある子どもだけを集めた、本格派の教室だ。


 幼馴染の少女、水沢(みずさわ)月那(つきな)とも、絵画教室で出会った。


 月那も俺も、絵画の才能は一流といっていいものだった。


 幼い頃は、お互いに切磋琢磨しながら、本当に楽しく、充実した日々を送っていた。


 だが問題だったのは――

 後に父親が施設から拾ってきた少女、長嶺(ながみね)日音(ひおん)が、規格外の超一流だった事だ。


 父親は、自らの唯一の弟子として、実の息子である俺より、拾ってきた日音を選び、それを公言した。


 そして日音に画家として羽ばたく環境を与えるためだけに東京に引っ越しを決める。

 

 俺は弟子として選ばれなかった衝撃の中、月那とも離れ離れになり――


 絵画を捨てひきこもりになったのだった――





「……ぼっちゃま……おぼっちゃま……起きてください」


 夢うつつの意識の中、何者かに身体をゆすられている。


「うーん……」


 ぼんやりとまどろんだ意識が、徐々に覚醒へと向かっていく。


 いつも使っているより、ずっと柔らかく広いベッドの感触が全身を包み込んでいる。


 ここは、どこだ……?


 目を開けて、状況を確かめないと……


 ――いや、俺は知っている。


 今、俺の記憶の中に、何者かの記憶が混ざってきていた。


 侯爵の家に生まれ、才能を浪費し続け、人に嫌われ生きてきた少年の記憶。 

 (侯爵……?)

 そんな時代錯誤な言葉、いまどきファンタジー物語くらいでしか聞かないが……


 (いや違う……この世界は……)


 今は自分の名となった、貴族の少年の名を思い出して、嫌な予感がした。


 少年の名は、サルヴァ・サリュ。


 この名前は、俺が知っているとあるRPGの登場人物と一致する。


 もしかして、この世界は……


 『デウス』の世界なんじゃないか?





 *****





 かつて遊んだRPGに、『デウス』というシリーズがあった。

 全6部作の、今時珍しい超大作RPG。


 俺は10歳の時、その1作目を義妹と幼馴染の少女と一緒に3人で遊んだ。

 それ以降も、新作が発売されるたびに3人で一緒に遊んでいた。3作目までは。


 3作目でその流れが止まったのは、俺と義妹、日音が引っ越したのが主な理由だ。

 引っ越しで、幼馴染と離れ離れになった。


 引っ越しの原因はさっき夢で見た通り、父親と日音である。

 俺は盛大に荒れて、そのまま引きこもりになった。

 義妹との仲は、修復不可能になったかに見えた。


 俺は、引きこもりながら、4作目以降のデウスシリーズを一人で遊んだ。

 だが、それでよかったのかもしれない。


 シリーズにおいて3作目までは、主人公とヒロインは純粋に愛を深めていく。

 そして二人は、3作目でついに告白して付き合う、という所まで辿り着く。

 幼心に、あの濃厚なキスシーンにはドキドキしたものだ。


 だがデウスシリーズは、4作目において、話の流れを大きく変える。


 1作目から同じ冒険者学校のライバルとして登場する、どこかの大泥棒のようなサル顔の悪役、サルヴァ・サリュ。


 当初から様々な悪事に絡んでいたサルヴァは、嫌われ者でお馴染みだった。

 このサルヴァは、4作目で秘密結社〈円環の唄〉に入り、本格的に悪役となる。


 ネットユーザーの間では「クソサル」という通り名でお馴染みだったサルヴァ。

 彼がガチの悪役になっていく展開は、ユーザーの予想を大きく超えていた。

 

 4作目以降のサルヴァは、ボスとしてもかなり強く、何よりウザかった。


 だがそれだけなら、まだユーザーも怒り狂いはしなかっただろう。


 問題なのは5作目だった。

 5作目において、サルヴァは主人公と恋人だったヒロイン、シエルを寝取る。

 当然、ユーザーは阿鼻叫喚である。


 さらに、サルヴァの目当ては、ヒロインシエルとの恋ではなく――

 シエルが秘めた、女神の力だった。


 サルヴァは、シエルを殺し、女神の力を奪って最凶最悪のラスボスになる。


 発売当時14歳の俺は、この展開を目の当たりにし、絶望してモニターを叩き割った。


 無理もない。

 なにせシエルはとんでもない美少女だ。

 思春期の俺の心を鷲摑みにしていたといってもいい。


 だから俺のデウスシリーズの正確な知識は、5作目の途中までで止まっている。


 その後読んだネタバレによれば最終作でサルヴァは主人公にボロ雑巾のように殺されるらしい。

 だがサルヴァの持つ女神の力は、主人公をも巻き込んで殺してしまう。


 そして最後は、主人公の事が好きだったとある秘密結社の少女が、世界ごと巻き込んで女神を滅ぼす。

 そうして少女が世界を巻き込んだ壮大な自殺をして、物語は終わるのだ。


 そう、この〈デウス〉世界は、6部作の大作としては驚くべき事に――

 なんと、正真正銘のバッドエンドなのである!


 だが俺の記憶の中では、まだ俺の可愛いシエルは主人公と付き合ったままだ。

 二人は幸せな恋愛を楽しんでいるだけだった。

 それが俺の救いだった。


 だからこそ――だからこそだ。

 正直言って、「いくらなんでもこれはないだろう」と言いたい。


 異世界に転生するというところまではいい。


 チート、ハーレム、上等だろう。


 だが、よりによって――


 よりによって、あの「クソサル」に、サルヴァ・サリュに転生するなんて!





 *****





 ――決めた。


 俺は、自分の状況と、運命を悟った時、こう決めていた。


 主人公に殺されてしまうなんて嫌だ。


 世界が滅んでしまうのはもっと嫌だ。


 だから「俺はハッピーエンドを目指そう」と。


 幸い、俺には5作目までのゲーム知識がある。


 ゲーム知識チート、一回でいいからしてみたかったんだよな。


 俺はこのゲーム知識で、最強になり、ハッピーエンドを目指す……!





 だがこの後俺が思い知るのは――

 

 人生が、えてして思い通りにはいかないものだという事だった――

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